『グランツーリスモ』はカー・レーシングの迫力を満喫できる、好感度の高い成功ストーリー!

『グランツーリスモ』
9月15日(金)より、全国の映画館で公開
配給:そにー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.gt-movie.jp/ Gran Turismo

 ゲーマーといわれると、部屋にこもってゲームに興じるイメージが強いが、まさかカーレースのソフトから本物のレーサーを育成するプロジェクトが生まれたなんて思いもよらなかった。

 全世界に累計9千万本を売り上げた日本発のゲーム「グランツーリスモ」を売り上げたプレイステーションと、自動車メーカー日産が、2008年にドライバー発掘育成プロジェクト「GTアカデミー」を立ち上げ、なんと本物のカーレーサーを生み出した。まさに熱血マンガそのままの実話が本作で繰り広げられる。

 考えてみれば、カーレースを描いた作品はこれまでも数多く映像化されたが、本作は実話の強み。実際に起きたことのリアルさを前面に押し出し、レース場を背景に、スピードに賭けた男たちの熱い戦いがスリリングに描かれる。まさに夢を実現させるための努力と葛藤が画面いっぱいに浮かび上がる仕組みだ。

 イギリスのヤン・マーデンボローは勉学やスポーツよりも、ゲームが得意。とりわけドライビングゲームの「グランツーリスモ」に夢中で、群を抜いたスキルを身につけていた。実生活では父に失望されていたが、ゲームだけが生き甲斐、得意にできるものだった。

 そんな彼に「GTアカデミー」から招待状が届く。並外れたテクニックでゲームの予選大会を突破し、ヤンは「GTアカデミー」の入学が許される。彼の他に10人が選ばれ、実際のレーサーに不可欠な厳しい訓練が待ち受けていた。

 伝説的レーサーだったジャック・ソルターの過酷な訓練のもと、最終選考を勝ち切り、プロレーサーの切符を手に入れるが、ゲーム出身の彼を蔑むレーサーたちの妨害や思いもよらないアクシデントが待ち受けていた。心身ともに傷ついたヤンはレーサーとして復活することができるだろうか――。

 絵に描いたように痛快で感動のサクセス・ストーリー。フィクションでもこんなに“夢が現実になる”展開は珍しい。2008年から2016年までこんな革新的なプロジェクトが行なわれていたことに驚かされる。日本の自動車メーカーにまだ力があった頃の話だ。

 この実話をもとに、『クリード 過去の逆襲』のザック・ペイリンと『アメリカン・スナイパー』のジェイソン・ホールが、アクションとスタントをふんだんに散りばめつつ、巧みに脚本化した。メガフォンを取ったのは『第9地区』や『エリジウム』などで話題をまいたニール・ブロムカンプ。『第9地区』の頃は南アフリカ出身ということで注目を浴びたが、18歳のときにカナダに移住し、視覚効果アーティストとして映像ビジネスに参画した。

 ブロムカンプは本作ではストレートにストーリーを紡ぎながら、ひたすら圧巻のレースシーンでつなぐ。実際のサーキットを縦横無尽のスピードで疾走するレーシングカーの迫力を徹底的に映像化している。問答無用のスピード映像には酔わされるばかりだ。ドラマ部分はストレートにヒーローになる条件を描き出す。ブロムカンプの素直な演出に拍手を贈りたくなるのだ。

 本作ではキャラクターにピッタリと合ったキャスティングが魅力を倍加する。実在のキャラクターにあわせた起用がなされている。プロジェクトを運営するダニー・ムーアを演ずるのは『ロード・オブ・ザ・リング』三部作でおなじみのオーランド・ブルーム。メンバーをしごきぬくジャック・ソルターは『ヘルボーイ』のデヴィッド・ハーパー。そして主役のヤンには『ミッドサマー』や『ヴォイジャー』などの異色作で個性を発揮するアーチー・マデクウィが抜擢され、爽やかなヒーロー像を体現してみせる。

 どこにでもいそうなゲーマーがヒーローに成り上がる痛快さが、レースの迫力映像に倍加される。文字通りの“シンデレラストーリー”。好感度100パーセントのエンターテインメントだ。