『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』はラテン音楽とおいしい料理満載のコメディ快作!

CHEF
『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
2月28日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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公式サイト:http://chef-movie.jp/

 

『ディープ・インパクト』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などでバイプレイヤーとして個性を発揮したジョン・ファヴローは、『アイアンマン』や『カウボーイ&エイリアン』の監督という貌ももっている。『アイアンマン』シリーズでは主人公トニー・スタークの運転手ハッピー・ホーガンを演じているからご存知の方もいるだろう。いかつい顔とごつい身体ながら、どこか愛嬌を感じさせるのが持ち味だ。
 このファヴローが俳優として名前を知られるようになったのは1996年の『スウィンガーズ』からだ。売れない俳優たちの哀歓をスウィングジャズとナイトライフを通じて描き出した作品で、ファヴローは自ら脚本を書き、主演を務めた。
 この作品は後に『ボーン・アイデンティティ』や『Mr.&Mrs.スミス』などを手がけた監督ダグ・リーマンと、アメリカで人気の高いヴィンス・ヴォーンの存在を広く知らしめたが、これもファヴローの脚本の妙あってのこと。PRのために来日したファヴローはむしろ知的で繊細な印象で、脚本執筆の経緯について次のように語っていた。
「ぼくの書く脚本は自分自身の生活や思いを反映している。この作品では売れない俳優のぼくと友人との会話や軽口をまとめながら、自分のパーソナルな部分を露わにした」
 この作品の成功により、ファヴローは俳優としての存在をアメリカ映画界に認知させ、さらに監督としての活動もするようになった次第。
 それからほぼ20年近い歳月を経て、ファヴローは出世作当時の気分で脚本を書き上げ、みずから主演するとともに、監督、製作までも引き受けた作品で勝負をかけてきた。あくまでファヴロー色に染め上げた本作は、家庭よりも仕事を優先させた料理人が家庭人としてどのように歩むかを描いている。
 映画も料理もクリエイティヴな作品を観客に提供する部分では共通しているとあって、ファヴロー自身の思い、家族への思いがいかんなく注入されている。さらにもはや無視しきれなくなったSNSやネットの影響力も織り込んで、はつらつとした成長コメディに仕立ててみせた。何よりうれしいのは、ラテンからブルース、レゲトンをはじめとする多彩な音楽とともに、マイアミからロサンゼルスに至る“食のロード・ムーヴィー”になっていること。マイアミのキューバサンドイッチ、ニューオルリンズのベニエ、テキサスのBBQなどが画面に登場、いたく食欲を刺激する。
 ファヴローの人徳によるものか、出演者は豪華な布陣となっている。『マチェーテ・キルズ』のソフィア・ベルガラに『エグゼクティブ・デシジョン』のジョン・レグイザモ。『LUCY/ルーシー』のスカーレット・ヨハンソン、『三銃士』のオリヴァー・プラット。さらに『卒業』の名優ダスティン・ホフマンに『アイアンマン』のロバート・ダウニーJr.まで、まさに百花繚乱。
ましてブルース・ロックのゲイリー・クラークJr.や、ラテンの大御所ホセ・カリダ・エルナンデスも画面に登場し、演奏を披露するのだから応えられない。

 ストーリーは、かつて料理界の新鋭と称えられていたカール・キャスパーに焦点を当てる。今では、彼は山の手のおしゃれなレストラン“ゴロワース”の総料理長として、オーナーの望む定番料理をつくり続ける日々となっていた。
 人気グルメ・ブロガーのラムジー・ミシェルが来店するというので、キャスパーは張り切るが、オーナーは変わらぬメニューを要求。結果として厳しい評価を下される。
 SNSに無縁だったキャスパーは、別れた妻と暮らすひとり息子パーシーのスマートフォンでミシェルのツイッターに罵りの反論を出す。これが拡散して、店は客が詰めかけるが、オーナーは新たなメニューを認めず、キャスパーを料理長から外す。来店したミシェルが“キャスパーは逃げ出した”とツィートしたので、キャスパーは激昂。店内でミシェル相手に大立ち回りを演じ、その一部始終がネット動画として流れる。
 職を失い、雇われる先もなくなったキャスパーはマイアミに戻り、妻の先夫の助けを借りて、オンボロなフードトラックを入手する。一から出直しとばかりに、友人のマーティンと前妻、パーシーの助けを借りてキューバサンドイッチを売りにした移動販売をはじめる。マイアミからロスアンゼルスまでの大陸横断販売旅行、それはキャスパーとパーシーの絆を育む旅にもなった――。

 腕はいいが、傲慢で一本気な料理人が自ら危機を招き、心機一転。フードトラックという直接、客の反応が見える状況で、料理を作る喜びを再認識し、さらに子供の切なる思いを知って絆づくりに向き合う展開。ファヴロー自身は家庭的であることを任じているが、仕事にのめりこむあまり家族を置き去りにした経験がある。仕事と家庭の両立は難しいが、成し遂げる方法は決して不可能ではないことを、本作で明るく謳いあげている。
 近年はメジャー作品を手がけることが多くなったファヴローだが、年齢を重ねるにしたがって、仕事と家庭の在り方を再認識したというところか。予算のやりくりから撮影期間まで、すべて目配りをしなければならないインディーズ方式だからこそ、ファヴローの思いが全編を貫くことにもなった。撮影期間は『スウィンガーズ』と同じく1カ月だったというが、用意周到、充分に中身の濃い内容となっている。
 現在、アメリカ西海岸では流行っているフードトラック・ブームの火付け役である料理人、ロイ・チョイの監修のもと本作は製作されている。ファヴロー自身、料理には一家言あって、とにかく画面に登場する料理がいずれも涎が出そうになるほど、おいしそうなのだ。キューバサンドイッチのみならず、冒頭に供されるコース料理、フードトラック旅行の行く先々でキャスパーたちがかぶりつく食べ物の魅力的なこと! 見終わった後、何か食べたくなるのは必定だ。

 出演者はファヴロー自身の熱演はいうまでもない。感情過多な職人気質のキャラクターをくっきりと浮かび上がらせている。ファヴローの友情から結集した共演陣も素敵な存在感だ。ベルガラが気のいい別れた妻に扮すれば、レグイザモは主人公に協力する友人マーティンをさらりと演じてみせる。ヨハンソンは愛人役で、プラットはうるさ型グルメ・ブロガー。ホフマンは頑迷なレストラン・オーナー、ダウニーJr.は妻の先夫をコミカルに表現している。それぞれが適役滴演である。

 ノリのいい音楽、軽快な語り口に彩られ、最後の最後まで楽しめる。食と音楽からアメリカ文化の多様さを実感させてくれる仕上がり。邦題はいささか説明過多ながら、一見の価値はある作品だ。