『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』はイラク戦争を非情に徹して描いたアクション快作!

『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』
11月19日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、池袋HUMAXシネマズ、109シネマズ木場ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
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公式サイト:https://mosul-movie.jp/

 今年、アメリカがアフガニスタンから撤退して、中東地域は新たな段階に突入したといえる。アフガニスタンではタリバンが復権し、イラクやシリアは未だ混乱が続いている。これまでの20年に及ぶアメリカの戦争は、どんな意味があったのか、疑問を感じざるを得ない。結果として中東地域をさらに混乱、混迷させてしまった。

 本作の舞台になるのはイラク第2の都市モスルだ。モスルの名はイラク戦争のおりに何度も耳にしたことがある。描かれるのはISIS(イスラム国)対元警官からなるSWAT部隊の戦いだ。かつて繁栄を謳いながら、今や痛々しいほどに廃墟と化した大都会で終わりのない銃撃戦が繰り広げられていく。

 企画は、ルーク・モゲルソンがザ・ニューヨーカー誌に掲載した記事に惹かれたジョーとアンソニーのルッソ兄弟によって立ち上げられた。脚本・監督にはマシュー・マイケル・カーナハンが起用された。ルッソ兄弟といえば『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、たちまちヒットメーカーの仲間入りした存在。自らのプロダクションで立ち上げた本作は、イラクのプロデューサー、モハメド・アルダラシーと組んで、世界的には無名のアラブ系俳優を起用するというチャレンジに打って出た。

 アメリカ人の視点ではなく、イラク市民の側の視点からストーリーを紡ぎたいと考えたカーナハンはとことん取材をかけて、イラク人としてリアルであるようにキャラクターを構築していった。カーナハンは、ピーター・バーグの『キングダム/見えざる敵』をはじめ、ロバート・レッドフォードの『大いなる陰謀』、ケヴィン・マクドナルドの『消されたヘッドライン』、マーク・フォースターの『ワールド・ウォーZ』まで、確固たる世界的な視野を持った骨太な脚本を生み出し、とりわけサスペンスに秀でた存在として評価が高い。おまけに兄のジョー・カーナハンは『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』などで知られる映画監督とあって、今回の監督進出も大いに頷けるところだ。

 映画は廃墟と化したモスルの全景から始まる。ドローンで撮影された映像には大怪獣に破壊されたミニチュアと見まごうほどに、徹底的に壊された街並みが映し出される。そこからカメラは銃撃戦が繰り広げられる店舗に入り込む。

 叔父を撃たれた新人警官カーワが必死でISISと戦っている。敵の人数が多く、叔父の傷も深い。もはやこれまでと思ったとき、ISISを駆逐する一団が現われる。独自の戦いを展開するSWAT部隊だ。彼らはカーワを疑い、警官であることをなかなか信じようとしなかったが、叔父が死に、彼は部隊長から行動を共にすることになる。

 ともに行動することになっても、なかなか信用してもらえないなか、次々に戦闘を経験することになる。周辺国からも入り込んだ様々な出自を持つ軍団が入り乱れ、誰が敵かも判然としない状況のなか、カーワはSWAT軍団の秘密行動につきあわされる。過酷な戦闘を経験するうちに、次第に殺しに心が麻痺し、戦士に変貌していくが、SWAT部隊の目的は思いもよらないものだった――。

 マシュー・マイケル・カーナハンの語り口は冒頭からハードボイルドそのもの、情の入る余地のない戦いに見る者を惹きこむ。まさに戦場にいるかのごとく、テンションの高い場面が続く。誰が裏切者なのか分からない、自分も信じてもらえない新人警官カーワのジリジリするような状況が映像を通して伝わってくるのだ。ともに戦うSWAT部隊が誰も信じなくなった理由はやがて明らかにされていくが、それこそが戦争状況ゆえに起こったこと。人間の資質が問われることになる。カーナハンの演出は力強く、登場するキャラクターをくっきりと浮かび上がらせる。それぞれのキャラクターそのものに加えて、宗教、文化の違いが、思いもかけない行動を引き起こすのだ。

 カーナハンはストーリー自体はむしろシンプルにしながら、キャラクターを練り込んで構築していく。なぜ生命をかけてSWAT部隊は戦うのか、その答えは最後に明らかになる。とことんほろ苦く、非情なシーンを重ね合わせてきただけに、ラストの趣向に胸が熱くなる。戦争という愚行を引き起こしながら、そのなかで人間らしさを保とうとする。人間というもののやりきれなさを、カーナハンは戦闘シーンの綴れ織りのなかに浮かび上がらせている。

 カーワを演じるアダム・ベッサはチュニジア系の若手というがみごとな演技を披露している。ルッソ兄弟が才能を見込んで新作でも起用するというから楽しみ。本作での存在感はそれほど際立っている。

 SWATの部隊長を演じたスヘール・ダッバーシはアメリカに移住したイラク人、他の出演者もヨルダン人、イラク人で占められている。無名であれば、キャラクターがどうなるかは予測がつかない。その点でも本作は成功していると思う。

 戦場の狂気をみごとに映像化した戦争映画。画面に惹きつけられ、最後まで画面に釘付けとなる。一見をお勧めしたい。