『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はジョージ・ミラーが原点回帰した、圧巻のアクション快作!

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『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
6月20日(土)より、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリーほか2D/3D&IMAX ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
公式サイト:http://www.madmax-movie.jp/

 

 36年前にはじまった『マッドマックス』シリーズの最新作がいよいよ公開される。
 1981年に発表された『マッドマックス2』の素晴らしい出来ばえによって、シリーズはカー・アクションの金字塔のみならず、近未来SFの傑作として映画史に名を残すことになった。アメリカのアクション映画にはみられなかった圧倒的な疾走感と、リアルこの上ないスタント。突き抜けた描写は世界中を熱狂させた。
 もっとも、シリーズは1985年の『マッドマックス/サンダ―ドーム』以来、長いブランクに入った。シリーズを監督のジョージ・ミラーと立ち上げたプロデューサー、バイロン・ケネディが1983年に急死したことが理由だと思われる。ミラーにとっては、ケネディは映画の師匠であり、信頼のできる相談相手だった。
 1981年、筆者はオーストラリア・ブロークンヒルで、『マッドマックス2』の撮影に立ち会う機会を得た。荒涼とした現場で、スタッフ全員が面白いアクションをつくるという意気に燃え、知恵を出しあい、広大な大地を走り回っていた。カー・アクションの決定版をつくるというミラーの思いが伝播していたが、そうした現場でも大勢をみるミラーの意見が取り入れられることも少なくなかった。
 ケネディ亡き後に、ミラーがコメディの『イーストウィックの魔女たち』や、人間ドラマ『ロレンツォのオイル/命の詩』、あるいはファミリー・ピクチャーの『ベイブ/都へ行く』に『ハッピーフィート』などを手がけたことで、カー・アクションに封印したのではないかと思われた。

 だが、ミラーはカー・アクションの新たな高みを目指すべくここに復活した。
 聞けば、シリーズ第4弾のことは決して忘れていなかったそうで、2001年にはグラフィック・ノヴェルのアーティスト、ブレンダン・マッカーシー、『マッドマックス』に出演した盟友のニコ・ラソウリスとともにイメージを膨らまし、脚本を構築していたという。
 この時点でシリーズ前3作の主演を務めたメル・ギブソンも出演するはずだったが、撮影間近になって、イラク戦争の余波を受けて、ロケを敢行するはずのアフリカ、ナミビアに機材、車を運べずに頓挫する。ギブソンも作品から下りてしまう。
 しかし、ミラーは諦めなかった。機会を待ち続け、長い期間を経てようやく撮影を開始。今年の公開にこぎつけたのだ。

 アクション・シーンは可能な限りCGを排して、本物の車が爆走する迫力で押し通す。ミラーはケネディとともに育んだこのポリシーをさらに純化させて、映画本来の持つ“動くダイナミズム”をとことん追求してみせる。そのためにはストーリーはとことんシンプル。追われる・追うのサスペンスで一気呵成に走りきる。撮影にはオーストラリア出身で『イングリッシュ・ペイシェント』や『刑事ジョン・ブック/目撃者』などで知られるジョン・シールを起用。映画の魅力を際立たせるスタント・コーディネーターを統括するのは『マッドマックス2』にも参加していたガイ・ノリス(第2班監督としても活躍している)が担当している。

 しかもキャスティングが心憎い。ギブソンに代わってマックスを演じるのは『インセプション』、『裏切りのサーカス』、『ダークナイト ライジング』などで注目を浴びているトム・ハーディ。この作品以降も『チャイルド44 森に消えた子供たち』をはじめ話題作が目白押しのハーディが、ここでは感情を秘めた孤高の戦士を存在感たっぷりに演じている。
 さらに『モンスター』でアカデミー主演女優賞に輝いたシャリーズ・セロンが髪の毛をばっさりと切って、パワフルな女戦士を演じきる。ある意味、彼女が主役ともいえる活躍ぶりである。
 加えて『ジャックと天空の巨人』や『ウォーム・ボディーズ』などで人気のニコラス・ホルトも参加するなど、個性に富んだ布陣となっている。

 石油も水も尽きかけた近未来、元警官のマックスは本能だけで生き永らえていたが、資源を独占し暴力で民衆を押さえつけるイモータン・ジョーの軍団に捕えられてしまう。
 軍団の“輸血袋”(輸血のための奴隷)にされてしまったマックスだったが、おりしもジョーの右腕フュリオサがジョーの5人の妻を連れて逃走する。
 マックスも“輸血袋”としてフュリオサ追跡に駆りだされるが、折をみて脱出。軍団の一員ニュークスとともに、フュリオサと行動をともにすることになる。容赦ないジョーの追撃のなか、フュリオサが目指すのは緑なす楽園。マックスは彼女たちをサポートするが、思わぬ事態が待ち受けていた――。

 冒頭、マックスの車が軍団に追われるアクションからはじめて、全編、アクションとスタントのつづれ織り。息もつかせぬほどめまぐるしく、パワーのある映像が重ねられていく。ミラーの演出は明快だ。とことん走る、走りぬく迫力を画面に焼き付けてみせる。ストーリーがシンプルな分、スタントやアクションの趣向は手が込んでいる。スピードとともに、およそ考えが及ぶだけのスタントシーンが披露される。見るものを感嘆させるためだけに、ここまで車を破壊し、危険なスタントを仕掛ける。
 まさしく、シリーズを始めたときの熱気が画面から放たれているのだ。ミラーは初期の頃に比べて演出力も増し、アクションのつなぎもスピードダウンせずに疾走。単に勢いだけでなく、語り口にうまさを感じさせる。アクション全開のミラーがここに蘇ったといいたくなる。

 本作ではマックスはむしろフュリオサの行動をサポートする役どころで、ハーディも演じるにあたって、キャラクターの奥行きを感じさせながら、控えめな存在感を維持している。ハーディは容貌が個性的というわけではなく、演技でキャラクターを際立たせるタイプ。映画が進行するにつれ、知性も感じさせるヒーローとして輝いてくる。シリーズとはいっても、新たなヒーロー誕生の趣だ。
 フュリオサを演じるセロンはアマゾネス的ヒロインにチャレンジ。きりりと男前のキャラクターを演じきる。躍動し、アクション・ヒロインとしての魅力を披露してくれる。
 さらにはホルトは近未来の青春像にペーソスを発揮し、『マッドマックス』で暴走族のリーダーを演じたヒュー・キース=バーンもイモータン・ジョー役で怪演。画面の熱気をさらに高めている。

 すでに本作から3部作に仕立てる計画のあるのだとか。カー・チェイスの醍醐味を心ゆくまで満喫させてくれる、走るダイナミズム、追いかけのサスペンスに貫かれた快作。これは一見に値する。IMAX でみると迫力は超ド級だ。