
12月5日(金)よりkino cinema新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:https://kga-movie.jp/
マイケル・キートンといえば、古くからの映画ファンはティム・バートンとのコラボレーションによる『ビートルジュース』や『バットマン』、『バットマン リターンズ』あたりが焼き付いている。
もともとスタンダップコメディアンから出発したのだが、顔が生真面目なのでシリアスな方向に行ったのは当然の成り行きか。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の2014年作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』での演技は忘れ難い。以後、クセのある役柄を好み、独自の路線を歩み続けている。
監督デビューを果たしたのは2008年の『クリミナル・サイト ~運命の暗殺者~』だ。本作がひさびさの監督の第2作となる。
そもそもはキートンがグレゴリー・ポイリアーの脚本に魅了されたことがきっかけだった。ポイリアーは2001年の『トムキャッツ 恋のハメハメ猛レース』で監督の経験もあるが、無名時代には脚本のリライトで腕を磨いた苦労人。この脚本はとりわけ力を入れた自信作という。
フィルムノワールのジャンルでありながら、そこに留まらない。親子の絆、人間関係を軸としたドラマだと、キートンはコメントしている。自ら手掛けるにあたって、キャスティングは気心の知れた演技派が結集している。
まず『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のジェームズ・マースデンを息子役に据え、元妻役に『ポロック 2人だけのアトリエ』でアカデミー助演女優賞を獲得したマーシャ・ゲイ・ハーデンを配す。
さらに『COLD WAR あの歌、2つの心』で注目されたポーランド女優ヨアンナ・クーリク、『フォードvs フェラーリ』のレイ・マッキノン。TVシリーズで主に活動するスージー・ナカムラ。そして御大アル・パチーノが場を締める。まことに凝ったキャスティングである。
もの忘れに悩む殺し屋ジョン・ノックスはクロイツフェルト・ヤコブ病だと宣告される。
アルツハイマーに似ているが治療法はなく進行速度は速く治療法はない。覚えていられる時間は数週間。
週に1度、コールガールのアニーを自宅に招く以外は、孤独な生活を送っている。哲学を学び、緻密、冷徹な仕事ぶりで過ごしてきたが、任務中に発作に襲われ、ターゲットに加えて無関係の女と相棒まで殺してしまう。
3人が撃ち合ったように細工し、いよいよかと覚悟するジョンだったが、帰宅したら息子のマイルズが人を殺したと飛び込んでくる。
父の仕事を知って袂を分かったマイルズだが、娘を妊娠させた男に我を忘れて、殺したのだという。ジョンは息子の殺害現場に向かい、ある完全犯罪を思いつく。
同じころ、男女3人殺人事件を追っているイカリ刑事は監視カメラからジョンを知るが、事件に結びつける証拠はなかった。
ジョンは古い仲間のゼイヴィアに協力を願い出て、完全犯罪に挑んでいく――。
マイケル・キートンはバスター・キートン並みのストーンフェイスでクールな殺し屋を演じ切る。どことなく惚けた風情を残しつつ、あくまでもオフビート、ほんのりユーモアを滲ませながら、凄みも十分。やはり年齢とともに病に対する恐れと諦観を画面に漂わせる辺りはキートンの現在の心境なのだろう。ロサンゼルスの景色のなかにスタイリッシュかつペーソス漂う殺し屋が際立つ。
豪華な出演者にきっちり芝居をさせているのもいい。セイヴィア役のアル・パチーノが巧みに場をさらうのは当然として、アニーに扮したヨアンナ・クーリクも味わい深いパフォーマンスだ。それぞれに見せ場を設けているマイケル・キートンを褒めるべきか。俳優・監督となると、俳優たちに情が入るのは致し方ないところだ。
さらりとクールに魅せるノワール。確かに渋いが、こういう作品が公開されるのは何より嬉しい。