『目撃者 闇の中の瞳』は予断を許さない展開に翻弄されるクライム・サスペンス。

『目撃者 闇の中の瞳』
2018年1月13日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
配給:フォルテルモ コピアポア・フィルム
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公式サイト:http://mokugekisha.com/

 

台湾映画といえば、ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン、アン・リー、近年ではウェイ・ダーションといった匠たちの作品を頭に浮かべるが、最近は刑事アクションの『ハーバー・クライシス 都市壊滅』をはじめ、青春ミステリーの『共犯』、青春ドラマ『私の少女時代‐Our Times‐』など、エンターテインメント色の濃い作品も日本で公開されるようになってきた。若手監督たちが軸になって、なにより面白い作品をつくろうという機運が高まっているのだという。

本作の監督チェン・ウェイハオもそうしたひとり。この監督は、台湾の若手監督がサスペンスを手がける効用を謳い、自らクライム・サスペンスである本作を発表した。この作品は台湾では口コミで広がってロングランし大ヒットを記録。ウェイハオのジャンル映画の勧めを証明することとなった。さらに台湾映画賞の金馬奨で5部門(主演男優・助演男優・視覚効果・編集・音響効果)にノミネートされるなど、大いに話題を集めた。

ドロシー・チェン、チェン・ジークィンの原案をもとに、脚本家のチェン・ユーリや監督自身、スタッフが知恵を絞って脚本化。まったく先の読めないストーリーを構築している。

この巧みな脚本をもとにウェイハオがテンポの速い語り口で、見る者を翻弄する。過去の事件を目撃した男が9年後に、事件の縁に縛られていたことを実感する展開で、事件の関係者の思惑と嘘が交錯し、思いもよらない驚愕の結末を迎えることになる。ウェイハオは日本では知られていないが、第2のエドワード・ヤンになる可能性があるといわれている。口コミが利いたというのも納得がいく仕上がりとなっている。

出演はテレビドラマをはじめ映画でも実力を称えられるカイザー・チャンとシュー・ウェイニン。これに『モンガに散る』のアリス・クーや『ハーバー・クライシス 都市壊滅』のクリストファー・リー、名匠アン・リーの息子で『ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を超える』にも出演したメイソン・リーも加わる。

 

2007年、新聞社の実習生シャオチーは嵐の夜の山道で車同士の当て逃げ事故に遭遇する。被害者の車は大破し、運転席の男性は死亡し、助手席の女性も瀕死の状態だった。シャオチーは逃走する車の写真を撮るが、大学時代の恩師で新聞の編集局長チウに持ち込むが、ナンバープレートの文字が判読できず記事にはならず、事件の犯人も捕まることがなかった。

9年後、記者となって華々しい活動をするシャオチーは国会議員の不倫疑惑現場を撮影した帰りに車をぶつけてしまう。なじみの修理工に見せると車は過去に事故を起こしていることが判明。その車こそ年前の事故で大破したものだった。

さらに悪いことにシャオチーの記事が誤りであることが分かり、訴えを恐れた新聞社から解雇されてしまう。彼は先輩記者マギーの協力のもと、独自に9年前の事件の調査をはじめる。生き残った被害者女性はなぜか姿を隠し、事件の日に富豪の娘の誘拐事件が起きていたことも判明する。一体、事件の真相はどこにあるのか。逃走車の持ち主の名前が浮かび上がったとき、シャオチーは悪夢のような真相に至る――。

 

映画は冒頭よりテンションの高い語り口でサスペンスを盛り上げる。9年前の当て逃げ事故の真相を探るというミステリー的な興味で引っ張っていくのだが、証言する人間がシャオチーをふくめ必ずしも事実をいっていないことが分かってくる。起こった事実はひとつながら、証言者それぞれの虚実入り混じった真実が明らかになっていくのだ。チェン・ウェイハオは事故をめぐる証言を『羅生門』さながらに描き出す。それも巧みに観客をミスリードしながら、予断を許さず、驚くべき結末を用意している。

興を殺ぐので詳細は控えるが、誰が犯人かというミステリーから滑り出し、クライマックスはサイコサスペンスの緊迫感を設け、ピカレスク的な幕の引き方をするウェイハオの緻密な構成力には脱帽したくなる。台湾ならではのリアリティを映像に焼きつけることを心がけ、手持ちカメラの撮影による臨場感と速いテンポを維持することで、それこそ観客が目撃者のような気分に誘う。この監督の次なる作品が楽しみなってくる。

 

出演者は殆ど日本になじみがないが、金馬奨主演男優賞にノミネートされただけあってカイザー・チャンの演技が光る。正義の探偵役とふるまいながら、次第に闇を抱えていることが分からせるあたりの演技はみごとだ。先輩記者マギー役のシュー・ウェイニンの憂いに富んだ表情はキャラクターにぴったりとはまっているし、金馬奨助演男優賞候補となったメイソン・リーの凄味も圧巻だ。

 

展開が目まぐるしすぎるという声もあるようだが、なんとか観客を翻弄し楽しませようとの意気が画面にみなぎっている。僕は十分に楽しんだ。注目に値する作品だ。