『クルエラ』は悪役(ヴィラン)なのに応援したくなる、楽しく溌溂とした女性の成長物語!

『クルエラ』
5月27日(木)より映画館でロードショー &28日(金)よりディズニープラス プレミア アクセス公開(プレミア アクセスは追加支払いが必要です)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/cruella.html

 ウォルト・ディズニー・カンパニーが生み出した作品はどれも確固たる世界観に根差している。アニメーションでも実写でも、見る者に深い感動を与えるのはつくりだした世界、キャラクター、ストーリーが練り込まれているからに他ならない。映画の骨格がしっかりしているといえばいいか。だからこそアニメーションが実写化されても成功するのだし、その作品の脇の登場人物を主役に据えたスピンオフ的作品も大いに話題になる。それほどディズニー作品は幅広く浸透しているのだ。

 ここに登場する『クルエラ』は、1961年の名作アニメーション『101匹わんちゃん』に登場した恐ろしい悪役(ヴィラン)のクルエラを主人公にした実写映画である。とるものもとりあえず、ディズニーの試写会に馳せ参じた。

 ところで、ヴィランを主人公にした作品といえば『眠れる森の美女』のヴィランを主人公に据えた『マレフィセント』がまず頭に浮かぶが、本作はもっとヴィヴィッドな成長物語に仕上がっている。母を失った少女エステラがいかにしてファッショナブルで復讐心に満ちたクルエラに変貌していったかが、ヴィヴィッドかつ痛快に描かれる。

 ストーリー化に当たっては『プラダを着た悪魔』のアライン・ブロッシュ・マッケンナや『ウォルト・ディズニーの約束』のケリー・マーセル、俳優として活動するスティーヴ・ジシスが知恵を絞り、『ベガスの恋に勝つルール』のデイナ・フォックスと『女王陛下のお気に入り』のトニー・マクナマラが脚本に仕上げた。

 なにより嬉しいのは監督にクレイグ・ギレスピーが起用されたことだ。ギレスピーは『ラースと、その彼女』というコメディで注目され、ホラーの『フライトナイト/恐怖の夜』、感動スポーツドラマ『ミリオンダラー・アーム』、さらには実録海洋サスペンス『ザ・ブリザード』と、多彩なジャンルに挑戦したオーストラリア出身の監督だ。本作の起用は彼の前作『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』が評価されたに違いない。この作品で彼は実在のフィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの犯罪に至る半生を、ブラックなユーモアを散りばめながら歯切れよく描き出していた。ヴィラン的な女性キャラクターを痛快に浮かび上がらせ、共感を滲ませるにはぴったりの才能だ。

 ましてクルエラ役は『ラ・ラ・ランド』のヒロインでアカデミー主演女優賞に輝いたエマ・ストーンで、クルエラの前に立ち塞がるバロネスは『ハワーズ・エンド』でアカデミー主演女優賞を手中に収めたイギリスの名女優エマ・トンプソンとくるから応えられない。

 さらに脇を固めるのが多彩な俳優たちだ。イギリス、アメリカを股にかけてステージ、テレビで活動するジョエル・フライ。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』や』『リチャード・ジュエル』で怪演をみせたポール・ウォルター・ハウザーに『キングスマン』シリーズのマーク・ストロングなど個性派が揃っている。

 1970年代のロンドン。シングルマザーの母をある事件で失い、たったひとりになった少女エステラは、ロンドンで気のいいストリートキッズのジャスパーとホーレスと出会い、2匹の犬を連れて盗み稼業で日々を送り、成長した。

 盗みを続けながらも、ファッション・デザイナーになりたいエステラは名門デパートに潜り込み、ふとしたことでカリスマ・デザイナー、バロネスにセンスを買われて雇われる。バロネスの仮借ない仕事ぶりに付き合ううちに、エステラはバロネスとの過去を知り、復讐を誓って、別な貌、冷酷なクルエラに変わっていく――。

 ギレスピーの軽快な語り口に乗って、ヒロインの弾けたキャラクターが痛快に浮き彫りにされていく。仲間意識で結ばれたジャスパーとホーレスを従えて、あくまで夢に向かって突き進むエステラはヴィランといっても愛すべき、共感しうる存在。彼女がクルエラとしての冷酷さを身に着けて“絶対悪”と呼べる相手に向かって戦いを挑む展開も見る者が共感しうる設定となっている。

 もちろん、クルエラになってからの胸のすく活躍ぶりも十分にメリハリが効いている。ギレスピーの愛すべきヴィラン描写は本作でさらに際立ち、見る者を惹きつける。その功績はヒロインを演じたエマ・ストーンの可憐さ、溌溂とした魅力に負うところが大きい。なるほどストーンが製作総指揮に名を連ねたことも分かる。このキャラクターは『ラ・ラ・ランド』の次のステップを目指す彼女にピッタリとはまっている。

 ストーンの魅力を引き出したのは、ひとえにバロネス役のエマ・トンプソンの存在感にある。今まで演じてきた人間味豊かなキャラクターとは一線を画し、どこまでも非情、冷酷。美しくメイクされ、豪華な衣装を身にまとい、どこまでも唯我独尊。こういう役の引き出しもあるところが名優の証だ。

 加えてジャスパー役のジョエル・フライ、ホーレス役のポール・ウォルター・ハウザーが絶妙のコミカルロールで作品を明るくする。胡散臭いのに憎めないキャラクターを抜群の味わいで演じ切ってみせる。

 なによりギレスビーはイメージにある1970年代ロンドンを活写してみせた。実際の雰囲気よりも小汚くないパンキッシュな若者世界。当時を知る者としてはアニマルズからゾンビーズ、ローリング・ストーンズをはじめとするカリスマたちの名曲に胸が熱くなった。

 ヴィランなのに応援したくなる。エマ・ストーンに拍手を送りつつ、続編などを楽しみにしたくなる。