2000年にストリート・レースの迫力を映像に焼き付けた第1作からはじまった『ワイルド・スピード』シリーズは、作品を重ねるごとにヒットの規模も大きくなるという、シリーズものとして稀有な存在である。本作が第7弾ということになるが、4月3日に全米で公開されるやメガヒットを記録。3日間で1億4362万ドル超の興行収入をたたき出し、今も観客を呼び寄せている。
これほどの数字になったのは、ひとつにはシリーズのメインを務めるポール・ウォーカーが本作の撮影半ばで交通事故死したことが大きい。ファンにとっては追悼の思いもあるだろうし、ウォーカー亡きあとにどのように撮影を行なったのか、どのように仕上がったのかという興味も大きかったに違いない。
もちろん、世界各地にロケ―ショーンを敢行し、回を増すごとにアクション、スタントのスケールを大きくして、ひたすら驚かそう、喜ばそうとする製作者の姿勢が広く知られ、動員にも寄与していることはいうまでもない。
本作でも、ロサンゼルス、アラブ首長国連邦のアブダビを背景にとてつもないスタントをみせてくれる。ストーリーや設定に難しいところは一切なく、冒頭からラストまで超スピードで疾走する。パワフルな音楽とヴィジュアル・インパクトで貫かれたストーリー。どんなに文化習慣が異なるところでも、この痛快さは理解される。なるほどヒットは確実である。
脚本のクリス・モーガンは『セルラー』で注目され、第3弾の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』からシリーズに参加。理屈抜きの痛快さをストーリーに盛り込みつつ、舞台を世界に広げることで、さらにファンを増やすことに寄与している。監督は『ソウ』シリーズでメジャーな存在となったジェームズ・ワンが抜擢された。ホラー作品に定評のあるワンはとことんインパクト重視。チェイスシーンではあの手この手でサスペンスを高め、クライマックスでは一気呵成のスペクタクルを披露してみせる。
なによりもキャスティングの豪華さに目を見張る。『トリプルⅩ』や『リディック』でもおなじみのヴィン・ディーゼルに故ポール・ウォーカー、『ガールファイト』のミシェル・ロドリゲス、人気歌手でもあるタイリース・ギブソン、ラッパーとしても知られるクリス・“リュダクリス”・ブリッジスといったレギュラー陣に加えて、シリーズ5弾から参加している『スコーピオン・キング』のドウェイン・ジョンソンまで、まさにヴァラエティにとんだ顔ぶれである。
これだけ強力な布陣に対抗するには生半可な俳優では歯が立たないとばかりに、本作が用意した敵役がジェイソン・ステイサム。あの『トランスポーター』シリーズや『エクスペンダブルズ』でヒロイックに活躍したステイサムを、ここでは復讐に燃える人間兵器役に据えて、主人公たちを危機に陥れる趣向だ。
さらに懐かしや、『エクゼクティブ・デシジョン』のカート・ラッセルに『アミスタッド』のジャイモン・ハンスー、テレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で注目されたナタリー・エマニュエル。しかもアクション担当として『マッハ!』のトニー・ジャーも凄まじい技を画面いっぱいに披露してみせる。まさにサーヴィス満載の顔ぶれである。
ヨーロッパを牛耳るオーウェン・ショウ率いる犯罪組織を殲滅したドミニク、ブライアン、レディ、ローマン、テズが平和な日々を謳歌していたとき、オーウェンの兄デッカードが弟の復讐を誓っていた。デッカードはアメリカに渡るやFBI特別捜査官ホブスのオフィスに侵入。ホッブスと戦い、ドミニクたちの資料を入手する。
ドミニクとブライアンが家族ぐるみの楽しいひと時を過ごしていると、デッカードから宣戦布告の電話が入る。デッカードは東京にいるドミニクの仲間カンを殺害したと報告すると同時に、ドミニクの家を木端微塵に吹き飛ばす。
デッカードは元特殊部隊の最強の暗殺者だった。仲間は家族。ドミニクは敢然とデッカードと対決するが、突然、謎の一団が現れ、デッカードは姿を消す。
その一団を率いるミスター・ノーバディと名乗る男が現れる。彼はデッカードの居場所を一目瞭然にするコンピュータ・プログラム“ゴッズ・アイ”(神の目)を使わせてもいいが、そのためには傭兵組織に誘拐されたプログラムの発明者ラムジーを救うように依頼する。
ドミニクたちはコーカサス山脈に飛行機から車ごと降りたち、傭兵組織が護送するラムジー救出計画を開始する。ここでも肝心のときに、デッカードが現れ、ドミニクたちに発砲を繰り返す。ドミニクたちの戦いはここからアブダビ、そしてロサンゼルス市街地にと激しさを増していく――。
ストリートレーサーの猛者たちが主人公なのだから、とことん派手なカースタント、チェイスが映画の最大の売り。山間の曲がりくねった道を全速力で疾走し、運転手が死んだトレーラーのなかで武術の達人と死闘を繰り広げる。あるいはアブダビの超高層ビルを車でジャンプし、ロサンゼルス市街地を空から破壊し尽くすなど、全編、見せ場の連続。観客の度肝を抜くことだけに専念している。
映画にしかできないぶっ壊し、疾走、スタント。敵がいて、味方がいて、大暴れ――この分かりやすさを提供することが、アメリカ映画のエンターテインメントの王道だといわんばかりの問答無用の演出。ここまで理屈抜きのストーリーテリングはいっそ潔い。
それにしても、スケールはどんどんエスカレートしている。今回も東京の象徴としておなじみの渋谷のスクランブル交差点も登場するなど、かなり世界公開を意識したつくり。世界を股にかけた暴れぶり焼き付けることで、アクション、スタントの新味を開拓している。トニー・ジャーを招いたことなど、その好例だ。
出演者も好調だ。ドミニク役のディーゼルが頼れる兄貴イメージで軸になれば、ブライアン役のウォーカーも最後の華を咲かせている。レティ役のロドリゲス、ローマン役のギブソン、テズ役のブリッジスもそれぞれ個性を発揮している。彼らを見守るホブスに扮したジョンソンも、最後に見せ場が用意されている。
とはいえ、今回最大の功労者はデッカード役のステイサムだ。ターミネーターも真っ青の最強不死のキャラクターを気持ちよさそうに演じている。アクの強い顔だから、ヒーローよりもむしろ、こういう敵役に向いている。
また、ラッセルも謎のミスター・ノーバディをひょうひょうと演じている。多少、顔に年輪が刻まれたが、さすがの貫録である。
最後に“ウォーカーに捧げる”で幕を引くのだが、ここまでヒットしてしまうとシリーズを打ち止めにすることが難しくなる。ウォーカー抜きのこれまでのキャラクターで行くのか、新たな設定で再出発するのか。あるいはシリーズを終わりにするのか。成り行きに注目、である。