『すべてが変わった日』は愛ゆえに独善的な行動を辞さない女性たちを描いたヒューマン・サスペンス。

『すべてが変わった日』
8月6日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
配給:パルコ ユニバーサル映画
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公式サイト:subetegakawattahi.com

 かつてスクリーンから燦然たる輝きを放ち、時代を画すほどの人気を誇ったスターでも、歳月の流れとともに存在感は変容する。ましてさまざまなジャンルからスターが輩出する映像多様化時代ともなればなおさらのことだ。

 本作の主役を飾るダイアン・レインとケヴィン・コスナーはともに一世を風靡した人気スターだった。

 ダイアン・レインは1979年に『リトル・ロマンス』で映画デビューするや、天才少女スターと謳われ、一躍世界中から注目を集めた。フランシス・コッポラの『アウトサイダー』や『ストリート・オブ・ファイヤー』などの話題作に出演。

 ただ、おとなの女優のイメージを打ち出すことに苦労し、『愛は危険な香り』などではヌードを披露するなど低迷の時期はあったが、2002年の『運命の女』で演技が絶賛され、翌年に『トスカーナの休日』がヒットしたことで、自分の立ち位置を掴んだ。近年は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』や『ボンジュール、アン』などで、主演、客演の区別なく、聡明な女性像を演じている。

 一方、ケヴィン・コスナーはアメリカの国民的ヒーローの扱いを受けた時期もあった。1987年に『アンタッチャブル』でエリオット・ネスを演じて世界的な人気を博し、『フィールド・オブ・ドリームズ』で好感度をアップ。

 さらに1990年の初監督・主演作の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』がアカデミー作品賞・監督賞などに輝いたことで圧倒的な支持を集めた。折からの湾岸戦争の気運のなかで、フロンティアを求める主人公の姿がアメリカの英雄像に映り、監督に挑むコスナーと重なったのだ。

 続く『JFK』や『ボディガード』などで、コスナーのイメージはいっそうヒロイックなものとなったが長くは続かなかった。不倫スキャンダルが致命傷となって、たちまち人気は凋落。『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』や『13デイズ』などで好演をみせるものの、以前のような人気となることはなかった。最近では主演は少なくなったものの、よき時代のアメリカの男を具現化し続けている。

 本作ではこのふたりが夫婦として競演することで話題になっている。もっとも夫婦役としては、DCコミックの実写映画『マン・オブ・スティール』など3本でスーパーマンの育ての親、ケント夫妻を演じた。理想的なアメリカの両親像である。

 本作の時代背景は1960年代、アメリカの北西部に位置するモンタナ州とノースダコタ州でストーリーが繰り広げられる。引退して牧場を営むジョージとマーガレットは息子夫婦と孫に恵まれて幸せに暮らしていたが、突然、息子が事故死。孫と残された嫁は再婚し新生活を始める。

 だがマーガレットは嫁の夫が暴力男であることを目撃。家を尋ねてみると一家はノースダコタの夫の実家に引っ越した後だった。マーガレットはジョージにすべてを話し、孫を取り戻すように促す。

 反対していたジョージもマーガレットの一途さを知り、ともに旅することになる。繁栄とはかけ離れた、うら寂れた地を辿る旅は、やがて嫁が暮らす屋敷に行き着く。そこは独善的で暴力的な女家長が牛耳る世界だった。

 常識が通用しない一家を相手にしてマーガレットとジョージはとある選択を余儀なくするが、それは決定的な悲劇を引き起こすことになった――。

 ラリー・ワトソンの小説『LET HIM GO』をもとに脚色、監督も手掛けたのは、『幸せのポートレート』や『恋するモンテカルロ』などで知られるトーマス・ベズーチャ。本作の脚本が注目されて、脚本家、監督への道が拓けたというだけあって、異色の物語に仕上げている。

 1960年代という、未だ女性の権利が確立されていない時代を背景に、聡明で自らの思いに固執するマーガレットと、暴力で一家を仕切る女家長の対決が用意される。虐げられてきた時代のなかで、男たちを巧みに操ってきた女性ふたりの骨肉の争い。フェミニストの監督らしく、一筋縄ではいかないキャラクター設定のもとで、スリリングでハードボイルドなドラマが構築されている。

 ノスタルジックな要素をアピールすることなくリアルな風景で貫き、力を行使することで男らしさを競う粗野な男社会のなかで、地歩を築いた女たちの姿を浮かび上がらせる。先住民の描きかたも含め、ベズーチャの時代を見据える視点は徹底している。

 本作の軸はマーガレットにあることは間違いなく、ダイアン・レインの聡明なイメージが巧みに活かされる。フェミニンなふるまいのなかで巧みに夫を操縦し、自分の意のままに行動する。精神の強靭さも表情に垣間見せるあたり、まさにレインの独壇場だ。

 対する女家長役のレスリー・マンヴィルは『ファントム・スレッド』などでの演技で知られる英国のベテラン女優だが、どこまでもアグレッシブな表現でレインと好対照。みごとなアンサンブルみせる。

 コスナーといえば、頼れる古風な男を寡黙に演じる。昔の男も粗野な奴だけではなかったと証明するキャラクターだが、画面に登場するだけで嬉しくなるのはかつての輝きの名残だろうか。本作では製作総指揮に名前を連ねている。

 未だに色香を漂わせるダイアン・レイン、さらりと男伊達を披露するケヴィン・コスナー。ふたりのパフォーマンスを堪能できる作品である。