累計発行部数1800万部を突破した、田村由美の人気コミックを原作にした劇場版作品の登場である。2012年1月から放映された同名ドラマシリーズの番外編の趣。テレビ放映時には大きな話題となり、高い人気を博するに至った。
題名の通り、本格ミステリー・シリーズの体裁を取り、なによりも探偵役の主人公、久能整のキャラクターが秀抜だった。天然パーマのヘアスタイルがトレードマークで友だちも彼女もいない大学生。孤独を苦にしないが、話しかけられると優しく応える。鋭い分析能力と推理で、事件や出来事をさらさらと解明してしまう。変わり者だけど、嫌味なところのないイメージが好感度を高めた。
その人気は演じる菅田将暉に負うところが大きい。どんなキャラクターも軽々と演じる演技力を誇り、エキセントリックな雰囲気をさりげなく醸し出せる才能の持ち主。ことばを変えれば、このキャラクターは菅田将暉がキャスティングされたことで成功が約束されたといいたくなる。テレビシリーズが終わった段階で惜しまれたが、こうして劇場版の構想があったのか。
劇場版は、原作コミックファンに人気の高いエピソード、通称“広島編”が選ばれ、テレビシリーズでも軽妙な脚本を書いた相沢友子が引き続き脚色。監督もテレビシリーズを手がけ、映画作品も『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』など送り出した松山博昭が担当している。
久能整は広島にやってきて、美術展を鑑賞した。満足して帰ろうとしたとき、女子高生・狩集汐路に声をかけられる。
かつて事件で出会った犬堂我路の知りあいだという女子高生は、久能にバイトを持ちかけた。旧家である狩集家の莫大な遺産を相続する4人の候補のひとりである汐路から半ば強引に付き添いにされてしまう。
相続候補4人はそれぞれに蔵が与えられ、そこに込められた謎を解くことを求められる。狩集家の遺産相続については代々死人が出ていた。久能の明快な頭脳がその謎を解き、狩集家の闇に光を差し込むことはできるのか――。
日本の本格ミステリー作品は横溝正史的なおどろおどろしい事件のものが多いが、本作もまた地方の旧家の因縁を扱っている。一族をめぐる闇の歴史が描かれ、忌まわしい殺人も登場するのだが、久能のキャラクターがすべてを浄化する。彼の漂わす軽味、ユーモアが作品の雰囲気を明るく楽しいものに変えてくれる。久能に力点を置いた松山監督の知恵の成果というべきだろう。
もちろん、彼の推理は明断でなるほどと唸らせる。潔癖症的な性格を含めて、きっちり作りこまれている。菅田将暉の個性がいかんなく発揮され、キャラクターが輝いている。テレビシリーズのときから傑出した探偵だと痛感させられたが、劇場版のみならずシリーズとして続くように切に願う次第。
菅田将暉のひとり舞台の感があるが、共演者も個性派が揃えてある。松下洸平、柴咲コウ、原菜乃華、鈴木保奈美、滝藤賢一、でんでんなどクセのある顔ぶれが、見る者をけむに巻こうとする。それでも菅田将暉のキャラクターが彼らの演技を凌駕している。これは当り役だと思う。
アガサ・クリスティの“名探偵ポワロ”シリーズのように日本を代表する探偵シリーズになってもらいたいものだ。一見をお勧めしたい。