『ANNIE/アニー』はブロードウェイ・ミュージカルの楽しさを満喫できる、希望を謳いあげた快作!

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『ANNIE/アニー』
1月24日(土)より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.annie-movie.jp/

 

 数あるブロードウェイ・ミュージカルの傑作のなかでも「アニー」はとりわけ日本人にとって認知度の高いものだ。そもそもはハロルド・グレイの新聞の連載漫画「小さい孤児アニー」を原作にしてミュージカルが制作され、1977年に初演されたのがはじまり。トニー賞の7部門を受賞するとともに、ロングラン公演を重ねた。世界各地で現地キャストによる公演も行なわれるようになった。
 1982年にはジョン・ヒューストンによって映画化され「TOMORROW」をはじめとするチャールズ・ストラウスとマーチェィン・チャーニンの楽曲は日本でも親しまれるようになった。さらにこのミュージカルは、1978年より日本人キャストによって舞台で演じられ、1987年以降は現在に至るまで、毎年公演が行われている。1933年の世界大恐慌を背景に、夢と希望を失わない少女のこのサクセスストーリーは日本人にとっても認知度の高い題材であるのだ。
 本作はこのミュージカルを現代のニューヨークに舞台を移し、躍動感にみちたミュージカル世界を生みだしている。製作には、ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット=スミス夫妻が名を連ねているが、当初は彼らの娘のウィロー・スミスのために立てた企画だったらしい。最終的に『ハッシュパピー~バスタブ島の少女~』でアカデミー主演女優賞に最年少ノミネートされたクワベンジャネ・ウォレスが抜擢されることで実現にこぎつけた。製作にはラッパーで音楽プロデューサーのショーン“ジェイ・Z”カーターも参画している。
 脚色にあたったのは、監督、製作も兼ねる『ステイ・フレンズ』のウィル・グラック。『プラダを着た悪魔』や『幸せのキセキ』などで知られる脚本家のアライン・ブロッシュ・マッケンナと組んで、オリジナルのエッセンスを抽出しつつ、現代人も素直に共感できるストーリーに錬金している。
 旧ワールド・トレード・センター跡地やイーストハーレムなど、ニューヨーク中にロケーションを敢行し、「トゥモロー」や「メイビー」、「イッツ・ザ・ハード・ノック・ライフ」などの名曲の数々が、ビートの利いたアレンジで披露される。担当したのはオーストラリア出身のシンガー・ソング&ライター、シーアと、音楽プロデューサーのグレッグ・カースティン。ふたりは、新曲を3曲も挿入することで作品のオリジナリティをアピールしてみせる。
 しかも出演者が異色の顔ぶれ。『Ray/レイ』でアカデミー主演男優賞に輝いたジェイミー・フォックスに、テレビシリーズ「ダメージ」で注目されたローズ・バーン、さらに『チャーリーズ・エンジェル』などでおなじみのキャメロン・ディアスが金銭目当ての里親という悪役的キャラクターをコミカルに演じてみせる。マイケル・J・フォックスやリアーナ、ミラ・クニス、アシュトン・カッチャーなど豪華にスターたちがカメオ出演するのも楽しい。

 孤児のアニーは、毎週、金曜日になると、置き去りにされたレストランの前で、両親が迎えに来るのを待ち続ける。彼女は歌手の夢にすがって生きる独身女性ハニガンが営む施設で暮らしていた。
 ある日、アニーは車にはねられそうになったところを、携帯電話会社のCEOで市長候補のスタックスに助けられる。アニーを救出した映像が流れ、支持率がはねあがったスタックスは子供が大の苦手だったが、利用しない手はないとアニーと同居生活をすることにする。
 アニーの方も有名になれば両親が名乗りを上げるかもしれないと協力。はじめはぎくしゃくしていた関係も、お互いが心を開くことで思いやりの心をいだきあうようになる。
 スタックスの心にアニーを養女にしたいという気持ちが生まれるが、アニーの両親だと名乗る夫婦が名乗り出てくる――。

 オリジナルでは軍需産業で財をなした大富豪が、ここではIT長者というのも今風か。アニーにしても現代ニューヨークの孤児ということで、目端が利きサバイバル能力に長けている設定。同様に悪役であるハニガンにしても、有名になれば幸せになれると考えているコミカルなキャラクターに変更されている。
 脚色・監督のグラックは生粋のニューヨーク子だけあって、この大都会の現在にふさわしいリアリティをストーリーのなかに盛り込んでいる。アニーが「トゥモロー」を歌うシーンはイーストハーレムのレキシトン街で撮影され、ダウンタウンの東12 丁目にあるイーストサイド・コミュニティ・スクールはアニーが通うハーレムの学校に使われている。加えて両親を待つアニーが通うイタリア料理店のドマーニはグリニッチヴィレッジのカフェ、クリュニー(西12 丁目)が使われるなど、いかにもここで生活してきたニューヨーク子らしい場所選びである。
 グラックとしては、昔ながらのサクセスストーリーに生き馬の目を抜く都会の雰囲気を添えることで新しい味わいにしたかった。その試みは成功している。今様のアレンジのもとで、現代ニューヨークの風景のなかで歌われる名曲の数々。これだけでも十分に楽しめる。1977年のオリジナルが誕生した頃よりも、今の方がよほど閉塞感は増している。そういう時代であればこそ、あえて明日の希望を信じる能天気な展開に癒されるわけだ。

 出演者で驚かされるのは、アニー役のウォレスの達者さだ。『ハッシュパピー~バスタブ島の少女~』のときは、幼さが前面に押し出されていたが、本当に成長が早い。世事にも長けた、タフな少女のアニーをウォレスは嫌みなく演じきる。歌も過不足ないし、本当にアメリカの子役の層は厚いと再認識させられる。
 IT長者スタックスをフォックスが軽妙に演じれば、ディアスは意地悪なのに間抜けなハニガンをコミカルに演じてみせる。それぞれがこれまで演じたことのないキャラクターにチャレンジしたことも見どころといえる。

 素直に明日を信じて生きていければ、もっといい世界になる。このメッセージがファンタジーとして片づけられないような状況にしたいものだ。ミュージカルの復権を願って、お勧めしたい。