『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』は名曲の洪水に感涙する伝記エンターテインメント!

JBメイン
『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』
5月30日(土)より、シネクイントほか全国ロードショー
配給:シンカ/パルコ
©Universal Pictures©D Stevens
公式サイト:http://jamesbrown-movie.jp/

 

 タイトル通り、“ゴッドファーザー・オブ・ソウル”と称えられたジェームス・ブラウン(以下JB)の軌跡を辿った作品だ。
 JBに関しては、もはや説明の必要はないだろう。1950年代後半から2000年代まで、アメリカ音楽シーンで躍動し、音楽史に確固たる足跡を残したアーティストだ。ソウル・ミュージックのみならず、ロック、ファンク、ラップに至るまでが、彼のサウンドの影響を大きく受けている。ビートの利いた独特のドラムの刻みのもとで、観客を熱狂させ、興奮させた。まさしく不世出の歌手といっても過言ではない。
 私生活も少年時代の窃盗からはじまり、有名になっても妻への暴力や銃の発砲で逮捕されたこともたびたび。この年代のアフリカ系アメリカ人の例にもれず、起伏に富んだ軌跡を歩んだ。さらにヒット・レコードを数々誇りながらも、身を粉にしてライヴ興行に注力。日銭を稼ぐことにこだわり、ビジネス感覚にも秀でていることを証明した。

 あらゆる面で傑出した存在のJBの軌跡の映画化は、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ラッシュ/プライドと友情』などのプロデュースで知られる重鎮ブライアン・グレイザーが名乗りを上げた。『フィーリング・ミネソタ』のスティーヴン・ベーグルマン、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のジェズとジョン=ヘンリーのバターワース兄弟の3人がストーリーを練り、バターワース兄弟が脚本に仕上げた。この脚本をJBは了承したというが、その死によって企画は頓挫してしまう。
 危機を救ったのはミック・ジャガーだった。権利を管理するジェームズ・ブラウン・エステートの責任者と親しいジャガーは、グレイザーの企画を知り、自らプロデューサーを引き受けて、映画化に尽力した。JBとは1960年代に共演をした経験もあり、大きな影響を受けたと語るジャガーは映画を熟知するクレイザーと組んだ作品で、JBにオマージュをささげたのだ。
 監督に起用されたのは『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』で1960年代のアメリカ南部の空気を巧みに再現してみせたテイト・テイラー。1930年代のサウス・キャロライナの子供時代、アフリカ系であることで生まれる確執、スターになってからの唯我独尊など、過去と現在を行き来しながらエピソードを紡ぎ、起伏に富んだ生涯を浮かび上がらせる。
もちろん、最大の魅力は流れるJBの名曲の数々。「プリーズ・プリーズ・プリーズ」から「トライ・ミー」、「コールド・スウェット」などが、映像に散りばめられていく。
 主演は『42~世界を変えた男~』でジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマン。野獣のような容貌のJBに似せるべくリーゼントの鬘をかぶり、テンション高く熱演している。なによりボーズマンがJBと同じサウス・キャロライナの貧しい家の出身であることが起用された理由であったという。
 共演は『大統領の執事の涙』ネルサン・エリスに『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』でアカデミー助演女優賞に輝いたオクタヴィア・スペンサー、同作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたヴィオラ・ディヴィス。さらに『ブルース・ブラザース』のダン・アクロイドも顔を出している。

 不仲の父と母の間に生まれたJBは9歳で父母に捨てられ、親戚に預けられる。苦難の少年時代、盗みで逮捕され刑務所に送られたJBは、慰問に来たゴスペルバンドの一員、ボビー・バードと親しくなり、彼の一家が保証人になることで出所する。
 バンドのメンバーとなった彼は、持ち前のカリスマ性と抜群の音楽性、アイデアによって注目されるバンドに変える。まもなくソロとなり、徐々に頭角を現していく。
 1962年のアポロ劇場のライヴ録音を自費で実現すると同時に、ヒット曲を連発。マーチン・ルーサー・キング暗殺の翌日にコンサートを強行することでアフリカ系の意識を鼓舞してみせるなど、アフリカ系の運動にもエールを送り続けた。
 もっとも、私生活では離婚を繰り返し、独善的でありすぎるためにバンドのメンバーと確執を生じさせる。税金をめぐって政府と戦い、ドラッグの問題も抱えていた。
 ずっと親友として支えてきたバードの離反も経験したJBはそれでもJBであり続け、白熱のステージを繰り広げた――。

 JBのキャラクターを象徴するエピソードをモザイクのように散りばめて、彼の人となりを構築していく手法。ダンスと熱唱で盛り上げるステージング、大編成のバンドに常識にとらわれないダンサンブルなアレンジを強いる手法もきっちり織り込まれる。JBを知る人々がアドヴァイザーとして参加して、キャラクターばかりか仕草に至るまでレクチャーしたという。
 テイラーの語り口は、20世紀という激動の時代を生き抜いたアフリカ系の代表としてJB を称えている。傲慢で暴力的な側面があり、その一方で情愛に飢えた寂しがり屋。情の絆を求めながら自ら壊してしまう。まことに欠点だらけの存在でありながら、生み出した音楽は圧倒的にオリジナルで、先見性に富んでいる。そうしたあまりに人間的なキャラクターを、みごとな時代考証のなかにくっきりと浮かび上がらせている。アメリカでは大きなヒットとならなかったが、テイラーの持ち味は存分に発揮されている。
 画面を彩るのはジェームス・ブラウン自身の歌声であり、バンドもバードをはじめとするオリジナルメンバーのサウンド。ジェームス・ブラウン・アーカイブに保管されているオリジナルのマルチ・トラック・レコーディングが映像にシンクロされている。この生々しい臨場感が作品の魅力をさらに倍加している。

 出演者ではボーズマンの成りきりぶりに驚かされるが、バード役のエリスの押さえたパフォーマンス、叔母役のスペンサー、実母役のディヴィスの巧さが光る。いずれも20世紀のアフリカ系が味わってきた理不尽な境遇を体現しているのだ。そのなかで、アクロイドがJBを理解したマネージャー役でひょうひょうとした味わいをみせてくれる。っ素敵なキャスティングである。

 音楽ファンはもちろんのこと、20世紀がどのような時代であったかを知るには格好の作品だ。ファンキーなサウンドに酔いつつ、JBを称えたくなる。見て損はしない仕上がりである。