
9月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、kino cinema新宿、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画
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公式サイト:zsazsakorda-film.jp
発表する作品が常にユニークで唯一無二。中毒になるほど惹かれる人もいる一方、まったく受け付けない人もいる。かのローリング・ストーン誌は「アンダーソンはアメリカ映画界のパクチーのような存在だ」と表現したとか。まことクセの強い作風と豊かな映像感性、諧謔といいたくなるような知性溢れる語り口まで、病みつきになる魅力を秘めている。
1996年に長編監督デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』でカルト的な注目を集め、続く『天才マックスの世界』で高い評価を受け、ハリウッドで期待される若手監督の一人に数えられた。
2001年の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』では、アカデミー賞脚本賞にノミネート。以降、『ダージリン急行』(2007)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013)などを送り出し、その個性を発揮した。2009年の『ファンタスティック Mr.FOX』、2018年の『犬ヶ島』ではアニメーションにまで手を伸ばし、才能を広く世に問うた。
ただ近年は『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)に『アステロイド・シティ』(2023)と悪ノリというか、いささか才に走りすぎた印象があった。
本作は原点回帰というか、初期の作品のように、家族の絆と再生をテーマにしている点で特筆に値する。
1950年代のヨーロッパ、アンダーソンはフェニキアという国を設定し、そこで世界中に影響を与える大富豪、ザ・ザ・コルダを主人公に据える。
ザ・ザは国際的な実業家でワイロや脱税などお構いなし。冷酷で強引な手法によって、ライバルのみならず、他国の政府まで敵にまわしていた。
彼は陸海のインフラを整備する「フェニキア計画」に挑み、9人の息子がいたが、相続人に修道女見習の娘リーズルを指名する。
信心深いリーズルは父を嫌悪しながらも、父の資金を使って善行を施すことができると考え、家庭教師とともにザ・ザと旅に出る。行動をともにするにしたがって、ザ・ザとリーズルの関係に変化が生じてくる。果たしてふたりは本当の意味で家族になることができるのか――。
『市民ケーン』のような産業界の大物を描いた名作群を肴に、アンダーソンはコミカルにストーリーをつくりあげる。そもそもは1950年代に実在したアリストテレス・オナシスをはじめとするヨーロッパの大富豪を題材にしたいと考えたのがきっかけ。そこから娘との絆が物語の軸になっていったという。
いつものように見る者を当惑させながら、自分の世界に引きずり込む手法はそのままだが、風変わりな父と娘のやりとりで展開する。ユーモア、おかしみ、そして切なさにまで至る展開の妙。まさにアンダーソンならではの映像世界が繰り広げられる。
なによりも出演者が素晴らしい。ザ・ザ役のベニチオ・デル・トロは脚本段階からあて書きされただけあって、この怪物的キャラクターをみごとに演じ切ってみせる。冷酷で切なさも滲ませるあたりが真骨頂だ。
リーズルには『タイタニック』のケイト・ウィンスレットの娘、ミア・スレアプレトンが抜擢されている。オーディションを勝ち抜いたというが、とぼけたユーモアが素敵だ・
さらにトム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・セラ、マチュー・アマルリック、ジェフリー・ライト、ウィレム・デフォー、ビル・マーレイまで、いつもながら絢爛豪華な俳優陣が脇を固める。アンダーソン作品なら挙って出演する国際色豊かな顔ぶれにただもう口をあんぐりするばかりだ。彼らがいかにも楽しげに登場するのをみていると、自然と口がほころんでしまう。
おまけにルノワールやマグリッドの本物の絵画、カルティエやプラダ、ダンヒルなどの装身具も用意される。すべて本物というのも売りだろう。
父娘の絆を核に、アンダーソン世界が華麗に繰り広げられる。人を選ぶかもしれないが、素敵な快作である。