『ゴーストブック おばけずかん』は監督・山崎貴が原点に戻った、ワクワクする冒険ファンタジー!

『ゴーストブック おばけずかん』
7月22日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、T・ジョイPRINCE品川、新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:東宝
©2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会
公式サイト:https://ghostbook-movie.toho.co.jp/

『ALWAYS 三丁目の夕日』3部作の成功によって、山崎貴は監督として高く評価された。過去の時代を異世界として捉え、無邪気に構築する手法が新鮮だったことが大きい。ただ山崎監督の本質はあくまでもSF・ファンタジー志向にあった。だが昭和を再現できる監督と解釈され、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』、『アルキメデスの大戦』を手がけたが、今ひとつ時代に対する理解が深くない印象だった。

 アニメーションの『STAND BY ME ドラえもん』(共同監督)や『ルパン三世 THE FIRST』の方が、監督らしさが際立っていた。

 本作は監督デビュー作『ジュブナイル』の初心に帰ったと思われる仕上がり。登場するクリーチャーの形状も含め、ファンタジーの楽しさが横溢している。山崎監督の無邪気な個性が映像に満ち満ちている。

 作・齊藤洋、絵・宮本えつよしの大人気童話シリーズ「おばけずかん」をもとに、山崎貴がストーリー原案、キャラクターデザイン、そして脚色を兼ね、監督に加えてVFXも引き受けた本作は、文字通り山崎貴世界だ。原作は日常に潜むおばけと出会った時の対処法を教えてくれる展開となっているが、山崎監督は、子供たちが躍動する冒険ストーリーに仕立てた。無邪気さが横溢したファンタジーなのだ。

 叶えたい願いがある小学生の一樹は、臨時教師の葉山先生、同級生の太一、サニー、湊とともに、導かれるままに怪しげな古本屋に入り、どんな願いも叶えてくれるという不思議な本「おばけずかん」手に入れる。

 だが、古本屋から出た瞬間、彼らは異世界に迷い込んでしまっていた。彼らは図鑑の秘密を知る“図鑑坊”の助けを借りながら、おばけたちを図鑑に封じ込める命がけの試練に挑む。一樹たちにはどうしても叶えなければならない切実な願いがあった――。

 のどかな風景の広がる郊外を背景に、小学校に通う子供たちが異世界でおばけ相手に戦う。一見すると単純な展開だが、山崎監督はそこにさまざまな仕掛けを施す。

 なによりも嬉しいのは彼らが遭遇するおばけたちがどこか懐かしさの残る形状をしていること。キュートな“図鑑坊”をはじめとして、なじみのある“一反木綿”や“山彦”、“百目”に“ジズリ”まで、どこかしら和テイスト。彼らの魔力に対して子供たちが知恵を絞って立ち向かう。図鑑に封じ込める使命の理由、叶えねばならない願いが何なのかは次第に明らかになるのだが、そこでグッとエモーションが高まる仕掛け。

 山崎監督は素直にジュブナイル(児童向き作品)を成立させようと試みている。子供たちのそれぞれのキャラクターも、いかにも現代っ子らしい気質ながら、真っすぐで好もしい。クライマックスに向けて、おばけたちと戦いぬく勇気と、切なる彼らの思いを称える。まことに気持ちのいい語り口だ。山崎監督はこうした無邪気さ、SF・ファンタジーおたくぶりを発揮できる作品がよく似合う。ピーターパン的な資質の持ち主だといいたい。これは決してわるいことではない。

 山崎監督の意を汲んだ出演者も素晴らしい。『万引き家族』での少年役が忘れ難い城桧吏を主人公の一樹に据えて、『明日の食卓』の柴崎楓雅が太一役、さらに映画デビューのサニーマックレンドンがサニーを演じる。湊役の吉村文香もこれが映画デビューとなるが、なかなかの美少女ぶりだ。

 この子供たちを図らずも引率する破目になる葉山先生には、まことに適役、新垣結衣が演じている。彼女の素直なキャラクターが子供たちと同化し、輝きを浴びてくる。この女優は人に不快感を与えず、画面に存在するだけで豊かな気持ちにさせる。唯一無二のキュートな女優だ。どんな作品にも魅力を添える、まことに得難い女優である。彼女の参加で本作の魅力が倍加されたことは間違いがない。

 この他、神木隆之介がちらりと客演し、釘宮理恵、下野紘、杉田智和、大塚明夫、そして田中泯が声優としてキャラクターに生命を吹き込む。なかなかに練り込んだキャスティングではないか。

 製作がROBOTで、製作協力が阿部秀司事務所。VFXは白組と、山崎監督がヒットを飛ばした仲間たちが一堂に介した。童心に戻って楽しめる一遍。主題歌は新垣結衣出演作なのだから星野源で決まりだ。「異世界混合大舞踏会(feat. おばけ)」なる曲、軽快に沁み入る。まずは夏にふさわしい、一見に値する作品だ。