2016年に劇場公開された『ドント・ブリーズ』は、盲目の老人が閉塞空間のなかでは最強、最恐のホラーキャラクターとなりうることを証明し、ホラーファンの快哉を導いた。
盗みに入った若者たちが音を立てずにいかに屋敷を抜け出すかというシンプルな設定のもと、盲目の老人の並外れたスキルをテンション高く描き出す。90分に満たない上映時間をサスペンス全開で走り抜け、見る者を痛快さで包み込んだ。ありそうでなかったストーリー、思いもよらない恐怖を発散するキャラクターの妙。プロデュースをしたホラーの匠、サム・ライミの卓抜したセンスと、ウルグアイ出身の監督フェデ・アルバレスの勢いのある演出にひたすら拍手したものだった。
しかし、続編ができると聞いて少し心配になった。設定が単純なだけに二番煎じなる危険性は十分にある。まして監督はフェデ・アルバレスとともに脚本を書いているロド・サヤゲスに変わったというのだ。舞台となったデトロイトの朽ちかけた屋敷がまた舞台となるのか、盲目の老人はどうなるのか。
唯一の期待したくなる材料はサム・ライミのコメントだった。「今まで聞いたなかで、最高の続編のアイデア!」と太鼓判を押したのだ。いくらプロデューサーといっても、ここまで褒めるのは尋常ではない。
そして今年2021年、続編が登場した。見終わってのけぞった。ここまでイメージが変わった続編は見たことがない。基本の設定は同じだ。舞台は荒んだデトロイトの老人の朽ちかけた屋敷。ここに今度は戦闘能力のある武装集団が襲い掛かってくる。
続編は前作から8年後が舞台となる。盲目の老人は若い娘とともに暮らしている。少女は偏屈で厳しい老人のもとで、必ずしも居心地がよさそうには見えない。
そして武装集団が攻撃を仕掛けてくる。息もつかせぬ展開のなかで、なぜ娘がここにいるのか、武装集団の狙いが何なのかが次第に明らかになる。
どのような事情なのかは見てのお楽しみ。詳細を知らない方が作品を数倍楽しめる。フェデ・アルバレスとロド・サヤゲスの巧みな脚本に翻弄され、有無を言わさぬ暴力描写、緊張感の高いサスペンス演出のなかで、最後の最後までグイグイと惹きこまれる。
ちょいとオーバーに言えば『エイリアン』から『エイリアン2』に変貌したかのよう、あるいは『ターミネーター』から『ターミネーター2』への移行といえばいいか。確かなのは第1作のイメージとはかけ離れた世界がここに生み出されていることだ。
アクションシーンも力がこもっていて、手に汗を握る。盲目の老人のスキルは前作でも証明済みだが、襲う集団も並の強さではない。老人が仕掛ける屋敷のゲリラ戦も対応する敵の存在でさらにテンションが高まる仕掛けだ。
すべてが明らかになると、これまでの思いとは別な感情が生まれてくる。最後の最後で思わずニヤリとさせられる描写も用意されている。本作も90分足らずの上映時間のうちに盛り沢山の趣向が織り込まれて、十分に満足できる。
白髪、盲目の老人を演じるスティーヴン・ラングはまさに当たり役だ。『アバター』などの非情な軍人役で注目された彼は盲目の老人役(ノーマン・ノードストロームという名前だ)にピッタリとはまっている。鍛え上げた肉体とクールな表情のなかに、殺気を滲ませる。凄味に満ちた存在感で画面をさらう。ラング自身も気に入っているのだろう、この続編では製作に名を連ねている。
フェデ・アルバレスと同じく、ロド・サヤゲスも残酷描写やアクションのファナティックなセンスが非アメリカ的、ラテンの血を感じさせる。これがウルグアイ・テイストなのか。日米同時公開、13日の金曜日の公開となった。シリーズ化が楽しみな快作である。