『SING/シング』や『ペット』をはじめ、数々のヒットを誇るイルミネーション・スタジオは、洒脱なギャグとストーリーでヒットを連発。今や世界に冠たるアニメーション・スタジオとなっている。なによりも今の時代に呼応した映像センスやギャグは群を抜き、生み出されたキャラクターたちも愛らしい存在ばかりだ。
なかでも特筆すべき存在はミニオンだ。
小さくて黄色い、群れてうるさい生きもの。バナナ的な形状が特徴で、何とも愛嬌に満ちている。
最強最悪のボスに仕えることを生きがいにしている彼らは、怪盗グルーを見出し、彼の部下としてひたすら働いている。
ミニオンが初めて登場したのが2010年の『怪盗グルーの月泥棒』だが、たちまち見る者を虜にした。ミニオンの人気爆発とともに『怪盗グルー』はシリーズ化され、2015年には『ミニオンズ』なるスピンオフ作品まで生まれ、これもまた大ヒットを飾った。
本作は『ミニオンズ』の続編という位置づけだが、怪盗グルーの少年時代が背景。グルーと彼らのつながりが確固となる経緯が紡がれる。『ミニオンズ』を手がけたブライアン・リンチが原案、『ビッグママ・ハウス3』のマシュー・フォーゲルが脚本を担当。ストーリーの背景となる1970年代のテイストを存分に織り込みながら、奇想天外なストーリーを構築した。
監督は『ミニオンズ』や『怪盗グルーのミニオン大脱走』などで知られるカイル・バルダ、さらにブラッド・アブルソン、『ペット2』のジョナサン・デル・ヴァルが名を連ねている。本作もまたコロナ禍の被害に遭い、公開日が2度も延期になったが、本作の楽しさ、痛快さは時期など選ばない。いつみても、何度見てもおかしい。素敵な仕上がりである。
1970年代、怪盗グルーが11歳だった頃のお話。グルーの夢は“スーパー・ヴィラン(超悪党)”になることで、世界最強の悪党集団ヴィシャス・シックスに憧れていた。悪党集団はボスを裏切り、伝説の石ゾディアック・ストーンを獲得。新たな存在を募集していた。
グルーはその募集に応募したのだが、鼻であしらわれ、とっさに伝説の石を盗み出す。彼をつけてきたミニオンたちと逃げ出す。
だが、石を預かったミニオンのひとり、オットーが子供相手に石をガラクタと交換してしまったことが発覚。怒りに燃えたグルーはミニオンにクビを宣告し、飛び出すが、ヴィシャス・シックスの裏切られたボスに拉致されてしまう。
伝説の石をなんとか取り戻したミニオンのケビン、スチュアート、ボブはグルーを救い出すべく、サンフランシスコに向かい、そこで図らずもカンフー修行を行なう仕儀となる。ヴィシャス・シックスと、彼らに裏切られたボスを相手にミニオンズは決死の戦いに身を投じていく――。
1970年代に流行した『スーパーフライ』をはじめとするブラック・プロイテーション映画、『燃えよドラゴン』などのカンフー映画のオマージュを全編に散りばめながら、奇想天外なミニオンたちの活躍が描かれる。車でフラワー・ムーヴメントのメッカ、サンフランシスコに向かう設定や、チャイナタウンで繰り広げられるクライマックスまで、理屈抜きに楽しめる。ファッションや当時のカルチャーを巧みに取り入れつつ、ギャグに仕立てているあたりがこのアニメーション・スタジオの真骨頂だ。
声の出演者も、日本語吹き替え版ではシリーズ通して、笑福亭鶴瓶がグルーを熱演。本作では少年の声に挑戦している。共演も市村正親、尾野真千子、渡辺直美など、個性豊かなキャスティングが組まれている。
音楽を担当したのはシンガーでソングライター、プロデューサーの貌も持つジャック・アントノフ。「シャイニング・スター」や「ファンキータウン」、さらにはボサノバの名曲「デサフィナ―ド」、「バン・バン」、「ブラック・マジック・ウーマン」などなど、当時を賑わせたナンバーの数々をカバー・レコーディング。おまけにダイアナ・ロスの「ターン・アップ・ザ・サンシャイン」が織り込まれる豪華版だ。
ミニオンズのキュートさ、間抜けさに腹を抱え、1970年代を知る者は懐かしく回顧し、知らない者はカリカチュアされた当時の文化を新鮮に体験できる。まことに可愛い仕上がりとなっている。