『カンフースタントマン 龍虎武師』は香港アクションを支えた男たちに焦点を当てた感涙ドキュメンタリー!

『カンフースタントマン 龍虎武師』
2023年1月6日(金)より、新宿武蔵野館、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
©ACME Image(Beijing)Film Cultural Co.,Ltd
公式サイト:https://kungfu-stuntman.com/

 1990年代までの香港映画はアメリカ映画をはじめとする西欧映画に多大な影響を与えた。20世紀末に隆盛を極めた映画会社ゴールデン・ハーヴェストのドン、レイモンド・チョウはアメリカ映画が香港映画の真似をしていると、『リーサル・ウェポン』シリーズの例を挙げながら嘆いてみせた。彼のことばはシリーズのプロデューサー、ジョエル・シルヴァーが認めたばかりか、ジェット・リーをアメリカに招き入れたことで証明された。

 香港映画は、ブルース・リーがアクション映画の潮流を大きく変えたことで世界的な注目を集めた。本物の武術者の繰り出すリアルな殺陣が画面いっぱいに映し出され、見る者はただただ度肝を抜かれた。

 この本物格闘家の系譜は、ジェット・リーやチャック・ノリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、スティーヴン・セガールなどに引き継がれていくわけだが、香港アクションには絶対に他では真似のできない要素があった。

 それは主役を際立たせるための脇役の凄さだ。かつての東映時代劇の“斬られ役”の巧みさによって、スターが際立ったように、香港アクションはスターを支えるスタントマンたちの文字通り命がけの作業で裏打ちされていた。

 香港や中国本土に点在する戯劇学院で学んだ少年たちは身軽な技量を活かして映画界に入り、エキストラからスタントマンの道を歩んだ、アレックス・ロウの1988年作『七小福』でも触れられているように、サモ・ハンもジャッキー・チェン、ユン・ピョウもこの道を進みスターダムをつかみ取ったのだ。

 本作は『奇門遁甲』や、『ザ・ルーキーズ』のプロデュースで知られるウェイ・ジュンツーが、3年の撮影期間をかけて、100人近くの香港アクション関係者を徹底取材して生み出したドキュメンタリー。

 インタビューを受けてくれたのはサモ・ハンを筆頭に、ドニーイェン、ブルース・リャン、エリック・ツァンといった俳優陣に、ユエン・ウーピン、チン・ㇱウトン、ツイ・ハーク、アンドリュー・ラウなどなど、香港映画の時代を画した映画人たち。彼らの証言はいずれも熱く、驚くものばかり。さながら香港映画史の趣がある。

 まさしく香港映画の栄枯盛衰がこの作品で明らかになる。キン・フーを頂点とする60年代までの香港映画は時代劇で培った誇張された殺陣、ワイヤーワークだったが、カンフー映画の流行によってさらに極められ、1980年代になるとスタントの危険技比べに突入していく。特にスタントチーム同士の競争が激化し、他より危ないスタントを勝負しあったという衝撃的な証言も飛び出す。スタントマンは「決してノーと言わない」という合言葉のもと、どんな荒業にも挑む。その職人気質がくっきりと浮かび上がる。

 香港スタントマン協会の協力のもと、『ドラゴン危機一髪』から『ドラゴンロード』、『プロジェクトA』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』さらに『タイガー・オン・ザ・ビート』などなど、数々のスタントシーン、メーキングシーンが焼きつけられる。無茶を承知でスタントに挑み、怪我をしつつも成功させる男たちの気概に胸が熱くなる。

  今はスタントよりもCGやVFXで処理する風潮が香港映画にも横溢している。だからこそこれだけ多くの映画人が結集して、昔を懐かしんでいるのだ。スタントマンが全盛を誇っていた時代、確かに香港映画は熱く面白かった。

 本作の証言、映像を見ていると、現在の香港映画の衰退ぶりが悲しい。この映画に登場する作品の凄さを実感しつつ、香港映画の再生を祈るばかりだ。

 香港映画の昔からのファンには懐かしさ百倍だし、香港映画の面白さを知らない人には本作に登場した映画人の作品群をお勧めしたい。そこには何とか面白くしたい、驚かせたいという思いがこもっている。ちなみに以前に紹介した『七人樂隊』とともにみると、香港映画の素晴らしさが実感できるはず。必見である。