『キングスマン:ゴールデン・サークル』は大ヒット痛快スパイ・アクション、待望の続編!


『キングスマン:ゴールデン・サークル』
2018年1月5日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/kingsman/

 

タフなスパイ・ヒーローが活躍する痛快アクション映画の復活を謳った『キングスマン』は2014年に登場するや、4億ドルを大きく超える興行収入を上げる大ヒットを記録した。作品を仕掛けた『ウォンテッド』や『キック・アス』などの原作で知られるコミック・アーティスト、マーク・ミラーと、『キック・アス』の演出で一躍、世界に知られたマシュー・ヴォーンにとっては我が意を得たりの気分だろう。

初期のジェームズ・ボンド・シリーズのダイナミズム、痛快さを継ぎ、往年のスパイ・アクションのパロディやオマージュを盛り込みながら、労働者階級の青年が一人前のスパイになるまでの成長物語に帰結したところが成功の要因。ヴォーンのエッジの利いた語り口と暴力描写、ユーモアを映像に漲らせて、突き抜けたエンターテインメントとして世界中を熱狂させたのだ。

こうなると続編を待望する声が上がるのは当然の理。だが、マシュー・ヴォーンは前作と同じことを繰り返すのを潔しとはしなかった。プロダクションノートによれば、第1作を凌ぐ、たとえば『ゴッドファーザーPARTⅡ』のような作品に仕上げたいと、ヴォーンは考えていた。彼は前作でも脚本を担当したジェーン・ゴールドマンと知恵を絞り、さらに広がりのあるシチュエーションで勝負することにした。

前作でスパイ・エージェントになったエグジーが、キングスマンの拠点をすべて爆破されたことから、アメリカの同様の組織ステイツマンの助けを借りて、陰謀を仕掛けた麻薬組織ゴールデン・サークルと戦う展開。一方で、エグジーとスウェーデン王女ティルデの愛の行方も綴られることになる。

前作の英国趣味を抑え込み、今度は古き佳きアメリカン・テイストで貫く仕掛け。ステイツマンの本部がバーボン・ウイスキー蒸留所で、ゴールデン・サークルのアジトが往年のアメリカのポップカルチャー一色になっているのもおかしい。前作と異なる世界を提供したいというヴォーンの思いの表れだ。

出演者も前作に引き続き、エグジーにはタロン・エガートン、メカニック担当のマーリンにはマーク・ストロング。加えて『ローガン・ラッキー』のチャニング・テイタムや『007/ダイ・アナザー・デイ』のハル・ベリー、『フィッシャー・キング』のジェフ・ブリッジスに『グレートウォール』のペドロ・パスカルと豪華絢爛。しかもゴールデン・サークルのボスには『アリスのままで』でアカデミー主演女優賞を獲得したジュリアン・ムーアが扮し、不気味な凄味を漂わせる。さらに、前作でアクションスターとして再評価されたコリン・ファースも顔を出す。死んだはずのキャラクターの復活は『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファに匹敵する愕きである。おっと忘れてはいけない、イギリスを代表するシンガーのエルトン・ジョンも本人の役で重要な働きをする。軽妙なコメディ演技には驚くばかり。まことに達者なものだ。

 

スーツの着こなしも板につき、エージェントとして一本立ちしたエグジーの前に、キングスマンの元候補生チャーリーが現われ、銃を突きつけた。片腕がロボットアームとなったチャーリーを何とか撃退するも、キングスマンの重要機密が盗まれてしまう。

エグジーがスウェーデン王女ティルデの家族と食事をしているときに緊急通報が入る。エグジーの家もサヴィル・ロウの基地も、キングスマンに関わる一切の場所が吹き飛ばされてしまった。

難を逃れたメカニック担当のマーリンとともに、エグジーはアメリカ・ケンタッキー州のバーボン・ウイスキー、ステイツマンの蒸留所に向かう。キングスマンが絶対の危機に陥ったときにそこに向かうように指示されていたからだ。

ステイツマンはキングスマンと同様の諜報組織だった。ステイツマンのボスから協力を約束されたエグジーとマーリンは、麻薬の流通を押さえている巨大組織ゴールデン・サークルが陰謀の一環としてキングスマンを壊滅させたことを知る。

ゴールデン・サークルのボス、ポピーはすべての麻薬に毒を混入し、解毒剤を餌にしてドラッグの合法化と合法企業化を目論んでいた。世界中のドラッグ使用者、ティルデまでもが毒に侵されてしまった。エグジーはステイツマンのエージェントたち、さらにステイツマンに囚われていた師匠ハリー・ハートそっくりの男とともに、ポピーの野望を食い止める戦いに臨んだ――。

 

第1作と同様、有無を言わさぬ語り口でエグジーの活躍を描き、最後の最後まで飽きさせないのはヴォーンの演出力の賜物。前作と異なる世界で勝負しようとの思いも十分に伝わってくる。ヴォーン自身、かつてカウボーイの登場するアメリカ映画が好きだったこともあって、ステイツマンという組織や構成員がカウボーイ・ヒーローのイメージに仕立てて、前作とかけ離れた設定にしている。そのためにジェフ・ブリッジス、チャニング・テイタム、ペドロ・パスカルという男臭い俳優を揃えて豪華の一語ではないか。あえてハル・ベリーに控えめなエージェントを演じさせて、ステイツマンが男社会であることをさりげなく浮かび上がらせる。それがどのように変わるかは作品を見てのお楽しみだ。

また、悪の親玉のアジトがノーマン・ロックウェルの絵のような、カラフルでノスタルジックな1950年代的意匠なのもおかしい。マーサ・スチュアートの雰囲気を持った“アメリカのスウィートハート”ポピーが世界を危機に陥れる。この設定自体が現実のアメリカを象徴しているといえようか。そこには鋭い風刺も内包されている。

もちろん、ヴォーンはあくまでも弾けたエンターテインメントに徹している。冒頭のロンドンのカーチェイスから、イタリアン・アルプスのゴンドラ上のアクション・シーンまで目を奪う迫力で押し通してみせる。その間にエルトン・ジョンに道化の役を演じさせて笑いを振りまくのだから大したものだ。

アクション、笑いに加えて、音楽の冴えたセンスも見逃せない。プリンス&ザ・レボリューションの「Let’s Go Crazy」を筆頭に、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツやバディ・ホリー、トム・ブレイス、ジョン・デンバーの名曲の数々が織り込まれて、映像の効果をさらに高めている。当然、エルトン・ジョンも「ダニエル」や「土曜の夜は僕の生きがい」、「ロケット・マン」など4曲を披露する。

 

エグジー役のタロン・エガートンもヒーローらしくなってきたし、マーク・ストロングのとぼけた味わいもいい。チャニング・テイタムのもっさりとしたイメージ、グラマラスな魅力を封印したハル・ベリー、老けたジェフ・ブリッジス、きらりと凄味のあるペドロ・パスカルなど、いずれもクセのある役を気持ちよさそうに演じている。

だが、何といっても、ジュリアン・ムーアのサイコパスぶりが圧巻。気のいいアメリカ中年女性のようにみせていながら、酷薄非情のキャラクターを適演。おまけにコリン・ファースが前作よりもコミカルな演技を披露するのだから素晴らしい。俳優たちの怪演を楽しむだけでも作品の価値はある。

 

正月開けすぐの公開だし、こうした能天気なエンターテインメントを劈頭に見て、楽しい2018年にしたいもの。痛快な気分で1年を乗り切るためにも見る価値はあるかな。