『Re:LIFE~リライフ~』はヒュー・グラントの個性を活かした、沁みる再生コメディ!

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『Re:LIFE~リライフ~』
11月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2014 PROFESSOR PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://relife-movie.com/

 

『フォー・ウェディング』や『ノッティングヒルの恋人』、『ラブ・アクチュアリー』などのヒット作を誇るヒュー・グラントは、ロマンチック・コメディに欠くことのできない存在として知られている。演じるのは、多くが優柔不断、無責任、軽いといった、負のキャラクターを背負った愛すべきダメ男。基本的には彼の作品はその負の要素を乗り越えて、ロマンチック・ヒーローの座を獲得する展開となる。
 1960年9月9日生まれというから、グラントは55歳。年齢とともに容貌にも年輪が加わり、表情にペーソスが増してきた。こうなると、単純なロマンチック・コメディではなく少しひねりが欲しくなってくる。ここで登場するのが脚本家出身の監督マーク・ローレンスである。ローレンスはサンドラ・ブロック主演の『デンジャラス・ビューティー』などの脚本で評価を高め、ブロックとグラントが競演した『トゥー・ウィークス・ノーティス』で監督デビューを果たした。ローレンスの脚本のセンスにグラントは惹かれたか、落ちぶれた元アイドルを演じた『ラブソングができるまで』や、浮気者のニューヨークのセレブ弁護士に扮した『噂のモーガン夫婦』と、立て続けにローレンスとコンビを組むようになった。演ずるキャラクターも単にロマンチックなダメ男というだけではなく、ペーソスに力点を置いた印象だ。
 本作はローレンスとの4作目のコラボレーションということになる。今度の役柄は、かつてアカデミー賞に輝きながら、以後、まったく目が出ない脚本家である。ローレンスにとっては周囲にリアルなモデルがいる設定だ。描かれるのは、アメリカ映画界という生き馬の目を抜くような弱肉強食の世界に身を置き、年を重ねて居場所を失った人間が、大学というアカデミックな世界に進んだらどうなるか――。これもまた現実にありそうなことである。
 こうしたシリアスなシチュエーションでも、グラントなら軽妙に演じることができると踏んだローレンスの勝利。ハリウッドに毒され、毒のあるジョークと斜に構えたポーズで乗り切ろうとする。心中ではもはや若くないことを自覚し、人生を間違えたと考えてあがく姿をグラントはみごとに演じきっている。誰しも、人生は自分の思い通りにならないという事実を受け入れざるを得ない局面があるが、グラントがひょうひょうと演じるといっそう胸に沁みる。
 そう、本作はロマンチック・コメディの要素もあるが、本質的には初老の男の再生コメディ。今後のグラントの進む道を示したものだといえそうだ。
 共演は『いとこのビニー』でアカデミー助演女優賞に輝いたマリサ・トメイ、『ダーク・シャドウ』のベラ・ヒースコート、さらに『セッション』でアカデミー助演男優賞を獲得したJ・K・シモンズが顔を出す。

 かつてアカデミー脚本賞に輝き、天才と謳われたキース・マイケルズも15年間、ヒットに恵まれず、今では過去の人。脚本の仕事もなく、泣きついたエージェントにニューヨーク州ビンガムトンにある大学のシナリオコースの講師を紹介される。
 到着早々、知り合った女子大生カレンと一夜をともにしたマイケルズはまったくやる気はなかったが、シングルマザーで訳知りの生徒、ホリーのサポートもあって授業を始めることになる。生徒はカレンもふくめ顔で選んだ女子生徒8人とオタクの男子生徒2人に、ホリーを加えた11人。ワルぶってシニカルにしていても本質は善人のマイケルズ、生徒たちの純粋に映画を愛する心にほだされていく。
 なかでも男子生徒のひとりクレムの書いた脚本はすばらしく、マイケルズはアドバイスを加えて、エージェントに送った。なにくれとなくサポートしてくれるホリーに対して好意を抱きつつ、彼は教師の仕事に目覚めていく。
 だが、カレンと関係を続けていたことが、大学の倫理委員長に知られることとなり、マイケルズは辞職か、査問会に諮るかの二択が迫られる。おりしもクレムの脚本をスタジオが買い、プロデューサーとしてマイケルズも迎え入れられることになる。クレムとともにミーティングのためにニューヨークに向かったマイケルズだったが、ある決心を胸に秘めていた――。

 グラントの主演であれば、予定調和といわれてもハッピーエンドで終わるのが鉄則。他愛ないといわれるのを承知で、ローレンスもそのラインはきっちり守ってみせる。見終わって幸せな気分になるのが本作の使命といいたいかのようだ。
 ローレンスは、仕事に困ってきれい事などいっていられない、売れない脚本家の悲哀を冒頭でさらりと知らしめた上で、ビンガムトンに住む人々の素朴な人情、絆の深さに接して、アメリカ映画界の毒に侵された主人公が次第に浄化されていく姿を描き出す。ビンガムトンが理想郷のように設定されるのも、ローレンスがかつて通い、妻と出会った場所だと聞いて納得する。「ミステリー・ゾーン」の製作・脚本・ナレーターを務めたロッド・サーリングの故郷であり、世界一、回転木馬の多い場所でもあるというが、ほのぼのとした田舎町の良さが映像に焼き付けられている。
 もちろん、シナリオコースの教室が主なる舞台とあって映画ネタは満載。「ミステリー・ゾーン」のビンガムトンにロケした1話「過去を求めて」のクリップが挿入されるのをはじめ、『ダーティ・ダンシング』の1シーン、さらにはイングマール・ベルイマンにエレイン・メイ、ウディ・アレンなどの映画人名、『レザボア・ドッグス』に『スター・ウォーズ』、『いまを生きる』といった作品名が会話の端々に散りばめられて、思わずニヤリとさせられる。このあたりのくすぐり、会話の楽しさはローレンスの面目躍如たるところだ。

 出演者ではまずもってグラントの個性が全面に押し出される。もはや若くないペーソスを、嫌みなく漂わせる彼のパフォーマンスがキャラクターにぴったり重なる。離婚した後、ろくに会ってもいない息子に対する切ない思いを吐露するシーンなど、みごとな演じっぷりである。
 しかも、グラントを盛り上げつつ、きっちりと個性を発揮するトメイがいい。もう決して若くはないのだが、現実の重さを知りつつ色香が衰えないキャラクターを演じさせたら抜群にうまい。シリアスでもコメディでも何でもござれの印象である。また、家庭思いの学部長に扮したシモンズも人の良さが全開。こういう役は得意中の得意だ。

 グラントのコメディは安心してみていられる。鋭いエッジを売りにしたひねった結末の作品に食傷気味なら、ほのぼのできるこの作品はお勧めである。