『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』は、伝説のレコーディング・スタジオに焦点を当てた素敵な音楽ドキュメンタリー!

サブ②リック・ホール
『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』
7月12日(土)より、新宿シネマカリテほかでロードショー、全国順次公開
配給:アンプラグド
©2012 EAR GOGGLES PRODUCTIONS.LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://muscleshoals-movie.com/

 

 2012年の『シュガーマン 奇跡に愛された男』、2013年の『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』と、アカデミー長編ドキュメンタリー部門は2年連続で音楽を扱ったドキュメンタリーに賞を与えている。アメリカの音楽文化、その変遷には映像化したくなるほど魅力的な題材が眠っているという証明か。なにより語られる内容もさることながら、挿入される楽曲の魅力も見逃せない。
 本作は、アラバマ州の片田舎、テネシー川のほとりにあるマッスル・ショールズのレコーディング・スタジオを題材にする。ここはソウル・ミュージックやロックを愛する者なら、一度は耳にしたことのある“マッスル・ショールズ・サウンド”の発祥の地だ。
 映画はマッスル・ショールズにレコーディング・スタジオを開いたリック・ホールと、ロジャー・ホーキンス、デイヴィッド・フットをはじめとするスタジオ・ミュージシャンをクローズアップしながら、マッスル・ショールズでレコーディングしたキラ星のごときアーティストたち――ローリング・ストーンズ、ボノ、アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット、パーシー・ストレッジがこの地の栄枯盛衰を証言していく。
 監督を務めたのはグレッグ・“フレディ”・キャマリア。コロラド州ボールダーで不動産業を営む彼が、友人と旅行中にマッスル・ショールズに宿泊したことから、本作の企画がスタートした。アマチュア・ミュージシャンだったキャマリアと友人はこの地で生まれた楽曲がお気に入りだったこともあり、その歴史をリサーチし、映像化することを思いつく。もっともキャマリアは、映画に資金を提供したことはあったものの、製作は初めて。車でマッスル・ショールズを訪れてから完成するまでに3年半の月日を要した。

 映画は、ネイティヴ・アメリカンが“歌う川”と呼んだテネシー川のほとりにあるマッスル・ショールズを映しだす。森と川、綿花畑があるだけの地に、ここで生まれたリック・ホールが1959年に、フェイム・スタジオをつくったところから話は展開していく。
 ホールにはふたりの仲間がいたが、袂を分かってこのスタジオを開いた。相当にクセのあるキャラクターながら、抜群の耳と音楽センスの持ち主で、近辺の腕のいい白人ミュージシャンをスタジオに集め、バック・ミュージシャンの“スワンパーズ”を結成。まず地元の歌手アーサー・アレキサンダーの「You Better Move On」がヒットしたことから、スタジオの存在が知られはじめる。
 さらに『Ray/レイ』にも登場した、アトランティック・レコードの名プロデューサー、ジェリー・ウェクスラーがメンフィスのスタックス・レコードのスタジオから離れて、フェイム・スタジオに着目したことで、名だたる歌手が集まるようになる。パーシー・ストレッジの「男が女を愛するとき」や、ウィルソン・ピケットの「ダンス天国」、アレサ・フランクリンの「貴方だけを愛して」などのヒット曲が誕生していく。
 その後、ウェクスラーがホールの性格と合わないことから、“スワンパーズ”と直接契約し、彼らにマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオを設立させる。ホールの方はアトランティック・レコードからシカゴのチェス・レコードと契約し、エタ・ジェイムズの「テル・ママ」のヒットを放つ。さらにロックのスターたちがマッスル・ショールズでレコーディングするようになって、そのサウンドはいっそう喧伝されることになる。

 アトランティック・レコードを中心としたソウルフルな楽曲のバックを務めていたのが白人たちだという事実に、なにより興味をそそられる。考えてみれば、スタックス・レコードのバックもスティーヴ・クロッパーをはじめとする白人ミュージシャンが参加していたわけで、ソウル・ミュージックのタイトでファンキーなサウンドはアフリカ系アメリカ人のみならず、南部の貧しい出身の白人に負うところが大きかった。
 そうした音楽的な側面ばかりでなく、本作の魅力は登場する人々のキャラクターにある。とりわけホールの過酷な生い立ちに惹きこまれる。幼少時に起きた弟の死、一家離散からその後の母の境遇まで、小説に匹敵するドラマチックさである。監督のキャマリアはホールの懐に入り込んで、そうした生の吐露を映像に焼き付けている。
 作品の構成からいえば、モータウン・レコードのバック・ミュージシャン“ファンク・ブラザース”の実像に迫った2002年の『永遠のモータウン』に近いが、登場するキャラクターの多彩さ、音楽業界の生臭い部分もふくめて、本作の方がはるかに面白い。もちろん、前述のアーティストに加えてクラーレンス・カーターやジミー・クリフなども姿を現し、ヒット曲も次々と挿入される。

 ここで生み出された楽曲の数々は筆者にとって1960年代、1970年代の忘れえぬナンバーばかり。意識しないうちにマッスル・ショールズ・サウンドの虜になっていたのだ。デュアン・オールマンもボブ・シーガーもボブ・ディランもボズ・スキャグスも、マッスル・ショールズを訪れてレコーディングしている。アーティストがここに行きたくなる理由が、本作をみると得心できる。まさに音楽ファンは必見の作品だ。