ガイ・リッチーといえば、マドンナとの結婚歴で知られるが、映画監督としても目覚しい活動をしてきた。
1998年の長編監督デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で熱狂的な支持を獲得し、リッチーはイギリス映画界のホープと目されるようになった。続く『スナッチ』ではブラッド・ピットの出演も話題になり、リッチーのカリスマ性は高まる一方だった。
リッチーに陰りが出たのは2000年にマドンナと結婚してからだろう。彼女主演の『スウェプト・アウェイ』は大失敗し、結婚も長くは続かなかった。仕事に専念するようになり、『シャーロック・ホームズ』2部作でヒットを重ね、続いてテレビシリーズの映画化『コードネームU.N.C.L.E』やハチャメチャ史劇『キング・アーサー』、さらにアニメーションの実写リメイク『アラジン』など、さまざまなジャンルに挑戦してみせた。
2019年の『ジェントルメン』で原点復帰とばかりに裏社会の群像ドラマを快調に仕上げたリッチーは、『キャッシュトラック』でフランスのサスペンスのリメイクに挑み、本作に至る。きびきびした語り口に加え、多様な題材に挑んだ成果が近年の作品群にはみられる。
本作はズバリ、イギリス・スパイ映画の華麗なる復活といえばいいか。往年のテレビシリーズ「スパイ大作戦」的な集団ミッションの現代版。007シリーズのロジャー・ムーア時代のようなユーモアをてんめんと散りばめながら、チームプレイがテンポよく疾走する。これまでにつくられたスパイアクションの面白さを踏襲しながら、世界を股にかけたストーリーを構築。リッチー・ファミリーの一員であるアイヴァン・アトキンソンとマーン・デイヴィ―スとともに、脚本を練り上げ、どの世代にもアピールする肩の凝らないエンターテインメントに仕上げている。
リッチーが目指したのはスパイ映画のサスペンスとコメディの中間点にある作品。ロンドンからマドリード、ロサンゼルス、モロッコ、トルコ、ドーハとめまぐるしく舞台を変えて、凄まじいスタントとアクションをメインに、ギャグを交えて紡ぎだす。
風光明媚な背景にふさわしく、キャストも豪華絢爛だ。リッチーが発掘し、今やアクションスターとして国際的な活躍をするジェイソン・ステイサムをタイトルロールに押し出し、その魅力を際立たせる。
さらに『チャイルド・プレイ』(2019)のコメディエンヌ、オーブリー・プラザ、『パール・ハーバー』のジョシュ・ハートネット、『プリンセス・ブライド・ストーリー』のケイリー・エルウィズ、『ジェントルメン』のバグジー・マローン、最近は脇役にまわった感のある『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラント、『おみおくりの作法』のエディ・マーサンまで芸達者が揃っている。
ウクライナで正体不明のアイテム“ハンドル”が武装集団に奪われた。MI6のコーディネーター、ネイサンに回収の秘密指令が下された。ネイサンは、金はかかるが凄腕のオーソン・フォーチュンをリーダーにチームを組む。
メンバーはサイバーテクノロジーの専門家サラと、若きオールラウンダーJJ。チームは“ハンドル”に繋がるハードディスクを入手するが、英国政府が雇った別グループと競合する形になった。
ハードディスクの引き取り手は武器商人グレッグだった。フォーチュンとメンバーは、グレッグが贔屓にしているアメリカの映画スター、ダニー・フランチェスコを脅かして、グレッグに近づける。メンバーはダニーの取り巻きに扮して、行動をともにするが、事態は思わぬ展開をみせていく――
冒頭の事件から、一気呵成。スタントとアクションの連続に加え、ギャグで疾走する。フォーチュン役のステイサムは無表情で貫き、ネイサン役のケイリー・エルウェス、グレッグ役のヒュー・グラント、ダニー・フランチェスコ役のジョシュ・ハートネットがコミカルに徹する。往年のスパイ映画的な予定調和で最後まで痛快に楽しませてくれる。最近はヒネリすぎたアクションが多いなか、安心してみていられる作品はむしろ新鮮に映る。リッチーは昔ながらの個性を発揮し、どこまでもエンターテインメントに徹している。
堅いことをいわずに、派手な画面と豪華な顔ぶれを楽しむエンターテインメント。お勧めする所以だ。