『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』は心がほっこりするロマンティック・ファンタジー。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』
12月19日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、kino cinema新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://beautiful-journey.movie/


 往年のハリウッド作品は出演者の顔ぶれで惹きつけるものが少なくなかった。個性的な輝きを放つ俳優同士の競演はそれだけで観客の心をつかむ。近年は個性に富んだ俳優、スターが少なくなったとはいえ、それでも食指を誘う存在は必ずいる。

 本作の競演はなかなかに魅力的だ。片や『スーサイド・スクワッド』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』などで話題を集め。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、さらに『バビロン』に出演。そして『バービー』の大ヒットに至ったマーゴット・ロビー。『バービー』では主演ばかりか製作も引き受けたのだから、彼女の目利きぶりには頭が下がる。

 彼女に対するのは『ロブスター』や『THE BATNAN‐ザ・バットマン』、『イニシェリン島の精霊』などで強烈な個性を発揮し続けるアイルランド出身の男優、コリン・ファレルだ。スクリーンを彼ならではの色に染め上げる。どちらかといえばもっさりとした容姿ながら、忘れえぬ存在感の持ち主だ。

 このふたりが持てる技量を惜しげもなくぶつけ合って、素敵なファンタジーをつくりあげた。

 日本人には馴染みがあるかもしれない設定でファンタジーに仕立て上げたのはセス・リース。タブロイド紙のヘッドライターから、『ザ・メニュー』で脚本家デビュー。このストーリーは失恋した直後に、レンタカーで友人の結婚式に赴いた途中で閃いたのだという。

 この脚本に監督のコゴナダが魅せられた。韓国ソウル生まれで、小津安二郎を敬愛し、アメリカで2017年に『コロンバス』を発表。2021年に『アフター・ヤン』で広く存在を知られるようになる。アメリカ人には真似のできない繊細さ、優しい眼差しが身上の人だ。彼が音頭を取って、マーゴット・ロビーとコリン・ファレルが参加することになった。

 特筆すべきは、音楽に久石譲が起用されたこと。コゴナダが宮崎駿のアニメーションの大ファンであったことから、久石譲の起用を進言したといわれる。

 共演は『再会のとき』や『シルバラード』で人気を集め、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』をはじめコメディからシリアスまで、素晴らしいパフォーマンスを誇ったケヴィン・クライン。さらに英国の若手女優で脚本家の貌も持つフィービー・ウォーラー=ブリッジなど、芸達者が揃っている。

 友人の結婚式で知り合ったデヴィッドとサラは、レンタカーを借りるが、車はカーナビに導かれ奇妙なドアにたどり着く。

 そのドアの先は、それぞれの「人生で一番やり直したい日」につながっていた。

 デヴィッドが淡い初恋を経験した高校時代や、サラの母親が最期を迎えた場所など、それぞれの苦い思い出。

 ふたりは、そんな不思議な旅を続けながら、それぞれの人生のターニングポイントとなった出来事と再び向き合っていく――。

 唐突に扉が現れ、過去に誘われる趣向は「ドラえもん」の「どこでもドア」をほうふつとさせる。その扉の奥には「人生のなかで悔いが残った日」が再現される。デヴィッドとサラの深奥に刺さったトゲが再び体験させられることで解消できるのかどうか優しく綴られていく。コゴナダの語り口は穏やかで起伏に富んでいるわけではないが、細やかで見る者の胸に染み込んでくる。人間には誰しも「やり直したい瞬間」というものがある。それを再びやり直せたら、どんなに素敵なことだろう。

 展開自体は予想を裏切るサプライズはないものの、見終わった後にとても愛しく思える作品であることは間違いない。マーゴット・ロビーもコリン・ファレルも、決して弾け過ぎず、キャラクターを適演している。ふたりの好感度が増すことは約束できる。

 アメリカ映画であってもコゴナダの感性がアジア的な雰囲気を漂わす。久石譲の音楽も控えめながらいい。

 優しさにつつまれ、幸せの余韻に身を浸すことができる。こういう正月映画も悪くない。一見をお勧めする。