『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は些細な音にも息を呑む、サバイバル・ホラー快作!

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
6月18日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
© 2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:http://quietplace.jp/

 卓抜したアイデアでセンセーショナルなヒットとなった作品に続編が企画されるのは映画界の常だが、そのアイデアが周知のものとなってしまうと、第1作を凌ぐ趣向が必要になる。第1作にも勝るとも劣らないストーリーと展開の妙が求められる。

 2018年に公開された『クワイエット・プレイス』は抜群のアイデアで大成功を収めた。興行的にもヒットを飛ばし、評論家からも高評価を受けた理由は、音を立てられない怖さにあった。サスペンスホラーとなれば、叫び声はむしろ恐怖を際立たせる必需品のようなものなのに、あえて封印して沈黙の緊張感で貫いた。

「音を立てたら、即死。」というキャッチコピーも話題を集め、音が出てしまうかもしれないアクシデントに画面を見る側も思わず息を呑む。音を立てると襲い来るものが何なのかは、映画を見て明らかになる頃は、観客はすっかり作品の術中にはまっていた。

 こうなると続編を待望する声は大きくなる。製作サイドはこの第1作以上にアイデアを練る必要に迫られるわけだ。主演と監督、脚本も兼ねたジョン・クラシンスキーにとっては、脚本と監督の技量をさらに知らしめるためにも挑みがいのあるものとなった。

 コロナ禍によって作品の公開が延期となる不幸があったにせよ、クラシンスキーの発想は色褪せなかった。既に第1作を見ていれば、音に敏感な“何か”の正体は明らかなのだが、クラシンスキーはあえて“何か”の最初の襲来のスペクタクルから続編を始めた。理由も分からずに次々と人間は駆逐されていく。たちまちのうちに世界中阿鼻叫喚のパニックとなる。

 冒頭にこの問答無用の恐怖を見る者に与えてから、クラシンスキーは第1作で悪戦苦闘を繰り広げたアボット一家に焦点を当てる。

 出産したばかりの赤ちゃんを抱えた母イヴリン、耳の不自由な長女リーガン、長男のマーカスは大黒柱の父を失い、途方に暮れていた。家族だけで潜んでばかりはいられない。外の世界に救いを求めることにした。少しでも音を立てれば怪物に襲撃されるというリスクはあったが、他に手段はなかった。

 幸いなことに家族は手話でコミュニケーションをとることができた。だが彼らは、“何か”の襲撃に遭い、廃工場へ逃げ込む。そこには謎の生存者エメットがいた。

 エメットとの出会いが発端となって、新たな謎と脅威が明らかとなり、彼らの運命は激しく動き始めた――。

 第1作は一家の住む家の近辺という限定空間だったが、クラシンスキーは本作で世界を広げてみせる。一家が生存するために新天地を求めるのは自然の成り行きだし、彼らと同じように息を潜めて暮らしていた人もいるはずだ。そこから発想を膨らまして、登場人物を増やし、それぞれに個性を持たせることで、第1作のシンプルな恐怖とは一味違うサスペンスを作品にもたらしている。

 第1作のような閉塞感に満ちたホラー世界ではない、終末的な地獄図絵が形成されていくわけだが、詳細を書くと驚きが殺がれる恐れがある。いってみれば、アボット一家の生存の旅は始まったばかり。ここに至って、クラシンスキーはこのストーリーを終末世界のオデッセイにしたかったのだと、合点がいく。つまりは、第3作は本作が大失敗しない限り、可能性は十分以上あるということだ。

 本作では監督自身は俳優としてはあまり出番がないこともあり、演出に全力傾倒。ストーリーを耳の不自由なリーガンと長男マーカスの冒険成長物語にシフトした。危機が勃発するたびに逞しさを身に着けていく姉弟の姿が力強く描かれている。

 第1作からリーガンを演じてきたミリセント・シモンズは凛とした存在感を増し、マーカス役のノア・ジュープも逞しさが生まれてきた。もちろん母親役のエミリー・ブラントが演技を引っ張ってい折ることは間違いないが、ふたりがどのようなヒロイン、ヒーローに変貌していくかが楽しみでならない。

 さらに本作からは共演陣も充実している。『インセプション』や『ダンケルク』で知られるアイルランド俳優、キリアン・マーフィに『グラディエーター』のジャイモン・フンスーなど、個性派が一家の冒険を支えるキャラクターで登場する。本作が世界を広げ、ドラマを厚くした一翼を担っているのだ。

「極限の劇場体験!」、あるいは「恐怖と緊張の新体感サバイバルホラー」と謳うが、その仕上がりはご自身の目で得心されたい。本作もアメリカでの評価は高い。これで新たなシリーズの旅立ちとなるのか、注目したい。