『ホーム・アローン』シリーズのマコーレー・カルキンや『シックス・センス』のハーレイ・ジョエル・オスメントなどの例を挙げるまでもなく、子役で人気を博すると、成長してからの歩み方が難しい。子役時代の作品のイメージが鮮烈に焼き付いてしまうからだ。
いずれも超大ヒットとなった『ハリー・ポッター』シリーズでタイトルロールを演じたダニエル・ラドクリフは、どんなおとなの俳優になるのか興味津々。役のイメージが強すぎて、大人になるとひょっとしたら消えてしまうのではないかと危ぶんでいたのだが、心配は杞憂だった。ユニークなキャラクターに挑戦する性格俳優としての貌をスクリーンで披露し続けている。
なかでも2016年の『スイス・アーミーマン』の死体の役にはただただ驚きを禁じ得なかった。死体の役で出ずっぱりという設定にものけぞったが、頑張るラドクリフを見直した。そういえば2014年には『ホーンズ 容疑者と告白の角』で頭に角が生えるキャラクターにも挑んでいたっけ。
思い切りヒロイックなキャラクターに挑むことは少なく、2020年の『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』をはじめ、突き抜けた実話の映画化に魅力を感じるらしい。自分の個性を発揮するには、ユニークなキャラクターに挑むことだと考えているふしがある。彼の尊敬する俳優がゲイリー・オールドマンというのも頷けるところだ。
そんなラドクリフが本作では、鬱憤を抱えたプログラマーを演じる。現実にはうだつが上がらず、その憂さをネットのコメント欄に過激な書き込みをする“クソリプ”で晴らすという内気なヲタク役だ。
なるほど、いかにも気の弱そうな容貌にはぴったりの役柄ではある。ここから怒涛のアクションが綴れ織りとなるストーリーと、主人公とのギャップが冒頭で分かる。何とも分かり易い設定である。
脚本・監督はジェイソン・レイ・ハウデン。ニュージーランド出身で、まずVFXアーティストとして活動をはじめ、『アベンジャーズ』や『猿の惑星:聖戦記(グレートウォー)』などに参加。2015年のスプラッタホラー『デビルズ・メタル』で長編監督デビューを果たし、本作が2作目となる。ダニエル・ラドクリフを主役に迎えたことで、映画の注目度も上がり、イギリス、ニュージーランド、ドイツの合作となった。とにかくスピード感重視の語り口で最後まで走りぬく。堅いこと言いっこなし。ひたすら痛快、ブラックに笑えて楽しめればそれでよしという仕上がりである。
うだつの上がらないゲームプログラマーのマイルズは上司からのパワハラ、ガールフレンドのノヴァとの別れに耐え、憂さ晴らしに掲示板や動画配信サイトに過激なコメントを書き飛ばしている。
だが、参加者の殺し合いを生配信する闇サイト“スキズム”に書きこみをしたのが間違いのもと。組織のボス・リクターを激怒させ、IPアドレスから住所を特定され、襲撃される。
マイルズが目を覚ますと、なんとボルトで両手に拳銃を固定されていた。リクターはマイルズを“スキズム”に強制参加させ、24時間以内に最強の殺し屋ニックスを殺すよう命令する。わけがわからずパニックに陥るマイルズだが、手に銃が固定されていては何もできない。
ようやく部屋を出たとたん、ニックスの襲撃を受ける。ほうほうの体で逃亡。ノヴァに助けを求めるが、関りを恐れて逃げられてしまう。
警察署に駆け込んだノヴァは、刑事のデグレイヴスとスタントンに事の次第を訴えるが、彼らはニックスより先にマイルズを捕まえようと企んでいた。
ニックスが出現するたびに、マイルズは激しい銃撃戦とカーチェイスを繰り広げることになる。果たして彼はこのデスゲームに終止符を打つことができるのだろうか――。
始まれば最後まで一気呵成。分かり易いアクション主導の語り口で貫いている。多少の誇張や矛盾を述べ立てるのも野暮というものだ。面白ければそれで良し。ジェイソン・レイ・ハウデンの割り切った演出がひたすらぶっ壊し、銃弾で雨あられにして観客に爽快感を与えんとする。
何といっても、主人公はそれまで触ったこともなかった拳銃を両手にボルトで固定されているのだ。まさに人間凶器にされてしまっているのだが、主人公は半端に善人のヲタク。クライマックスまでは戦うこともしないでタダ逃げ回るのみ。そこからどんなスイッチが入って戦うに至るのかは見てのお楽しみだ。ジェイソン・レイ・ハウデンはゲームやコミックの要素をいただき、スタイリッシュな映像を徹底させている。さすがにVFXアーティスト出身だけあってこだわりの画面だ。
ダニエル・ラドクリフも自分のイメージを熟知しているだけに、こういう間抜けなキャラクターでも活き活きと演じることができる。背も低く、風采の上がらない容姿はこういう役柄がぴったりとはまる。どんな役柄でも挑む姿勢と相まって、今後の俳優としての活躍はますます期待できそうだ。
無茶苦茶でも痛快なアクションに浸りたいならお勧め。ネットの闇もさっと触れている程度で、決して社会派ではない。面白さ追求の人向けの作品だ。