『クリーン ある殺し屋の献身』は寡黙な主人公が過去の話題作のヒーローを想起させるクライム・アクション!

『クリーン ある殺し屋の献身』
9月16日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、イオンシネマ板橋ほか、全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
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公式サイト:https://clean-kenshin.com/

 近年、アメリカでも格差が広がり、大都会はそれこそさまざまな階層の人々がひしめき合い、互いに牙をむきあう状況が生まれている。先の見込みのない閉塞状況は今や世界的な問題。アメリカはそれが顕著に表れる。こうなると、もはやアメリカの都会を舞台にしたバラ色の夢は嘘くさい。ジリジリするような緊張感漂うドラマの方が似合っている。

 本作はそうした趣向にピッタリくるクライム・アクションである。舞台となるのはニューヨーク。厳密にいえばロケーションはニューヨーク州中央部に位置するユーティカで行なわれているので、ニューヨークといっても差し支えないだろう。

 荒んだ雰囲気が漂うモノクロームの街。ここで世捨て人のように日々を過ごしている男に焦点を当てていく。古くは『タクシー・ドライバー』や『レオン』、『ジョーカー』などに描かれたヒーローを想起させる。男は社会の裏側で生きている。夢もなく、過去のトラウマに耐えながら、ただ時間を浪費している。

 いかにもな設定だが、このキャラクターを演じるのが『戦場のピアニスト』でアカデミー主演男優賞に輝き、『プレデターズ』のようなアクションからコメディの『グランド・ブタペスト・ホテル』などなど、オールラウンドの活動をみせるエイドリアン・ブロディと聞くと食指が延びる。

 しかもブロディは脚本と音楽に参画。製作までタッチするというのだから入れ込み方も凄まじい。監督は『キラー・ドッグ』(Netflixで配信)でタッグを組んだポール・ソレット。ホラーを得意とする監督らしいが、ブロディと息があうのか、ともに脚本を執筆し、ブロディの静と動、メリハリの利いた魅力をきっちりと画面に焼きつけている。

 共演は『ジョーカー』のグレン・フレシュラー、『ホワイト・ボーイ・リック』のリッチー・メリット、ラッパーであり『アイアン・フィスト』では監督も務めたRZA。そして主人公の運命を変える少女役にチャンドラー・アリ・デュポンが抜擢されている。決して派手ではないが、いかにも都会に蠢いているイメージのする布陣である。

 暴力が幅を利かせる、荒んだ大都会。「クリーン」と呼ばれる寡黙な男は、深夜にゴミ回収車を走らせ、使えそうな廃品を持ち帰っては修理するのを日課にしている。

 過酷な過去があったことは、悪夢に悩まされることでも分かるが、誰にも語らず日々を送っている。

 唯一、祖母と住む隣人のディアンダという少女だけには心を通わせていた。ある時、ディアンダが街のチンピラたちに拉致されたことに気づき、彼はチンピラたちを打ちのめし、ディアンダを救出する。

 だが、チンピラのなかに麻薬ギャングのボスの息子がいたことから、彼に対して抹殺命令が下る。彼はディアンダと祖母を安全なところに隔離すると、自らボスの家に殴り込みをかける――。

 ストーリーの進行とともに、主人公が只者ではないことが明らかになっていくが、それが発揮されるのは少女がチンピラたちに連れ去られてからだ。そこからは一気呵成。彼の暴力のスキルがずば抜けていることが描かれる。少女と孤独な殺人者との絆というと数々の名作が頭に浮かぶ。ここでは主演のエイドリアン・ブロディの容貌と演技が作品の魅力を際立たせる。悲しげな顔つきは日常生活を送るときに発揮され、暴力を行使するときには無表情になる。ここらの使い分けが映画に緊迫感とリアリティをもたらす。

 ポール・ソレットは街をどこまでもリアルに浮かび上がらせながら、主人公のヒロイズムを立ち上がらせる。ブロディの静かな熱演をサポートする共演陣もみごとに作品の色にマッチしている。

 悪が支配する街をたったひとりで壊滅に追い込む。殺陣もふくめアクションシーンはひたすら無機質かつハードに描きぬく。クライマックスの一大銃撃戦は惹きこまれるばかり。ハードボイルドな味わいがなんともいい。

 決して派手な作品ではないが、心惹かれる仕上がり。アクションファンなら一見に値する仕上がりだ。