アメリカン・コミックを原作にした作品もその数を増やし、近年では『ジョーカー』や『ヴェノム』、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』をはじめ、ヒーローではなく仇役に焦点を当てたものも増えてきた。
2016年に公開された『スーサイド・スクワッド』は、DCコミックの悪党たちが一堂に介して成功率の低いミッションに挑む展開で、これまで見えてこなかった個性が浮かび上がり、世界的なヒットとなった。ハーレイ・クインなどは際立ったキャラクターが認知されて、自らが主役となる作品まで誕生した。
本作は題名からも明らかなように『スーサイド・スクワッド』の続編的な存在であるが、監督がジェームズ・ガンに変わったために作品のイメージがさらに過激に、アナーキーかつぶっ飛んだものになった。前作の監督デヴィッド・エアーは『フューリー』や『L.A.スクワッド』などのフィルモグラフィからも分かる通り、きびきびとしたアクションと反骨が身上だったが、本作のジェームズ・ガンは一味違う。
ガンはトロマ・エンターテインメントからキャリアを始めたことが証明するように、面白ければ何でもありの精神の持ち主。他愛ないギャグや下世話なオチも躊躇せず、アクションもスタントもとことんエスカレートさせる。マーヴェル・コミックの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に抜擢されてメジャーな存在になったガンだが、本作の方がずっと似合っている。
アメリカ政府が困難なミッションを遂行するために、スキルのある犯罪者を結集。彼らに自由と引き換えに任務を引き受けさせる、という本作の設定はロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』などからの定番。『七人の侍』と同様、いかに個性的なキャラクターが揃うかが肝となる。
前作に引き続きビッチなハーレイ・クインがフェロモン発散しつつ、前作以上に暴れまくるのを皮切りに、前作でリーダーだったリック・フラッグ大佐も参加する。
だが14名も参加したミッションであえなく散るキャラクターも少なくない。生き残って戦い抜いたのはスナイパーのブラッドスポット、同じく銃の名手のピースメイカー、ネズミ使いのラットキャッチャー2、極彩色の水玉を武器にするポルカドットマン、半分サメのキング・シャーク(特徴ある声の出演はシルヴェスター・スタローン!)。
個性というにはあまりに珍妙な容貌のメンバーばかりだが、その暴れぶりも突き抜けている。アクションも戦闘も刺激満点。あまりの残酷さに笑ってしまうしかない。このセンスがジェームズ・ガンの持ち味なのだ。本作を見ると『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はおとなしく振舞っていたと悟る。本作ではリミッターを外して、とことん弾けて、弾けまくるのだ。
ザ・スーサイド・スクワッドが放り込まれるのはラテンの独裁国家。ここの巨大な塔で行なわれている研究を破壊するのがミッションだったが、計画は既に知られていて、多数の敵が待ち受けていた。
名だたる犯罪者たちも待ち伏せには弱く、次々と倒される。生き残ったブラッドスポット、ピースメイカーたちは、それでも研究所爆破に挑む――。
ストーリーは単純明快。ジェームズ・ガンは随所に笑いを散りばめながら、勢いに任せてスーサイド軍団の個性を炸裂させる。ラットキャッチャー2などは名前から特殊能力の察しはつくものの、ポルカドットマンは笑うしかないが強力な殺傷能力の持ち主だ。キング・シャークに至っては容貌からギャグだし、戦士らしいいでたちのブラッドスポットやピースメイカーがいるから、辛うじて軍団としてのイメージは保っていられる感じなのだ。さらにとことん唯我独尊のハーレイ・クインが加わるのだから、予断を許さない成り行きに目が離せなくなってしまう。
ジェームズ・ガンの脚本家としての能力が秀でているのはハチャメチャなストーリーに納得できる理由を設けていることだ。独裁国家の暴走に見せて実は裏があるという設定は説得力があるし、なによりもクライマックスが圧巻だ。あれよあれよという間に映画は大怪獣スペクタクルに変貌してしまう。
どこかでみたことがあるような大怪獣の容貌をふくめ、クライマックスはガンのおたく心がいかんなく発揮されている。ひたすら疾走する語り口に翻弄され、最後には拍手を送りたくなる仕上がりだ。
俳優たちも素敵だ。ハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビーは相変わらずの華やかさだし、ブラッドスポット役のイドリス・アルバは『ダークタワー』から『キャッツ』まで役柄の広さが売りだが、この頼れるダークヒーローがぴったりはまる。加えてピースメイカー役のジョン・シナは『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』に続く、アクション大作。ここでは“平和のための暴力行使”を任ずる過剰なキャラクターをコミカルに演じてみせる。むくつけき男たちの競演が微笑ましい。
痛快無比、ひたすらブラックで過激、楽しさ重視に振り切ったエンターテインメント。このシリーズの次回作が楽しみでならない。