『ノースマン 導かれし復讐者』は重量感に満ちた北欧神話世界に分け入ったアクション・ファンタジー!

『ノースマン 導かれし復讐者』
1月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿、渋谷シネクイントほか、全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画
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公式サイト:https://northman-movie.jp/

『ウィッチ』や『ライトハウス』を生み出し、類まれなる個性を世界に知らしめた映画監督ロバート・エガースの最新作の登場である。

 これまでの作品の閉塞感に満ちた濃密な恐怖世界から、本作では北欧を舞台にした壮大なスケールのファンタジーに挑んでいる。共同脚本にアイスランドの作家・脚本家のショーンを招き、スカンジナビアの神話やアイスランドの英雄物語、ヴァイキング伝説をベースに、ひとりの男の波乱万丈な復讐譚を構築。監督にとっては初のアクション作品となる。

 目の前で父を殺され、母を拉致された少年が、復讐に燃えながら苦難の道を歩む。『ハムレット』や『ベオウルフ/呪われし勇者』などの作品を彷彿させる、復讐譚のストーリーが展開する。歴史劇の王道的な道具立てではあるが、エガースは自らの個性を埋没させていない。エンターテインメントのような貌をしながら、あくまでエガース世界を貫いてみせる。寒々とした北欧の地に繰り広げられる、血で血を洗う因縁のつながり。どこまでもリアルな暴力シーンと不気味な魔法が横行する、この監督ならではの緻密な映像世界が紡がれていく。

 出演は『バトルシップ』や『ギヴァー 記憶を注ぐ者』に加え、『ターザン:REBORN』でタイトルロールを演じて世界的な注目を浴びたアレクサンダー・スカルスガルド。名優ステラン・スカルスガルドを父に持ち、自らは鍛え上げた肉体と整ったマスクを駆使してヒロイックなキャラクターを得意とする。本作が決定する前に、ヴァイキング映画の製作を10年以上も夢みていたという。スウェーデン出身スカルスガルトにとっては自らのルーツを描くことでもある。彼は主演のみならず、本作のプロデュースにも名を連ねている。

 共演者も豪華だ。『めぐりあう時間たち』でアカデミー主演女優賞に輝いたニコール・キッドマン。デンマークの名優で『ザ・スクエア 思いやりの聖域』のクレス・バング、『ウィッチ』で熱い注目を浴び、『ラストナイト・イン・ソーホー』でも圧倒的な存在感を披露したアニャ・テイラー=ジョイ。『ブラック・フォン』などで、最近は怪優のイメージが強くなってしまったイーサン・ホーク。さらに『ライトハウス』でエガース監督と仕事し、『ナイトメア・アリー』にも顔を出したウィレム・デフォー。加えてアイスランドの歌姫で、『ダンサー・インザ・ダーク』のヒロインを努めたビョークまで、まさに多士済々。みごとなキャスティングである。

 9世紀、北欧の島国で 幼き王子アムレートは旅から帰還した父、オーヴァンディル王と成人の儀式を執り行っていた。

 しかし儀式の直後、叔父のフィヨルニルがオーヴァンディルを殺害し、グートルン王妃を連れ去ってしまった。

 10歳のアムレートは父の復讐と母の救出を誓い、たった一人、ボートで島を脱出する。

 数年後、成長したアムレートは、東ヨーロッパ各地で略奪を繰り返す獰猛なヴァイキング戦士の一員となっていた。

 スラブ族の預言者と出会い、自らの運命と使命を思い出した彼は、フィヨルニルがアイスランドで農場を営んでいることを知る。奴隷に身をやつして奴隷船に乗り込んだアムレートは、親しくなった白樺の森のオルガの助けを借り、叔父の農場に潜り込んでいく――。

 まさに波乱万丈、怒涛の展開だ。冒頭からグイグイと映像に惹きこまれていく。アメリカでは劇場公開されると、5週連続トップ10入りを果たす健闘をみせた。作品の評価も高く、エガース監督にとっては新境地を切り開いた作品となった。とはいえ、個性は少しも失っていない。

 これまでの作品通り撮影はひとつのカメラで押し通したのがその好例。これまでチームを組んできた撮影のジェアリン・ブラシュケと話し合い、エキストラが多いシーンであろうともシングルカメラを貫いた。多くのカメラを使ってさまざまなアングルを切りとるのではなく、効率よりもシングルカメラがもたらす没入感を優先させようとの思い。演じる俳優にとっては同じシーンを何度も演じることになるが、映像の濃密度は増すとコメントしている。

 主演のアレクサンダー・スカルスガルドの逞しい肉体美はこの力が支配する世界のヒーローにふさわしい。その他の出演者もクセの強い役柄をみごとにこなしている。どこまでも陰鬱な世界が画面に広がる。神話や伝説をリアルに映像化すると、このような世界になるのか。ロバート・エガースの個性を再認識させられる仕上がりだ。