『ライド・オン』は、ジャッキー・チェンがスタントマンの活躍を称えた人情アクション!

『ライド・オン』
5月31日(金)より、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
配給:ツイン
©2023 BEIJING ALIBABA PICTURES CULTURE CO.,LTD.,BEIJING HAIRUN PICTURES CO.,LTD. 旧作© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
公式サイト:https://ride-on-movie.jp/

 香港映画が隆盛を極めたのは1980年代から1990年代にかけてのことだ。まず先立つ1970年代にキン・フーの時代劇、ブルース・リーの作品が世界に香港映画の存在を知らしめ、アクション、スタントの特異性を認知させた。

 さらに香港映画の人気が倍増したのはジャッキー・チェンである。アクションにユーモアを散りばめながら、なによりも人のやったことのないスタントに力点をおいた。

 スタントはどんどんエスカレートし、怪我をすることも多かったが、唯一無二の存在を目指して頑張りぬいた。映画史に名高い『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』などは、今見ても傑出している。危険を恐れずに挑み続けるスタントは映画の最後につけられたNGシーン集でも伺うことができる。本当に身体に鞭打って成立させえたシーンばかりだと分かる。

 アメリカ映画界で認知させたのが遅かったことがジャッキーの不幸。1980年の『バトルクリーク・ブロー』あたりで進出を果たしたかったが、存在を広くアメリカで知らしめたのは1995年の『レッド・ブロンクス』以降となった。その頃には、危険をものともしないアクションスターとしての凄味は感じられなくなっていた。

 香港が中国本土に返還され、香港映画が次第に独自性を失ってからも、ジャッキーはアメリカ映画、中国本土の映画で活動を続けて今に至る。

 本作は“ジャッキー・チェン50周年記念作”と銘打たれている。1954年4月7日生まれというから、70歳の大台に達した彼が、1974年の『燃えよジャッキー拳(ビデオ題=タイガー・プロジェクト/ドラゴンへの道 序章)』に初主演してから50周年ということらしい。

 なにより本作でジャッキーは盛りを過ぎたスタントマンを演じて、スタントマンに対するオマージュを捧げていることが注目される。アクション映画を盛り上げる多くのスタントマンに対して、連帯と共感のメッセージを送っているのだ。

 監督・脚本は中国出身のラリー・ヤン。ジャッキーの過去の名スタント・シーンを随所に挿入しながら、老いたスタントマンを通して映画づくりの素晴らしさを謳いあげる。前述した『プロジェクトA』の時計台からの落下や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』の2階建てバスのシーンももちろん織り込まれている。

 出演はジャッキーを軸に、期待の若手女優リウ・ハオチュンと『アドリング』のグオ・チーリン。さらに中国を代表するアクションスター、ウー・ジンも顔を出す。

 伝説のスタントマンと呼ばれたルオ・ジーロンは怪我をきっかけに第一線を退き、撮影所で愛馬を生き甲斐に細々と暮らしていた。

 だが、馬の元飼い主が債務トラブルに遭い、馬は競売にかけられる危機に瀕する。困りぬいたルオは疎遠だった一人娘に助けを求める。法学部の学生である娘は反発を覚えながらも助けようとするうち、不器用な生き方しかできない父の真の心根を理解していく――。

 内容的には自らの生き方を貫いた男と娘の絆のストーリー。そこに映画愛、スタント愛を散りばめてみせる。もはや激しいスタントは登場しないが、演技の出来る馬との絆を前面に押し出し、娘との絆を補強してみせる。なによりも決してジメジメせずに、ジャッキーらしいユーモアが映像に満ちている。

 かつてのジャッキーの作品を思い起こしながら、見るのも一興。往年の香港アクションが懐かしく堪らなくなる。