『AVA/エヴァ』はジェシカ・チャスティンが暗殺者に扮したユニークでスリリングなアクション快作!

『AVA/エヴァ』
4月16日(金)より、新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン他全国ロードショー
配給:クロックワークス
©2020 Eve Nevada, LLC. 
公式サイト:https://klockworx-v.com/ava/

「美しき暗殺者」というフレーズはリュック・ベッソン作品『ニキータ』の頃から幾つもあって、数多くのグラマラスなクールビューティがアクションに挑んできた。そのすべてが成功したわけではないが、ヴィジュアル・インパクトの強さゆえに途切れることはない。

 本作は、ただ単にハードなアクションだけを売り物にしているわけではない。トレーラーではアクション・ヒロインぶりを前面に押し出しているが、家族の葛藤を軸とした過去と向き合うストーリー。いわば女性がひとりで生きてきた代償に折り合いをつける展開と、アクションが融合した内容になっている。

 だからこそ『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』や『ツリー・オブ・ライフ』、『ゼロ・ダーク・サーティ』に『女神の見えざる手』など、数々の問題作で個性を発揮したジェシカ・チャスティンが、主演のみならず製作も引き受けたのだ。

 当初、本作は脚本を書いたマシュー・ニュートンが監督を担当することになっていたが、ニュートンが不祥事から監督を降り、チャスティンと仲のいい『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』のテイト・テイラーが担当することになった。テイラーは『ガール・オン・ザ・トレイン』を手がけたことでも分かるように、女性の気持ちに寄り添った演出で知られている。アクションに加えて巧みに女性映画の要素を焼きつける。まことにユニークな味わいとなった。

 しかも出演者が豪華だ。ラッパーとして人気を博し、俳優としても『THE INFORMER/三秒間の死角』など多くの作品を誇るコモンを筆頭に、映画デビュー作『プレイス・イン・ザ・ハート』から強烈な存在感をみせていたジョン・マルコヴィッチ、『マイアミ・バイス』のコリン・ファレル。さらに『偶然の旅行者』や『テルマ&ルイーズ』で演技を称えられ、『ロング・キス・グッドナイト』ではアクションもこなしてみせたジーナ・デイヴィス、『ラストエンペラー』のジョアン・チェンまで多士済々。いずれも強烈な個性でチャスティンを支えている。

 完璧な知性と容姿、圧倒的な戦闘能力を誇るエヴァは命じられるままに暗殺を繰り返していたが、殺す前に「あなたはなぜ殺されるの?」と尋ねずにはいられなかった。

 この問答を組織の上層部は危険な兆候とみなしていた。エヴァの師であるデュークが庇っていたが、組織の不信は増大していた。

 次の潜入任務で、エヴァは組織から事前に与えられていた重要な情報に誤りがあることに気づく。エヴァの正体に気づいた敵と熾烈な銃撃戦になってしまう。

 辛くも生き延びたエヴァは、自分を陥れようとしている存在を疑い、故郷に戻る決断をする。半ば捨てた故郷には忌まわしい過去の記憶が詰まっていた。

 かつて愛した男は妹の愛人となっていたし、非道な父によって遠ざけられた母親は身体を壊していた。エヴァはかつてドラッグと酒に浸っていた若い頃の自分と対峙し、妹、かつての恋人、母との関係に向き合おうとする。

 組織はエヴァの粛清を実行に移そうとする。そのために邪魔なデュークを片づけ、エヴァに迫った――。

 冒頭、車で出迎えた標的をスタイリッシュに片づける。その手際の良さはお約束とはいいながら、惚れ惚れする。彼女を監視する存在をさりげなく知らしめながら、流れるようにエヴァの仕事ぶりを紡ぎ、見る者をグイと惹きこんでいく。

 さらに次の任務ではまさにクライマックス級の一大銃撃戦。単身で多数の男たちを倒していく趣向は殺陣のみごとさで緊迫感を殺がずに一気に加速する。これまでアクション・ヒロインのイメージのないジェシカ・チャスティンだが、きびきびとした動きと銃火器の慣れた操作で、人間凶器としての凄味を発散している。クールな彼女の表情が素早い彼女の動作と呼応しまさに完璧な殺人者ぶりといいたくなる。

 だが、これだけではチャスティンの真骨頂とはいえない。見どころはエヴァが故郷に帰ってからだ。とりわけ母親に扮したジーナ・デイヴィスとの会話のシーンはまさに丁々発止の演技合戦。母を想う娘の気持ちと、娘を遠ざけてしまった母の悔い。ふたりの気持ちがこのシーンに凝縮されている。『ロング・キス・グッドナイト』などでアクション・ヒロインの経歴があるデイヴィスに、さりげない目配せも用意されているのも微笑ましい。

 テイト・テイラーの演出はアクション趣向にメリハリを利かせる一方、ドラマ部分では細やかな演出と温もりを忘れない。コモン扮するかつての男に、今も抱いているエヴァの強い愛情を、テイラーはちょっとした描写に浮かび上がらせる。これもまた、帰するところ家族の絆を紡いだ作品ということになるか。

 もちろん、ドラマ部分を挟んでクライマックスはエヴァの生命賭けの戦い。最強の刺客との戦いは最後の最後まで予断を許さない。

 出演者も適演。デューク役のジョン・マルコヴィッチはいかにもの師匠役を気持ちよさそうに演じれば、コリン・ファレルはエヴァに立ち塞がる刺客役。おまけにジョアン・チェンは場末に蠢く裏社会のボスとくる。それぞれがみごとにツボにはまった。

 アクション映画ファンには思わずニヤリとさせられる趣向と、母や妹に対する細やかな愛情の詰まった女性映画の貌をもある作品。一見に値する仕上がりだ。