『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』はホラーの王道を行く仕上がりに嬉しくなる快作!

『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』
9月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
配給:東宝東和
© 2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/dracula-demeter

 観客を驚かせ、怖がらせるホラー映画はノースタ―でもアイデアで勝負できるジャンルとして数多くつくられてきた。内容も多士済々。シリアスなものからコミカルなものまで、およそあらゆるタイプの作品が生み出されてきた。あまりに数が多いので、近年は斜に構えた映画が増えてきている。

 本作はそうした風潮にあえて異を唱えるように、正攻法のスタイルで押し通す。ブラム・ストーカーの名作小説「吸血鬼ドラキュラ」をもとにしていることもあるだろうか、ストレートに恐怖世界を構築。19世紀末の意匠に徹して、暗闇の怖さを浮かび上がらせる。

 内容的にも原作の第7章に材を取る。ブルガリアから英国に向かったデメルテ号で起きた恐怖の出来事を描いている。脚本は『エスケープ・ルーム』のブラギ・F・シャットと『ブレット・トレイン』のザック・オルケウィッツが担当。闇が恐怖の象徴だった時代の雰囲気をストーリーに沁みこませる。

 この脚本を得て監督に抜擢されたのはノルウェー出身のアンドレ・ウーヴレダル。ドキュメンタリー・スタイルで、図らずもトロールの姿をカメラに収めてしまった学生たちの顛末を描いた『トロール・ハンター』で注目を浴び、ハリウッドに渡って『ジェーン・ドウの解剖』が評価されたウーヴレダルにとっては、このホラーの名作に抜擢されたことが実力を評価される試金石。北欧人特有の陰鬱な雰囲気を映像に醸し出しながら、サスペンスを盛り上げる。しかも撮影監督に『アメリカン・スナイパー』の名匠トム・スターンを迎えたのだから鬼に金棒。闇の恐ろしさを際立たせてみせる。

 英国に向かうデメテル号に50個の大きな木箱が積まれた。内容は記されていない。この船に雇われることになった医師のクレメンスは船長と息子、乗組員たちと1カ月に及ぶ航海に乗り出すが、次第に不気味な出来事が起きる。

 傷だらけの女が発見され、さらに乗組員たちも何者かによって一人また一人と非業の死を遂げる。寄港しないで英国にひた走るなか、船内の恐怖は高まり、恐るべきクライマックスに向かっていく――。

 ウーヴレダルは脚本を読んで、リドリー・スコットの傑作『エイリアン』を想起したという。確かに宇宙空間のなかのロケットという閉塞空間の逃げ場なしの状況と、寄港しないで大海原をひた走るデメテル号は極似している。ウーヴレダルの演出は船という閉塞空間を意識させながらジワジワとサスペンスを盛り上げていく。当然のことながらホラー・キャラクターは登場するが、あくまでも不気味さを印象づけながらの語り口。見る者にとっては、どんなキャラクターが登場するのか、題名からも分かっているのだが、それを上回るクライマックスが用意されている。その形状はF・W・ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』を思い起こさせる。

 出演者はクレメンスに『イン・ザ・ハイツ』のコーリー・ホーキンズ、謎の女にテレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」で注目されたアシュリン・フランチオージ、船長には『麦の穂をゆらす風』のリーアム・カニンガム、加えて『DUNE/デューン砂の惑星』のデヴィッド・ダストマルチャンなど、キャラクターにピッタリとはまるキャステイングが組まれている。作品の性格上派手な顔ぶれでない方がいいというわけだ。

 ひさしぶりにサスペンスで勝負した作品。ストレートな取り組み方に好感を覚える。お勧めしたい所以である。