『離ればなれになっても』は1980年代から40年間に至る友情の軌跡を描いた、イタリア製愛の物語。

『離ればなれになっても』
12月30日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ GAGA★
© 2020 Lotus Production s.r.l. – 3 Marys Entertainment
公式サイト:https://gaga.ne.jp/thebestyears

 ある程度の年齢になると、どうやら人生はなるようにしかならないらしいと分かってくる。

 どんなに弾けても、あるいはもがいても、尽きるところ、あるべきところにピースは収まるものだ。いささか運命論的ではあるけれど、そう思わなくては諦めがつかない。若い頃に望んでいた未来が何の波風もなく実現するなんてことはあり得ない。過酷な現実に立ち向かい、大きな代償を支払って勝ちとることができるかどうか。悲観論ではなく、人生をふりかえってみての実感である。

 長い歳月にわたる絆を描いた群像ドラマには、常にほろ苦さと切なさが付きまとう。若き頃に夢みた未来と現実のギャップが主に綴られるからだ。自らの軌跡と照らし合わせて、胸が熱くなることも多々ある。かつてイタリアの匠エットーレ・スコラが1974年に発表した『あんなに愛しあったのに』(日本公開は1990年)はその好例だ。第二次大戦中のレジスタンス仲間3人が友情を保ちながらそれぞれの道を歩むが、美しい女性の出現によって全員が彼女の翻弄されるストーリー。彼らの30年に及ぶ軌跡がユーモアを忍ばせつつ淡々と描かれる。語り口の巧みさに酔い、漲る映画愛に深く感動する仕上がりだった。

 本作はそうしたスコラをはじめとするイタリアの監督たちにインスパイアされて生まれた作品だ。ウィル・スミス主演のアメリカ映画『幸せのちから』や『7つの贈り物』で日本にも紹介されたイタリア人監督、ガブリエレ・ムッチーノが先達たちに倣って、4人の男女の40年に及ぶ悲喜こもごもの人生をじっくりと描き出す。

 背景となるのは1982年から40年間。激動の20世紀末の状況が登場人物にも大きく影響したのはいうまでもない。彼らの軌跡を通じてイタリアという国の時代の混乱が浮き彫りになる寸法だ。スコラの作品にオマージュを捧げながら、1967年生まれのムッチーノは自分の青春時代を重ね合わせている。

 出演は『シチリアーノ 裏切りの美学』のピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、『家の鍵』のキム・ロッシ・スチュアート、『盗まれたカラヴァッジョ』のミカエラ・ラマッツォッティ、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のクラウディオ・サンタマリアなど、日本ではあまり知られていないが演技派俳優が結集している。

 1982年、ローマで暮らす16歳のジュリオとパオロは暴動に巻き込まれたリッカルドを助ける。その日から三人は親友として行動をともにするようになる。

 ある日、パオロは同級生のジェンマに一目惚れをして、大晦日に、初めてのキスを交わす。以来、ジェンマと三人は行動を共にし、青春の日々を謳歌する。

 しかし幸せは長く続かなかった。ジェンマの母が急死し、彼女はナポリの伯母に引き取られることになる。この世の終わりのように悲しみ、抵抗しながらも泣く泣く別れる。

 だがジェンマは新しい地でも恋人ができる。手紙で思いをしたためるパオロに決別の手紙を書くほど日々を満喫していた。

 1989年、ベルリンの壁が崩壊した時、三人は大学を卒業し、それぞれの道を歩もうとしていた。ジュリオは弁護士、パオロは教員、リッカルドは映画界に進む。

 しばらくして、パオロはジェンマと再会する。ジェンマはナポリの恋人から逃げ出し、パオロ暮らし始めるが、臨時教員の彼の収入は少なかった。

 リッカルドが結婚することになり、全員が顔を合わせることになった。ジェンマはジュリオの積極的な態度に惹かれ、ジュリオも妖艶な彼女に魅せられる。たちまち欲望の虜になったふたりの行動が友情に亀裂を生じさせる。その後も友情に対する試練はまだまだ繰り返された――。

 それぞれに長所も欠点も持ち合わせる男たちが、たったひとりの女性の奔放な行動に翻弄されながら、人生を歩んでいく。決して思った通りの選択ではなかったかもしれないが、その時点では懸命に生き、ベストと思える選択をしている。ガブリエレ・ムッチーノは彼らの軌跡をペーソスとシニカルなテイストを織り交ぜながら、くっきりと浮かび上がらせる。彼らはあまりに人間的な過ちを犯すが、それも歳月の流れとともに怒りや悲しみを溶かし、絆を復活させる。若き頃の純粋な思いは決して消え去ることがない。

 ムッチーノは必ずしも大成しなかったが、友情を失わなかった4人を最後に称える。ムッチーノ自身が書き上げた脚本(『おとなの事情』で知られるパオロ・コステッラが共同で参加)はさりげなく心に沁みる。

『ラ・ブーム』でヒットしたリチャード・サンダーソンの「愛のファンタジー」をはじめ、時代に即した音楽を存分に散りばめながら、激動の時代を生き抜いた主人公たちを温かく紡ぐ。この上なく人間的なストーリーに拍手が送りたくなる。画面を見ていくと、切なさとほろ苦さが込み上げてくる。

  若い世代ばかりでなく、むしろ年齢を重ねた世代の方が琴線に触れるのではないか。新春にみていただきたい作品である。