『ジュピター』は、ウォシャオスキー姉弟による、宇宙空間を舞台にしたSFアクション超大作!

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『ジュピター』
3月28日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://www.jupitermovie.jp

 

 いつのまにか兄が姉となったが、監督ウォシャオスキー姉弟(現在はザ・ウォシャオスキーズと名乗っている)といえば、何といっても『マトリックス』3部作が忘れ難い。斬新な映像センスを駆使して仮想世界での戦いをスタイリッシュに描きだし、存在を強くアピールした。この3部作はユエン・ウーピンを武術指導に招いたのをはじめ、画期的な映像手法をふくめてさまざまなアイデアを盛り込み、その後のエンターテインメントに大きな影響を与えている。
 続いて監督した、日本のアニメーション「マッハGoGoGo」を実写映画化した『スピードレーサー』は、CGを駆使した映像はともかくとして、『マトリックス』世界を期待したファンには物足りなかったか、興行的には今ひとつの成績だった。
 さらに2012年に公開した『クラウド アトラス』では『パフューム ある人殺しの物語』の監督トム・ティクヴァと組んで、デイヴィッド・ミッチェルの同名小説を映画化。時代も場所も異なる6つのエピソードを関連させながら、大きなうねりのようなストーリーを構成していくスタイルのもと、壮大な世界を構築してみせた。輪廻転生を意識したキャスティングやかなり突き放した描き方のため、理解できなかった人も多かったという。

 それから3年を経て、本作の登場となる。本作は前2作とは異なり、ひさびさに姉弟がアイデアを絞ったオリジナル・ストーリーで勝負をかけている。これまでに生まれたSF名作に目配せをしながら、とことん平易で、エンターテインメントを意識したストーリーに仕立てるなど、ウォシャオスキーズとしては真剣に、ヒットを狙ったつくりとなっている。
 偉業を成すという予言のもとに生まれた、今は家政婦の仕事に甘んじている女性、ジュピター・ジョーンズが、何者かに襲われたのを皮切りに疾風怒濤の冒険世界に入り込んでいく。彼女を助ける究極の戦士ケインとともに、恋あり、冒険あり、陰謀ありのストーリーが展開する。ウォシャオスキー姉によれば、ホメーロスの作といわれる「オデュセイア」と『オズの魔法使』にヒントを得たものだとか。理屈抜きのアクションつなぎとゴージャスな映像が堪能できるつくりとなっている。
 出演は、『ブラック・スワン』や『テッド』で注目される、ウクライナ生まれのミラ・クニス。相手役は『マジック・マイク』や『フォックスキャッチャー』でおなじみ、アメリカでは抜群の人気を誇るチャニング・テイタム。
 共演陣は『ロード・オブ・リング』のショーン・ビーン、『博士と彼女のセオリー』でアカデミー主演男優賞に輝いたエディ・レッドメイン、『ノア 約束の舟』のダグラス・ブース。加えて『クラウド アトラス』に出演した韓国女優のペ・ドゥナ、『ヒッチコック』ノジェームズ・ダーシー、そして『未来世紀ブラジル』の監督テリー・ギリアムも顔を出す。まさに異色のキャスティングである。

 親戚とシカゴで家政婦の仕事をしているジュピター・ジョーンズは毎日が苦痛で、やる気のない日々を送っていた。
 それが一変したのは、何者かに襲われたときだった。
生命を助けてくれた戦士ケインとともに行動するうち、自分が、宇宙を支配管理する王朝の女王と同じ遺伝子配列を持つ生まれ変わりだと知る。
 女王には3人の王位継承者がいてジュピターをめぐって暗闘を繰り返していた。なかでも継承権をもつ長男バレムは彼女を亡き者にしようとするばかりか、地球ごと壊滅しようとしていた。ジュピターはケインに惹かれつつ、彼の力を借りて人類の危機を食い止めようとする――。

 確かに冒険を終えて、本当の幸福の意味を実感する展開は『オズの魔法使』をほうふつとさせる。ザ・ウォシャオスキーズは、本作で幸福と愛という普遍的なテーマに挑んだわけだ。そのため、宇宙を支配する王国が存在するというクラシカルな発想をあえて取り入れながらも、前作に関連するかのような、生まれ変わりの王位継承者という設定で、ザ・ウォシャオスキーズらしさを打ち出してみせる。
『スター・ウォーズ』から『未来世紀ブラジル』まで、古今のSF作品の影響を隠さずに、とことん観客を楽しませる趣向。もちろん、これも最新の映像マジックを駆使できる自信に裏打ちされてのことだ。ザ・ウォシャオスキーズが心がけたのは疾走する語り口。冒頭にスリリングな“掴み”を設けてからは、一気にスピードが増していく。ヒロインのジュピターと同じように、圧倒的な広がりをみせる展開にただただ翻弄されるばかりとなる。
 見せ場も宇宙空間で展開するスペクタクルや、夜のシカゴを背景に繰り広げられる圧巻のスピードのアクションなど、まさに手に汗を握るシーンの連続。盛り沢山の要素を軽やかにさばきながら、ここでは誰もが楽しめるエンターテインメント世界に徹している。アメリカでは『マトリックス』に続くオリジナルということで期待値が高かったため、今ひとつヒットしなかったようだが、“人生はものの見方をかえるだけで幸せになれる”というメッセージのもと、充分に映像に酔える作品となっている。

 出演者もテイタムが究極のヒーローぶりを発揮すれば、クニスも何度も衣装を替えて華やかな色香を漂わせる。レッドメインはいかにも英国の俳優らしい、アカデミー受賞に恥じない怪演を披露すれば、思わぬところで韓国女優ペ・ドゥナが存在を際立たせる。彼女はザ・ウォシャオスキーズが手がけるテレビシリーズ「Sense8」にも出演するなど、すっかり気に入られたようだ。

 春にふさわしい、派手なアクションと見せ場満載のエンターテインメント。ザ・ウォシャオスキーズの次の作品が期待したくなる仕上がりだ。