『ドライブアウェイ・ドールズ』は徹底的に下世話で腹を抱える、風刺に富んだコメディ!

『ドライブアウェイ・ドールズ』
6月7日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画
©2023 Focus Features. LLC.
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/drive-away-dolls

 ジョエルとイーサンのコーエン兄弟はアメリカ映画で異彩を放つ、素晴らしい映画監督である。そもそも1984年の『ブラッド・シンプル』で鮮烈に登場して以来、『ミラーズ・クロッシング』やカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた『バートン・フィンク』、アカデミー賞脚本賞受賞作『ファーゴ』に同作品賞・監督賞・脚色賞を独占した『ノーカントリー』など、傑作を次々と送り出して枚挙の暇がない。

 当初は、兄弟は兄のジョエルが監督、イーサンが製作と脚本と棲み分けていたが、2001年の『バーバー』以降はイーサンも監督にもクレジットされるようになった。実際には、兄弟は現場で阿吽の呼吸で、どちらかがメガフォンをとるスタイルだったらしい。

 本作はそのイーサンがジョエルと離れ、妻のトリシア・クックと共同で脚本を書き、プロデュースしたコメディだ。

 クックは映画の編集に従事。1993年にイーサンと結婚してからも2000年の『オー・ブラザー!』をはじめ数々の作品に編集で名を連ねた。自らを性的マイノリティ、既存の性のカテゴリに収まらないクィアと位置付けるクックにとって、レズビアンを主人公にしたストーリーを書くことは極めて自然なことだったという。

 クックとイーサンは互いにアイデアを出し合うスタイルで固めていった。この手法はジョエルとの脚本づくりと同じだという。ふたりは映画を真面目になり過ぎないように取り組んだという。頭に描いたのは1960年代前半までのラス・メイヤー作品を筆頭にする下品なエロ映画。どこまでも低俗で馬鹿馬鹿しいコメディ。レズビアンのセクシュアリティをシリアスに描くことなく、社会的な意味合いの込めることのない、あっけらかんとした展開を意識したという。

 1999年12月、ガールフレンドと別れたばかりで、自由奔放なジェイミーは、堅物のマリアンとともにドライブ旅行と洒落ることにする。

 車の配送を引き受けて旅費を浮かす算段。フロリダ州タラハシーに向かうが、その車はギャングが配送するはずのものだった。彼女たちが先行したために、ギャングたちは後を追うことになる。

 アメリカ縦断の道すがら、ふたりは各地のレズビアンバーに立ち寄り、充実した時間を過ごしていたが、事故をきっかけに車のトランクに隠されたジェラルミンケースを発見する。そこには驚くべきものが入っていた。やがて、フロリダでは受け取り主の上院議員まで登場して、ふたりの旅は予想もつかない結末に向かう――。

 1960年代から1970年代にかけて数多く登場した、かつての男性主導のロードムービーそのまま。行く先々にラブアフェアありの展開を、主人公を女性に変えて、とことんオチャラケて笑い飛ばす。あまりにも低俗でB級的つくりこそがイーサンとクックの目指したものだ。どこまでもあからさまで痛快。ふたりの行動はかつての男性主導映画そのもの。ふたりの能天気な行動が男性優位社会に対する風刺になっている。

 イーサンとクックは2020年のコロナ禍の最中に自分たちで製作を決めたとコメントしている。ふたりの姿勢を理解して、イギリスの意欲的な制作会社、ワーキング・タイトルのティム・ビーヴァンとエリック・フェルナーが製作に名乗りを上げた。単におバカな艶笑コメディではないことは映画の進行とともに明らかになってくる。

 イーサンの演出は通俗に徹して笑ってしまう。楽しんでつくっている感じがなんとも好もしい。これまでのコーエン作品のコミカルな部分はイーサンが中心だったのではないか。出演者もアンディ・マクダウェルの娘マーガレット・クアリーをジェイミーに据え、マリアンにはジェラルディン・ヴィスワナサン。ともに今後の活動が期待される女優たちだ。さらにマット・デイモンも間抜けな役で登場するおかしさ。全編、イーサンとクックのコメディ・センスの成果というべきだ。

 思わず笑うしかない、無邪気なつくり。こういう映画が生まれること自体が嬉しくなる。一見をお勧めしたい。