『レディ・ガイ』はとんでもなく奇抜なアイデアで勝負したアクション・ノワール!

『レディ・ガイ』
2018年1月6日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ・プラス GAGA+
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/lady-guy/

 

世界中で製作される映画は、1年間で途方もなく数が多い。世界中に知られたブロックバスターから、各国の匠たちが生み出す作家性の強い作品まで千差万別。なかには唯一無二、思いもかけない発想の作品も存在する。

本作もユニークさでは人後に落ちない。なにせ凄腕の殺し屋が策略に引っかかり、むりやり性転換をさせられてしまうという驚くべきプロットなのだ。もちろん、こうした設定はなくはないだろうが、ウォルター・ヒルが監督していることに衝撃を受けたのだ。

ウォルター・ヒルといえば、1970年代はじめに『ゲッタウェイ』や『マッキントッシュの男』などの男臭い脚本で注目を集め、1975年に『ストリートファイター』で監督デビューを果たして以後は『ザ・ドライバー』、『ウォリアーズ』、『48時間』や『ストリート・オブ・ファイヤー』など、スタイリッシュなアクションで時代を画した匠である。近年も2012年の『バレット』で健在ぶりをみせてくれた。いわばスタイリッシュなアクション一筋の存在である。

そんなヒルが本作の原案に触れたのは1970年代の後半だという。ジャーナリスト出身のデニス・ハミルが書いた「Tomboy」という脚本に惹かれたが、当時のヒルは作品の依頼が惹きも切らず、35年後に脚本に仕上げたのだという。もっとも、脚本を書き上げてからは、まずグラフィックノベルで発表してから映画化に臨んだ。挑んだ理由は、ズバリ設定が奇抜だからとコメントしている。

作品の端々にグラフィックノベルの絵を挿入しながら、ヒルらしい問答無用の語り口に終始する。設定に驚かされるものの、まごうことなきヒルのアクション世界である。

男性から女性に変貌する主人公には、カリン・クサマ監督作『ガールファイト』の主演に抜擢されて以来、『ワイルド・スピード』シリーズや『S.W.A.T.』、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』などでアクションを披露してきたミシェル・ロドリゲス。これに『エイリアン』シリーズでおなじみのシガーニー・ウィーヴァーが加わり、タフな女(!?)の戦いを演じ切る。

共演は『メン・イン・ブラック』のトニー・シャループに、『アナベル 死霊人形の誕生』のアンソニー・ラパリア。理屈抜きに痛快な仕上がりである。

 

凄腕の殺し屋、フランク・キッチンはマフィアのボス、オネスト・ジョンの依頼を受けて、ラスベガスから来た男を暗殺すべく、街にやってきた。定宿のホテルに泊まり、女を拾って、いつものように過ごしていると、オネスト・ジョンが部下を連れてやってくる。

いつもと様子が違うと思う暇もなく被弾し、キッチンは意識を失ってしまう。

どれだけ意識を失っていたのか。キッチンは全身、包帯でまかれて寝かされていた。起き上がり、包帯を取って鏡の前に立った時、キッチンは驚愕する。鏡のなかにいたのはまごうことなき女だったからだ。

脇に置かれているテープレコーダーを再生すると、女の声で復讐のために性転換したと吹き込まれていた。キッチンがかつて殺した男が彼女の弟だったという。

すべては仕組まれていた。怒りに燃えたキッチンは犯人を探すために行動を開始した――。

 

設定はこの上なくシンプル。奇想天外なアイデアをハードボイルドな世界観で描き出し、ヒルならではの作品に仕上げている。畳みかけるように疾走する語り口で多少、無理な設定を押し切り、復讐譚として収斂させるあたりが真骨頂だ。彼の長い作品歴のなかでは女性(!?)を主人公にしたのは初めてというが、なるほどこの設定なれば男っぽく描いても差し支えない。アクション主導、ハードな銃撃シーンを散りばめつつ、ノワールな雰囲気を横溢させてみせる。

こうしたタフな主人公で押し通せるのは、フランク・キッチン役にミシェル・ロドリゲスを起用したことにある。ロドリゲスは男のキッチンも演じているのだが、それほど違和感がないのは肩幅が張っているからか。ビルドアップした肉体は男と遜色なく無難にこなしてみせる。彼女が輝くのは、当たり前だが女性に変貌してからで、設定が設定だけに妙に中性的なエロチシズムを漂わせる。私生活ではバイセクシュアルであることをカムアウトしたというが、全編に彼女の魅力が溢れている。これまでも女戦士役が多かったロドリゲス、ついに男の役まで演じたかと妙なところで感心してしまう。

対するシガーニー・ウィーヴァー演じる女医役は、単なるマッドドクターではなく、マッチョな男を女性に変えることで、その変化を観察しているようなイメージがある。ある意味でマチズモに対する復讐という側面もあり、性転換したキッチンとの対決はひねったジェンダーの戦いとなっている。

もっともヒルの演出はトランスジェンダーなどという微妙な題材にいささかも頓着せず、面白ければ何でもありの精神。最近はアクション映画でも批判の来ぬように忖度する作品が多いなか、本作はとても痛快である。

 

これは誰もが喜ぶエンターテインメントではないが、客を選ぶのは承知の上で、正月の異色作としてご覧あれ。