『イン・ザ・ハイツ』はニューヨークのラテン系アメリカ人を称えた、熱くて躍動感に満ちた傑作ミュージカル!


『イン・ザ・ハイツ』
7月30日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか、全国ロードショー!
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/intheheights-movie.jp/

 アメリカ合衆国が多民族で成り立っていることは論を俟たないが、ようやく近年になってそれぞれの民族に焦点を当てた作品がいくつもつくられるようになった。ラテン系、アジア系など、それまでは都会の多様性を象徴する点景としてしか描かれなかった人々を題材にした映画が、多様性を叫ぶ風潮に乗って数を増やしてきた。

 早くから完成が心待ちにされていた本作もまた、そうした1本に数え上げられる。

 何といっても本作は、舞台のアカデミー賞に当たるトニー賞において作品賞、楽曲賞、振付賞、編曲奨の4冠に輝き、グラミー賞ではミュージカルアルバム賞を手中に収めた話題の映画化作品なのだ

 ニューヨーク・マンハッタンの北部、ハーレムに接したワシントンハイツはドミニカ人をはじめラテン系の移民たちが暮らす街として知られている。本作が描くのはこの街で暮らすラテン系の人たちの実像だ。

 ニューヨークで移民たちが暮らすことの夢と現実を描きながら、アメリカ国民に成りきれるのか、いわばアイデンティティの問題を問いかける。

 舞台の原案を生み出し、楽曲の作詞・作曲を担ったリン=マニュエル・ミランダによれば「この作品は愛すべきコミュニティに宛てたラブレターだ」という。プエルトリコの血をひき、ニューヨークで生まれ育った彼にとっては、本作は故郷に対する讃歌なのだ。

 舞台で成功したミュージカルをいかに映画として成立させるか。オリジナルの舞台で脚本を担当したキアラ・アレグリア・ウデスが脚色と製作を担当し、ストーリーを整理。3人の若者を軸にしたコミュニティの群像劇に仕上げた。映像に浮かび上がってくるのは移民という存在の多様性、共生のテーマだ。

 もちろん、そうしたテーマを内包しながら、映画は思わずステップを踏みたくなるような楽曲とリズミカルで躍動感に富んだ振付、踊りに彩られる。監督のジョン・M・チュウは、『クレイジー・リッチ!』で一躍注目を集めた台湾系アメリカ人。人種は違えどもアメリカにおける移民の子供の気持ちは共通していると語る。アメリカの現実はさまざまなネガティヴな要素を内包しつつも、希望がある。チュウはアメリカで共生することの大切さ、素晴らしさを映像に焼きつけている。

 ワイントンハイツで育った4人の若者は岐路に立たされていた。祖国プエルトリコに戻ることを夢みるウスナビ、デザイナーになることを望みながら厳しい現実に翻弄されるヴァネッサ、街の誇りとして名門大学に進みながらも差別の壁に負けそうになるニーナ、ひたすら成功する道を探し求めるベニー。彼らはアメリカの厳しい現実に直面し、それでも懸命に自分のアイデンティティを探し求めていた。

 ある時、街の住人たちに危機が訪れる。これまでも様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がる。そして突如、起こった大停電の夜、住人たち、ウスナビたちの運命が大きく動き出した――。

 ワシントンハイツで育った若者たちがアメリカの現実のなかでどのように納得して自分の居場所を定めていくか。二極化してしまった不寛容なアメリカで移民たちが暮らすことの困難を描きつつ、それでも希望があると謳いあげる。

 実際にワシントンハイツ近辺にロケーションを敢行し、作品はそこに住むラテン系の人々の息吹をみごとに捉える。素晴らしいのはそこで繰り広げられる群舞の圧倒的な躍動感だ。街角で、プールでさまざまな老若男女が呼吸を合わせて躍りまくる。その迫力にひたすら釘付けとなる。振付のクリストファー・スコットをチーフとして、ラテン系ダンスナンバー担当のエディー・トーレスJR、群舞のエミリオ・ドーサル。さらにエボニー・ウィリアムズ、ダナ・ウィルソン、プリンセス・セラーノが参加。それぞれん持ち味を発揮しながら卓抜したダンスシーンを構築していった。

 とりわけプールのシーンでは往年のバスビー・バークレーにオマージュを捧げる振付まで登場する嬉しさ。随所に設けられたミュージカルシーンにただただ惹きこまれるばかり。楽曲はラテン・テイストとラップ、R&B、ポップスといった要素が融合。リン=マニュエル・ミランダの豊かな才能を得心できる。思わず足でリズムをとりたくなるようなノリの良さが映像の躍動と合わさって、見る者の胸を熱くする。

 出演者はステージから演じてきた実力派で揃えられている。ウスナビに扮するのはリン=マニュエル・ミランダのミュージカル「ハミルトン」の主役を演じたことで注目されたアンソニー・ラモス。映画では『アリー スター誕生』や『ファイナル・プラン』にも顔を出していたが、本作の歌と踊り、演技が彼の真骨頂だ。

 加えて『ストレイト・アウタ・コンプトン』のコーリー・ホーキンズがベニーを熱演すれば、歌手としても活動するレスリー・グレイスがニーナ役、またヴァネッサにはメキシコ系の新進女優、メリッサ・バレラが起用されている。いずれの俳優たちも新鮮さ、熱さが身上である。

 ラテンの明るさ、切なさ、哀しみが画面に溢れ出る。ミュージカルの醍醐味を満喫させてくれる、今年屈指の仕上がりだ。