テレビで実力と人気を蓄え、劇場用映画で大ヒットを飛ばす。現在、スクリーンを賑わすアニメーションの多くがこの道を歩んでいる。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」、そして「名探偵コナン」は(コロナ禍で作品公開が延びた例外を除き)毎年、新作が公開され、常に年間興行収入ランキングの上位を飾るヒットを誇っている。
なかでもここに紹介する「名探偵コナン」シリーズは20歳代女性を含め、幅広い世代からの支持がある。昨年、1年延期の後に公開されたシリーズ24弾『名探偵コナン 緋色の弾丸』は興行収入76億5千万円を挙げて、興行収入ランキング2位に座った。2019年の23弾『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』に至っては93億7千万円の興行収入を叩き出した。もはや日本映画随一のヒットシリーズといっても過言ではない。
こうした人気は、今も続く青山剛昌の原作コミックやテレビ・アニメーションのファンたちが支えている。劇場版はファンたちの期待を裏切らないために、さらにスケール大きく、練り込んだ内容に仕上げている。最新の話題や流行を巧みに取り入れながら、あくまでもサスペンス、ミステリー的興味を軸にするあたり、スタッフたちの努力を称えたくなる。
脚本を担当したのは大倉崇裕。ミステリー作家として知られ、本シリーズはテレビ・アニメーションを経験した後、劇場版は『名探偵コナン から紅の恋歌』、『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』に続き、本作が3作目となる。随所に見せ場を網羅しながら、一筋縄でいかないストーリーを生み出した手腕を称えたくなる。
監督は満仲勧。これまで「名探偵コナン」シリーズは参加してきたが、テレビシリーズ「ハイキュー!!」と劇場版の演出を認められて、今回の起用となった。きびきびしたスピーディーな語り口が本作でも存分に活かされている。
ハロウィンが近づき、東京の渋谷で賑わいを見せていた。
渋谷ヒカリエでは、警視庁の佐藤刑事と高木刑事の結婚式(?)が進んでいたが、乱入してきた暴漢を止めようとして、高木刑事が負傷してしまう。その姿を見た佐藤刑事には、恋心を抱いていた松田刑事が3年前の連続爆破事件で殉職したイメージが蘇る。
一方、その連続爆破事件の犯人が脱獄。公安警察の降谷零(安室透)が、同期の松田を葬った相手を追い詰めるが、突然現れた謎の人物に首輪型の爆弾をはめられてしまう。
爆弾解除のため安室と会ったコナンは、今は亡き警察学校時代の同期メンバー達と、正体不明の仮装爆弾犯“プラーミャ”との間で起こった過去の事件の話を聞く。
コナンたちは捜査を進めていくが、その背後には恐るべき魔の手が迫っていた――。
爆弾犯をめぐる過去の因縁と、現在も繰り返される爆破事件。さらに爆弾犯を狙う謎の組織も絡んでストーリーはめまぐるしく展開していく。過去の回想シーンにかなりの時間が割かれ、爆弾犯とかつての警察学校同期との経緯が紡がれる。
この過去のエピソードをじっくり観客に伝えた上で、現在の爆弾事件にコナンたちが遭遇するサスペンス、誰が“プラーミャ”なのかの謎解き、そしてクライマックスの一大スペクタクルまで息つく暇もなく繰り広げられる。冒頭でファンを脅かせてからは一気呵成。ストーリーの起伏にただただ魅了されていく。アクション度、謎解き度、スペクタクル度のどれも十分に満足できる仕掛けとなっている。
なにより感心させられたのが、舞台となる渋谷の街の地形、特徴あるビルの数々をストーリーに織り込み、あっと驚くトリックに仕立てていることだ。渋谷区の全面協力のもとで可能になったとのことだが、アニメーションらしい誇張と街のリアルな肌合いを巧みに融合した腕前は称賛に値する。坂の多い渋谷の地形がどのように使われるかは作品で確認されたい。
出演者は高山みなみをはじめレギュラー陣に加えて、白石麻衣がゲストで迎えられ謎のキャラクターを演じている。主題歌はBUMP OF CHICKENの「クロノスタシス」。シリーズのファンでなくとも満足できる。痛快で楽しめる仕上がりである。