『新喜劇王』は香港喜劇王チャウ・シンチーがひさびさに原点回帰した、下積み俳優たちに贈る爆笑応援歌!

『新喜劇王』
4月10日(金)より新宿武蔵野館、シネマート心斎橋にて公開
配給:ツイン
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群を抜いたコメディセンスと秀抜なアイデアを武器に、香港映画の隆盛を牽引したチャウ・シンチーの待望の最新作である。

彼のフィルモグラフィをちょっとみただけでも、『食神』、『喜劇王』、『少林サッカー』、『カンフーハッスル』、『ミラクル7号』などなど、ずらりとヒット作が居並ぶ。チャウ・シンチーはコメディに対する唯一無二の発想力、アクションのセンスで図抜けた存在なのだ。

もともとは香港TVBの俳優養成所夜間部の出身で、子供番組の司会者となって大人気、映画界に進んだ経緯がある。ところが不遇の時期があり、『ゴッドギャンブラー外伝 賭聖』が大ヒットしてスターダムにのし上がった。以降、完璧主義のコメディアンの常として監督にも進出。リー・リクチーを共同監督に、『食神』、『喜劇王』などを発表。スーパースターの地位を確立した。

とりわけ香港アクションとCG、VFXを融合させた『少林サッカー』と『カンフーハッスル』はアジアのみならず、欧米でも高い評価を受け、彼の名前を世界的に知らしめることとなった。近年は『西遊記~はじまりのはじまり~』や『人魚姫』が中国本土を中心に大ヒットを記録。中国本土の人々をより意識した内容に、“らしさ”がないと危惧していたのだが、本作でひさしぶりに香港時代をほうふつとさせてくれた。

本作は題名を見れば分かる通り、1999年に発表した『喜劇王』をもとに、主人公を女性に変えて俳優の魂をギャグ満載で称える。舞台を香港から中国本土に移し、映画界が好調の中国映画界を背景にしているが、ひたすら成功を夢見て努力する無名の存在に焦点を当てるのはオリジナルのまま。『喜劇王』にオマージュを捧げながら、現代的なギャグに進化させている。

脚本はチャウ・シンチーを中心に『人魚姫』のアイヴィ・コンとケルヴィン・リーも参画しオリジナルのストーリーにみごとな枝葉をつけている。監督はチャウ・シンチーに加え、『イップ・マン 最終章』のハーマン・ヤウが名を連ねている。映画はどこまでもスピーディに“痛い”ヒロインの軌跡を笑いまくる。過酷な現実に打ちのめされながらも、夢を諦めないその生き方は感動的ですらあるのだ。

今回、チャウ・シンチーはカメラの後ろにまわり、演出に専念。主演を務めるのはエ・ジンウェン。過去に『西遊記2~妖怪の逆襲~』でエキストラを演じた縁から起用されたか、チャウ・シンチーの指導よろしく、とことんの体当たり演技を披露。笑って泣かせるコメディエンヌとして、みごとに花開いてみせる。

共演は『アイスマン 超空の戦士』のワン・バオチャン。本物の武術家の側面をもつこのアクションスターを、チャウ・シンチーは徹底的にギャグのネタにする。白雪姫の扮装をさせられるのは序の口で、次々と繰り出されるギャグに翻弄される姿はまさに爆笑ものだ。

 

30歳を迎えたユー・モンは映画女優になるべく懸命に努力を重ねているが、まわってくるのはエキストラや死体の役ばかり。両親は心配して普通の仕事をするように諭すが、本人の意志は固かった。友達とシェアする部屋で恋人チャーリーにお金を貢ぎながら、アルバイトに精出し、少ないエキストラの仕事を探しまくっていた。

ユー・モンは少しでも見栄えが良くなるようにプチ整形に挑むが、とんだ失敗。その恐ろしい顔を買われて、『白雪姫 血のチャイナタウン』のアクションスタントに起用されることになる。この作品の主演はユー・モンが憧れていたマー・ホーだったが、落ち目の上に傲慢で現場を困らせていた。どうしてもある表情が撮りたい監督はユー・モンを使って、マー・ホーにドッキリを仕掛けた。それがツボにはまって、マー・ホーの恐怖の表情がネットでもセンセーションを巻き起こす。

友達が顔だけで映画にスカウトされたことに落ち込み、さらにはバイトに精出したお金をつぎ込んだチャーリーが詐欺師であることが発覚。とことん打ちのめされる。すっぱり映画から足を洗おうと決心するが、ネットで大人気となったマー・ホーが彼女の前に現れ、諦めるなと語りかける。ユー・モンは最後の賭けに出るべく、あるオーディションに挑んだ――。

 

セシリア・チャンにカレン・モク、ヴィッキー・チャオなど、チャウ・シンチー作品に起用された女優はいずれも他の作品では経験したことのない、とんでもない扱いを受けるのだが、それによって人気爆発するのだから世の中、分からない。本作のエ・ジンウェンも例外ではない。ブスとののしられ、トウのたったおばはんといわれ、スタントでひどい目にあわされる。それでも特殊メイクで魔法使いのおばあさん的風貌になって、ひたすら熱演を繰り広げるのだ。

人生、いくら真面目に努力しても成功するとは限らない。嘲笑われ、陰口をたたかれて、どん底に落ちようとも、懸命に真っすぐに生きていれば、夢見る明日は来るかもしれない――という、チャウ・シンチーならではの成功譚が繰り広げられていく。最後の最後でエ・ジンウェンの艶姿が披露されるが、それまでは涙ぐましい奮闘ぶりが焼きつけられる。この頑張りがあればこそ、チャウ・シンチーが出演しなくとも抱腹絶倒の作品に仕上がったのだ。

エ・ジンウェンばかりでなく、マー・ホーに扮したワン・バオチャンも徹底的に笑い者にされる。厳つい容貌で白いブルマを吐いた白雪姫姿をみせるのだから、不気味を通り越して笑うしかない。アクションスターとして鳴らしているだけにいっそう滑稽さが募る仕組みだ。

ふたりの怪演を得て、チャウ・シンチー色が映像にくっきりと焼きつけられている。彼自身、根が生真面目なのだろう。とことん現実はリアルに描写し、アナクロ的に俳優修業をするヒロインは歯牙にもかけられない状況が描かれる。それでも努力するヒロインに、チャウ・シンチーは素敵な趣向を最後に用意してくれるのだ。

 

爆笑そして感動。チャウ・シンチー作品の醍醐味はここに詰まっている。ひさびさに香港映画のテイストを堪能できた。