アメリカのアカデミー賞長編アニメーション部門において、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』が受賞したことが話題になっている。日本公開時には一切の情報を出さなかったことでいつものような爆発的ヒットとはならなかったらしいが、海外ではきっちりとプロモーションしたと聞く。少なくともこの作品に関してはいつも通りのプロモーションで日本人の支持を集めるべきだった。監督の脳内世界という評があるならなおさらのことだ。
それはさておき、このニュースに触れずとも、日本のアニメーションの好調ぶりには目を見張るものがある。配信をふくめ、販路が増えたことも影響するか。意欲的な原作、題材の作品は増える一方だ。
本作はその好例である。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』という長たらしい題名はコミック・ファンならご存知のもの。浅野いにおがビッグコミックスピリッツ誌に連載し、熱狂的な賛辞を集めたコミックのアニメーション版である。
原作は第66回小学館漫画賞一般向け部門に輝き、第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞も受賞した。2014年から連載され、圧倒的な世界観と共感度の高いストーリーで、ファンを熱狂させた。ざっくり言えば、地球外からの侵略者が日常に溶け込んだ世界を舞台に、青春を謳歌する少女たちの姿を描いた作品。本作が2部作の前編にあたる。
企画が開始されたときは連載が終了しておらず、結末がどのようになるか不明のまま進んだという。『ぼくらのよあけ』などで知られるアニメーション・ディレクターの黒川智之は原作のメッセージに忠実に描くことを念頭にプロジェクトに取り組んだという。
構成と脚本を担当した吉田玲子はスタジオジブリの『猫の恩返し』や、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』など多くの作品を残してきたが、本作に対してはコミックの膨大な情報量をいかに整理してアニメーション化するかに神経を使ったという。原作では群像ドラマの趣があったが、本作では小山門出と中川凰蘭(おんたん)のふたりの絆を絞り込んで描いている。
3年前の8月31日、突如、巨大な宇宙船が出現し、人類はパニックに陥った。排除することもできず、空中に存在を主張している宇宙船。それでも人間生活は営まれる。
非日常の状況が日々の生活のなかに溶け込んでいく。小山門出と中川凰蘭は学校や受験に追われつつ、毎晩オンラインゲームで盛り上がる。
青春しているふたりにも変化は着々と訪れる。世界は破滅に向かっていくのか――。
テンポの速い語り口で、女子高生たちの日常が紡がれる。先の見えない状況であっても、人は日常生活を続けていかざるをえない。原作に影響しているのは東日本大震災だろうが、その後にコロナ禍も襲い、日本人は出口なしの状況となった。本作がリアリティを持って迫ってくる所以である。
黒川智之と吉田玲子は原作から大胆な変更を凝らした。原作ファンはどのような感慨を持つだろうか。少なくとも、瑞々しい青春ストーリーに仕上がっていることは間違いない。溌溂としたキャラクターたちは好ましく、とにかくストーリーに惹きこまれる。製作したProduction +hは「地球外少年少女」で注目を集めたが、ここでも素敵な仕事ぶりである。
声の出演者も凝っている。ヒロインの門出には、シンガーソングライターでYOASOBIのヴォーカルikuraとして活動する幾田りら、中川凰蘭にはタレント、モデル、ミュージシャン、俳優とマルチな活動を繰り広げる、あの。ふたりの個性がいかんなく発揮されていることが作品の魅力にもなっている。
次に期待を持たせつつ、前章は幕を閉じる。果たして地球はどうなってしまうのか。ヒロインふたりの行く末は明るいのか。すべては4月19日(金)公開の後章で明らかになる。楽しみである。