他人の不幸は蜜の味というごとく、有名人のスキャンダルやゴシップは多くの人の大きな関心事だ。下衆と言われればそれまでだが、多くの人の本音の部分では興味津々。となれば、ニーズのあるところに提供するのがメディアの務めとばかりに、雑誌、テレビは鵜の目鷹の目でスキャンダルを探し出しては、部数や視聴率のアップを図る。芸能人や政治家の私生活を調べ上げ、カメラや記者を張り付けて決定的瞬間を狙う。世にいうパパラッチというヤツだ。
本作は、爽やかイメージの福山雅治ががらりと趣を変えて海千山千のパパラッチにチャレンジしたことで話題となっている。普段は狙われる側の彼だが、ここではあの手この手で芸能人を追う、自堕落なカメラマンを熱演する。私生活ではカメラを手放さず、写真を撮ることを喜びとする福山だけに、カメラの構え方ひとつをとっても堂に入っている。爽やかな青春キャラクターを演じ続け、近年では『そして父になる』では父親役に挑んだ彼が、モラル無視、犯罪ギリギリの状況でスクープをものにする、女好きのカメラマンを熱演する。
監督は『モテキ』や『バクマン。』などの快作を送り出した大根仁。本作は大根が高校時代にみて感動したという、原田真人監督の1985年のテレビ映画「盗写 1/250秒OUT OF FOCUS」をもとに、新たな視点で製作されたもの。長年、本作の映画化を温めてきた大根監督が福山主演の企画として提出して実現した。
大根監督は福山の魅力を抽出しつつ、オリジナルに敬意を捧げながらも現代的視点を盛り込むという命題に挑戦。持前のダイナミックな語り口を貫いてみせる。
共演は『ヒミズ』や『味園ユニバース』などで演技力を披露し、若手女優ナンバーワンの呼び声が高い二階堂ふみ。さらに近年、注目度の高い吉田羊、滝藤賢一、そしてリリー・フランキーなど、芸達者が揃っている。
かつて伝説的スクープを数々ものにしたカメラマン、都城静はある事件をきっかけにして報道写真への情熱を失い、今では芸能スキャンダル専門のパパラッチとなっている。
自堕落な生活を送っている彼のもとに、“SCOOP!”誌編集部の副編集長・横川定子は新人記者・行川野火を送り込む。横川は反発する都城に高額なギャラで納得させ、かくてベテランと新人のコンビが結成される。
何も知らない行川に呆れ、おちょくりながら芸能人の後を追う毎日。コンビを組まされたことの効果か、ふたりはスクープを連発。行川は都城と行動をともにするうち、都城の友人で覚せい剤中毒の情報屋・チャラ源をはじめ、きれいごとではない世界も知ることになる。
都城と因縁のある横川は、ふたりが組むことで化学反応が起きることを狙っていた。彼女の目論見通り、ふたりは芸能人スキャンダルのみならず、若手政治家とテレビキャスターの逢引きの決定的瞬間や、連続猟奇殺人犯の顔撮りなどのスクープをものしていった。と同時に、行川は都城への思いが募っていき、都城もかつて抱いていた希望をとりもどしていくが、突然の事件がふたりを襲う――。
映画はスクープをものにするためのあの手この手を披露しながら、スクープに生命をかけるカメラマン、記者、編集者の意地と矜持を浮かび上がらせていく。他人の私生活を勝手に引っ張り出して矜持もないものだが、世間の望むものを提供するという大義名分のもと、策略を弄し、ひたすら対象の気を許した瞬間を捉える。その懸命さ、涙ぐましい努力に、彼らの意地と誇りがあるというわけだ。
本作ではスキャンダルの標的を巧みに選択していて、横柄なプロ野球選手や俳優、アイドル、政治家、犯罪者など、観客がスキャンダルを掘り起こしても拒否反応を起こさないような、胡散臭い人々ばかりを俎上に挙げている。ここを押さえてあるから、安心してパパラッチの奇想天外な手口を楽しめる寸法だ。
大根監督はひたすら都城と行川の行動を痛快に紡いでいく。この題材はもっと猥雑でピカレスク的に仕上げてもよかったが、もともとが福山ありきで成立した作品だから、監督自身も限界は知っている。都城の仕事人としてのヒロイズムに作品を落とし込んだのは当然のことだろう。どんな仕事であってもプロに徹すれば輝きがある。その仕事ぶりを目の当たりにした行川が成長を遂げる。本作はマスコミの一端を担うことになった女性の成長物語であるのだ。『バクマン。』で漫画家の仕事ぶりをアクション仕立てで表現した大根監督、ここではスキャンダル誌を担う人々の哀歓をストレートに描いている。この監督の“仕事”シリーズ、次はどんな題材を選ぶのか楽しみでならない。
出演者ではやはり福山の体当たりの演技が目を引く。冒頭のカーセックスのシーンでド肝を抜いてから、無精髭風の顔つきで押し通し、悪賢く立ち回るケンカに強くないキャラクターを熱演してみせる。いつまでも爽やかキャラクターではいられない、中年を意識した挑戦といえばいいだろうか。その姿勢は大いに評価したいところだ。
共演者では二階堂ふみの演技がやはりうまい。今どきの女の子が中年男の頑張りと意地をみて次第に仕事人として成長するプロセスを自然体で演じている。もちろん、吉田羊、滝藤賢一の達者さはいうまでもない。過去の遺物扱いされている、スキャンダル誌の現在の状況のなかで、懸命に本分を貫こうとする編集者の意地をみごとに体現している。
中でも群を抜いた存在感を見せるのは、チャラ源に扮したリリー・フランキーだ。ここまで覚せい剤中毒者をみごとに演じた俳優は他に例がない。存在そのものから放つ剣呑さ、凄味。いいしれぬ危うさと不気味さを秘めた壊れた人間を完璧に演じ切る。まこと演技賞もの、他を圧するパフォーマンスだ。
世間に氾濫しているスキャンダルの数々はこうして捉えられたと得心できる。見応えあるエンターテインメントである。