『TENET テネット』はクリストファー・ノーランが仕掛ける、大画面で見るべき圧巻のSFエンターテインメント!

『TENET テネット』
9月18日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャインほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://tenet-movie.jp

『バットマン・ビギンズ』から幕を開けた“バットマン三部作”の頃より、クリストファー・ノーラン作品は常に観客を惹きつけて止まない。どの作品も驚くべきアイデアとヴィジュアル・インパクトを誇り、観客たちを驚嘆させる。

 潜在意識への旅をスリリングに描いた『インセプション』、理論物理学者キップ・ソーンのスペース・トラベルに関するワームホール理論をもとに描いたハードSF『インターステラー』。さらに『ダンケルク』では第2次大戦の歴史的エピックを陸・海・空、3つの視点のそれぞれ異なる時間軸で描きぬいた。いずれの作品も、見終わってから再びみたくなるような複雑な設定が施されていて、一筋縄ではいかない面白さを誇る。

 そして『ダンケルク』から3年を経て、登場した本作も期待に違わない奥行きの深さだ。面白い、とてつもなく面白い。SFスパイアクションとくくるのが妥当なのだろうが、ノーラン作品の常として、これまでの作品と同じくその範疇には収まらない。

 描かれるのは“時間の逆行”を駆使して、未来に起きる第3次世界大戦から人類を救うためのミッション。選ばれた主人公とともに途方もない戦いを体現することになる。

 映画はテロリストによるオペラハウス占拠事件から幕を開ける。特殊部隊が出動するなか“主人公”はテロリストグループに潜入している仲間の救出に動くが、捕えられてしまう。

“主人公”は自殺用の薬を飲まされるが、なぜか蘇る。目の前の男は彼に、未来からやって来た敵と戦って世界を救えというミッションを命じる。謎の組織に属する男から“テネット”という謎のことばを伝えられた彼は、“時間の逆行”を可能とする装置が極秘に現代に送られてきたことを知る。

 世界を救うミッションのために世界を股にかける男はやがてロシアの大物アンドレイ・セイターと妻のキャットに行き着く。セイターの計画によって世界の危機は迫っている。“主人公”は“時間の逆転”を駆使して、セイターの目論見を阻止しようとする――。

 冒頭のオペラハウス占拠のシーンから、観客はノーランにグイと心を鷲掴みにされる。畳みかけるサスペンスと有無を言わさぬダイナミズム。最初から見る者の気持ちを惹きつけ、一気にアドレナリンを沸騰させるのだ。この巧みな掴みによって、作品の個性の一端を知ることになるのだが、まだまだ奥行きは深い。

 理屈抜きのエンターテインメントの貌をしながら、ノーランがパズルのような緻密さで脚本を書き上げ、観客は感覚的に楽しみながらもパズルを解き続けることになる。ノーラン作品ならではの醍醐味が本作でも満喫できるのだ。

 作品の詳細を語らないのは鑑賞の楽しさを殺がないため。少しの予備知識で作品をみて、ノーランの意図に翻弄される喜びに浸ってほしい。見終わって満足すると同時に、ストーリーや仕掛けられた趣向の整合性に頭を巡らし、必ずや、もう一度、本編を見たくなるはずだ。主人公の役名を名前ではなくあえて“主人公”としてあることも最後に明かされるし、題名の『TENET』も見終わって納得がいくはず。

 世界を股にかけてミッションにあたるというストーリーの展開はノーランが好きだったというジェームズ・ボンド映画ほうふつとする。ウクライナ(ロケーションはエストニアで行なわれた)から、インドのムンバイ、イタリアのアマルフィをはじめ、英国のロンドン、ノルウェイのオスロなどなど、風光明媚な場所のなかでドラマが構築されていく。本編の撮影がIMAXで行なわれたことで圧倒的な景観がよりクローズアップされている。

 本作の凄さはCGなどを極力抑え、実際のアクション、スタントで勝負していることだ。高速道路のカーチェイスやアクションは“時間の逆転”というバイアスがかかることで、サスペンスと迫力が倍増することになる。これはクライマックスの“時間の逆転”と“時間の順行”が交錯する驚くべき趣向でさらなる起爆力を持つ。

 出演者のフレッシュさにも目を見張る。“主人公”には『ブラック・クランズマン』で主演したジョン・デヴィッド・ワシントンが抜擢されている。どちらかといえば容姿は父デンゼル・ワシントンよりは劣るが、ユーモアをたたえたイメージが好感を呼ぶ。ハードなアクションもみごとにこなせることを本作できっちり証明した。

 共演は『ザ・バットマン』でブルース・ウェイン(バットマン)に起用されたロバート・パティンソン。ミステリアスな雰囲気を持った好漢をさらりと演じてくれる。さらに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のエリザベス・デビッキ、インド映画の大女優ディンプル・カパディアが加わる。もちろんノーラン作品の常連マイケル・ケイン、『ダンケルク』のケネス・ブラナーもいかんなく個性を披露している。

 コロナ禍の最中ではあるが、本作は大スクリーンでみるべき作品と声を大にして訴えたい。換気のいい室内で、できればIMAXの巨大な画面でノーランの仕掛けたアクション世界を堪能いただきたい。あえてこの時期に公開を仕掛けたワーナー・ブラザース映画とクリストファー・ノーランに拍手を送りたい。