『グッバイ・クルエル・ワールド』はクズばっかりのキャラクターが織りなすクライム・エンターテインメント!

『グッバイ・クルエル・ワールド』
9月9日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷HUMAXシネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/gcw/
 

 ワケアリの男たちが集って犯罪を企てるという、もはや定番と化した展開は、古くはフランスやアメリカで多くつくられ、香港ノワールとして盛り上がった時期もあった。決定打はクエンティン・タランティーノがオフビートに復活させたことか。ユーモアを滲ませながらサスペンスを盛り上げ、ハードに描く手法は広く浸透し、各国で製作されるようになった。

 本作もその範疇に入るクライム・エンターテインメントだ。

 互いに名前も明かさぬクズたちが集まって、ヤクザ組織のヤバい金を強奪せんと図る。その顛末をリアルに描いている。脚本を書いたのは『そこのみにて光輝く』や『死刑にいたる病』などで知られる高田亮。『さよなら渓谷』でチームを組んだ大森立嗣がメガフォンを取った。ブラックなユーモアを潜ませながら、リアルかつハードに映像を紡いでいる。

 こういう設定であれば、ストーリーを織りなすキャラクターたちの個性が大きく魅力を左右する。本作では豪華なキャストで勝負。誰もがこれまで演じたことのないようなクズ役を熱演してみせる。まず『ドライブ・マイ・カー』で世界的に知名度を増した西島秀俊が元ヤクザ役、さらに監督も手掛ける斎藤工も狂犬のようなキャラクターを気持ちよさそうに演じる。

 若手注目株、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でも話題の宮沢氷魚、『Diner ダイナー』の玉城ティナ、お笑い芸人の宮川大輔、『ハゲタカ』など演技力には定評のある大森南朋。そして『アウトレイジ』など、年齢を重ねても作品が途切れることのない三浦友和まで、まさに異色の顔ぶれが揃えられた。彼らがバイオレンスにまみれたストーリーを疾走してみせるのだから応えられない。

 寂れたラブホテルではヤクザ組織がマネーロンダリングのために現金を回収している。そこに水色のフォード・サンダーバードで乗り付けた5人組が乗り込む。

 互いに素性も名前も知らない、服装もバラバラの彼らは銃を片手に、目出し帽をかぶり、ラブホテルを急襲。あわてる組員、従業員を手際よく縛り上げ、まんまと金を強奪することに成功する。

 大胆にしてスピーディな犯行だったが、ヤクザ組織も黙ってはいられない。金で飼っている刑事を使って本格的に捜査に乗り出す。

 一方、強盗一味もひとりに分け前をケチったために、後腐れができる。それが殺人に発展したとき、刑事のプロとしての鼻がそれをかぎつける――。

 どのように強盗一味が窮地に陥るかは、興を殺ぐので割愛する。作品を見て得心されたい。それにしてもヤクザ組織が本気になったときの恐ろしさだけはきっちり描きこまれる。暴力のプロの面目躍如たるバイオレンス描写はまことに凄味がある。

 誰がどの役を演じるかも知らないままの方がいいのだが、あえて強盗組を挙げるとならば西島秀俊、三浦友和、斎藤工、宮川大輔、玉城ティナの5人組。それぞれのキャラクターが事情を抱えての決行であることがストーリーの進行とともに浮かび上がってくる。

 追う刑事役には大森南朋。黒のジャケットに身を包んでいるあたりはタランティーノの影響か。有能だが、それなりに良心も持ち合わせているキャラクターを気持ちよさそうに演じている。なによりも脇で迫力の鶴見慎吾、奥田英二、モロ師岡、奥野瑛太たちが映画のサスペンスをいっそう盛り上げている。

 犯罪映画ファンならニヤリとさせられる趣向に挿入される音楽がある。冒頭にボビー・ウーマックの「What is This」が流れ、エンディング曲は「夢のカリフォルニア」ときた。ウーマックといえば『110番街交差点』のサウンドタックでもおなじみのソウルシンガーだ。加えてマージー・ジョセフの「Let’s Stay Together」やウィルソン・ピケットの「Back in Your Arms」も織り込まれる。この趣味って本当にタランティーノ的ではないか。

 バイオレンス描写もしっかり描かれ、パワフルにしてダイナミックなクライマックスが用意されている。いろいろ突っ込みどころもあるが、面白く見た。