『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は日本のライトノベルをパワフルに映像化した、トム・クルーズ最新主演作。

ALL YOU NEED IS KILL
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
7月4日(金)より、全国ロードショー 2D/3D&IMAX同時公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
公式サイト:www.allyouneediskill.jp

 

 アメリカで人気を誇る俳優は数々いるが、ことプロデューサー的な資質に関してはトム・クルーズが群を抜いて秀でている。自分の俳優としての能力を把握しきった上で、常に意欲的に作品を選択。『ミッション:インポッシブル』シリーズのように、実際に製作に参加してアクション主導のキャラクターを究め、ヒットを重ねる一方で、可能性を拓くためにSFからアクション、ロック・ミュージカルまで、さまざまな役柄にチャレンジしている。その俳優としての貪欲さには感心させられる。
『ラスト サムライ』を製作・主演するほど親日家で、日本でのファンサービスは来日するたびに話題になるクルーズにふさわしく、新作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は日本発のストーリーで勝負している。
 本作の原作は桜坂洋の同名ライトノベル。設定の面白さ、内容のユニークさに惹かれた、アーウィン・ストフをはじめとするアメリカ映画界のプロデューサーたちによって映像化されることとなった。脚色にあたったのは『ユージュアル・サスペクツ』や『アウトロー』の脚本で知られるクリストファー・マッカリーと、『フェア・ゲーム』のジェズ&ジョン=ヘンリー・バターワース。原作のユニークな部分を抽出しつつ、主人公の設定を主演のクルーズに合わせて変えたのをはじめ、あくまでもアクションと見せ場を核にしたアメリカン・エンターテインメントとして仕上げている。
 監督は『ボーン・アイデンティティ』で“ジェイソン・ボーン”シリーズを生み出したダグ・ライマン。ここでは製作総指揮と監督を兼ねて、初めて“タイムループ”を扱ったSF作品に挑んでいる。原作ものでは常に映画ならではの世界観と趣向を打ち出すライマンの、メリハリの利いた、スピーディな語り口はここでも健在だ。
 主演のクルーズは、原作のオリジナリティに溢れた設定と構造に魅了されて引き受けたとコメントしている。多少、見た目に年輪を重ねた影響が出ているが、アクション、スタントは自分でこなして、颯爽としたところをみせてくれる。
 共演は『ヴィクトリア女王 世紀の愛』のエミリー・ブランド。さらに『ツイスター』のビル・パクストン、『ジェネラル 天国は血の匂い』(劇場未公開)のブレンダン・グリーソンなど渋い顔ぶれが揃っている。

 近未来、謎の侵略者“ギタイ”による激しい攻撃を受けて、人類は滅亡の危機に瀕していた。敵の攻撃は拡大を続け、ヨーロッパの拠点は次々と敵の手に落ちていた。アメリカ軍の広報担当ケイジ少佐は、将軍の怒りを買って一兵卒として、戦いの最前線に送り込まれることになる。
 任務から逃れようとするケイジだったが、ハイテク機動スーツを着用させられ最前線に降り立つ。激しい銃火と叫び声、侵略者の容赦ない攻撃になす術も知らず、戦闘スキルもないままに、やみくもに敵に発砲。わずか5分で生命を落とす。
 ところが、なんと再び出撃前日に戻っていた。そして再び出撃。起きることを予期している彼だったが、別なことが起きて再び生命を落とす。そして、また出撃前日に戻る。ケイジは同じ日を繰り返す“タイムループ”に陥っていた。延々と同じことを繰り返すうち、次第に戦闘能力が磨かれていったケイジは、最初の戦いで出会った伝説の女性戦士リタとともに繰り返し戦ううち、彼が“タイムループ”していることを知られる。
 次に目覚めたとき、リタを訪ねたケイジは“タイムループ”する理由を彼女から伝えられる。彼女もまた“タイムループ”の経験者だったが、ある理由からその能力が失われていた。リタの特訓のもと、最強の兵器になるために数えきれない過酷な死を体験するケイジは、次第にリタに対して好意を抱いていく。彼女の死を目の当たりにするたびに心が痛むケイジはひとりである作戦を遂行していく――。

 何度も死を体験するうちに、戦うスキルを身につけていくという設定の面白さ。死を繰り返すことで、戦場においてさまざまな行動を試し、生き抜く方法をつかんでいく展開にぐいぐい惹きこまれる。確かに経験は最大の教師。同じことが起きるなかで、主人公が行動を変えることによって、異なる事態が出現するが、死ねばまたリセットされる。人間としても軽薄で卑怯なケイジが“タイムループ”を通して、最強の戦士、ヒーローに成長していくのだ。この設定にライマンは魅了されたと語っている。
 ライマンは冒頭、ケイジが無理やり戦場に送り込まれるところから、テンション高く疾走してみせる。いかつい戦闘スーツを着用させられたケイジの視点から、阿鼻叫喚の戦場を迫力満点で描き出して以降、繰り返しの面白さを端的に紡いでいく。繰り返しなのだから、見る者も省略や飛躍も気にならない。ユーモアを織り込みつつノンストップで突っ走る。リアルな戦闘シーンの連続でひたすらインパクト主義を貫き、多少の分かりにくさも勢いで押し切る力技。賢い語り口である。

 もちろん、クルーズの八面六臂の奮闘ぶりが作品の大きな魅力だ。戦闘スーツに身を包んで戦場を走り回る姿は、どこかしら『ラスト サムライ』の甲冑姿を想起させたりもする。戦うことと無縁だった男が死を繰り返すうちに次第に引き締まってくるあたりが、俳優としてのみせどころである。
 共演のブランドも決して美人すぎないところが女戦士にぴったりとはまる。タフな行動のなかに垣間見せる情感。女優としては挑み甲斐のあるキャラクターではないか。

 迫力のある殺陣、スタントにみちた戦闘シーンに貫かれた、夏にふさわしい超大作。後味のいい終わり方もふくめ、お勧めできる仕上がりである。3D方式の方が迫力が実感できる映像だ。