『ベイマックス』は日本のポップカルチャーに対する愛で貫かれた、王道のディズニー・アニメーション!

BIG HERO 6
『ベイマックス』
12月20日(土)より、TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
©2014 Disney. All Rights Reserved
公式サイト:http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/baymax/

 

 今年の洋画の話題は何といっても『アナと雪の女王』の超ヒットだろう。なにせ興行収入が259.2憶円。歴代ランキングでは『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』に次いで3位にランクしたのだから恐れ入る。近年、洋画興行の不調が伝えられていたが、神風が吹いた印象だ。
 あえてミュージカル的要素を前面に出して、歌の魅力をアピールしたウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンの戦略の確かさに頭が下がる。日本の女性の就業率の低さをはじめとする社会の不満が、作品の女性主導のストーリーの共感につながったとの分析もあるが、どうも後付けの印象は拭えない。むしろ、女性を無条件に受け入れる展開のもと、とことん主題歌「レット・イット・ゴー」を語感のいい「レリゴー」で広め、“ありのままに”のコンセプトで押し切った勝利だろう。
 このヒットの余韻が未だ残るこの正月、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンはさらなる矢を放つ。日本のポップカルチャーの影響が大きいアニメーション『ベイマックス』で勝負をかけてきたのだ。舞台がサンフランシスコと東京を合わせたようなサンフランソウキョウで、主人公の少年の名前がヒロ。ヘルスケア用ロボットのベイマックスがヒロの友となり、クライマックスでは日本の“戦隊もの”に習ったチームで敵と戦う寸法だ。
 マーヴェル・コミックのあまりメジャーではないコミック「ビッグ・ヒーロー・シックス」をもとに、設定を大きく変えて、殆どオリジナルのような意匠で完成させている。脚本・監督のドン・ホールは『くまのプーさん』で監督デビューを飾った存在。本人が“日本のカルチャーに影響を受けた最初の世代”と自認するごとく、制作にあたっては徹底的にリサーチをかけ、日本の美意識やKAWAII 文化を作品のなかに掬い上げている。
 共同監督は『ボルト』のクリス・ウィリアムズ。彼もまた日本文化の信奉者だ。このふたりに、『モンスターズ・ユニバーシティ』のロバート・L・ベアードとダニエル・カーソン、『アナと雪の女王』のポール・ブリッグスが加わって、ストーリーを練り上げていった。
 制作にあたっては、レイアウト・アーティストのマット鈴木、アート・ディレクターのスコット・ワタナベ、イラストレーターの上杉忠弘なども参加して、日本テイストを映像に盛り込んでいる。主人公ヒロの声に、父親が日本人で東京の生活経験のあるライアン・ポッターを起用したのも製作陣のこだわりの反映か(日本語吹き替え版は「エウレカセブンAO」の声の本城雄太郎)。ふたりの監督はテンポを速く、痛快さを押し出しつつ、エモーショナルな要素をきっちりと浮かび上がらせる。日本人にはぴったりくる感じだ。

 幼い頃に両親を失くした14歳の少年ヒロは優しい兄タダシとともに、サンフランソウキョウの叔母キャスの家で暮らしている。ロボットづくりに天才的才能をもつヒロは、タダシの通うサンフランソウキョウ工科大学についていき、個性的な生徒たちやロボット工学の第一人者、キャラハン教授と出会う。
 独創的な研究発表をすれば、飛び級をして大学に入学できる。そのことを知ったヒロは懸命に研究し、ついに驚異的な発明をする。それは多数の指と同じくらいのミニサイズのロボット。神経トランスミッターを介して、ロボットを思うがままの集合体に変化させることができる。
 発表会ではヒロの発明は称賛の嵐となったが、その喜びもつかの間、会場で火の手が上がり、キャラハン教授を助けようとしたタダシが逃げ遅れてしまったのだ。
 悲しみに暮れるヒロの前に、タダシの発明したヘルス・ケア・ロボットのベイマックスが現れる。ヒロの心の傷を知ったベイマックスは“ふにゃプヨ”ボディでヒロを優しく包み込む。ヒロにとってはベイマックスが掛け替えのない存在になる。
 だが、ふとしたことから、発表会の火事が仕組まれたものであることを知る。どうやらヒロの発明が理由らしい。ベイマックスがヒロの心を癒すために召集した個性的な生徒たちとともに、ヒロは真相を究明していく――。

 なによりもベイマックスのふくよかな容姿が抜群である。いかにもやわらかそうで包み込まれるような巨体に、シンプルな顔。顔は日本の寺の鈴からイメージされ、動きは赤ちゃんペンギンのよちよち歩きを参考にしたというが、なるほど可愛い。監督の狙いにはまってしまう。
 サンフランソウキョウの風景も日本人にとっては微笑ましい。リサーチ旅行の成果か、渋谷、秋葉原、新宿・歌舞伎町の街並みやネオン、ショッピングモールや裏通りの雰囲気、果ては自販機、電柱、電車内の女子高生のファッションまでを映像に取りこんで、サンフランシスコ的世界と融合させ、独特の雰囲気を生みだしているのだ。膨大なデータを駆使するために、最新のレンダリング技術を開発したというから凄まじい。
 もちろん、ストーリーの核は絆だ。ヒロとベイマックス、ヒロとタダシ、ヒロと仲間たちのつながりがエモーショナルに綴られる。クライマックスはヒロと仲間たち、ベイマックスが“戦隊”を組んで強敵に立ち向かう展開となるのだが、ベイマックスが見る者のエモーションをかきたてる役割を演じる。詳細は見て判断いただきたい。なるほど、ホールとウィリアムズの監督コンビ、エンターテインメントのツボはきっちり押さえている。
 ウィリアムズは、本作が『となりのトトロ』の優しくシンプルなキャラクターや人間関係、ストーリーの影響を受けているとコメントする。大きな影響を受けた日本文化に敬意を払いつつ、本作で恩返しをしたいとの、監督の熱い思いがなるほど作品から感じ売られる。

『アナと雪の女王』以降、日本語吹き替え版の顔ぶれも話題になるが、本作ではタダシに小泉孝太郎、キャスに菅野美穂が起用されている。しかもエンドソングにAIの「STORY」が選ばれるなど、どこまでも日本人の琴線をゆさぶる趣向だ。

 アメリカでも現時点で2億ドルに迫る興行収入を記録している。爽やかさと痛快さ、ペーソスに満ちていて、なるほどファミリー・ピクチャーとして文句のつけようがない。お勧めしたい。