『ジェントルメン』はガイ・リッチーが原点回帰した、豪華な顔ぶれの暗黒街群像ドラマ。

『ジェントルメン』
5月7日(金)より、全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:https://www.gentlemen-movie.jp/

 イギリス人監督、ガイ・リッチーはひたすらメジャーへの道を歩んできだ。

 近年はミステリーの代表的存在をアクション・ヒーローに仕立てた『シャーロック・ホームズ』シリーズ2作を成功させ、続いて往年のテレビシリーズの映画化『コードネーム U.N.C.L.E.』に挑み、イギリスが誇る名君をこれまたアクション・ヒーローとして描いた『キング・アーサー』を手がける。さらに2019年には誰もが知っているディズニーのアニメーション『アラジン』を実写化してみせた。

 傍から見ると、絵に描いたような出世コースに思えるが、勢いのあるはぐれ者の群像劇『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』で注目されたガイ・リッチーにはあまりに普通過ぎる。なにせマドンナが惚れたほどのはみ出し者のイメージを漂わせて、活きの良さで突き進んできたのだ。こういうメジャー作品ばかりの単なる“監督”の座に満足してほしくないと考えるファンも少なくなかった。

 恐らくリッチー本人もそうした思いに至ったのだろう。原点回帰とばかりに本作を発表してきた。

 本作の企画はリッチーが10年間、温めてきたもので、自分のルーツに戻る思いが込められていたという。長年、彼のアシスタントを務めてきたアイヴァン・アトキンソンとマーン・デイヴィースがアイディアを練って、リッチーが脚本に仕上げた。

 アメリカとイギリスの階級制度の違いを風刺しながら、ある程度の年齢になって洗練された男たちに焦点を当てる。ある意味でリッチー自身の投影と見ることができる。さらに登場人物がいずれも一筋縄ではいかない個性の持ち主というのも初期のリッチー作品をほうふつとする仕掛けだ。

 初期の作品同様、キャスティングも意表を突いたものとなった。かつて『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』では、元飛び込みの選手でモデルをしていたジェイソン・ステイサムや、元サッカー選手のヴィニー・ジョーンズを起用して、胡散臭い世界の強面のリアル感を焼きつけたセンスが際立つ。そうしたリッチーのセンスを面白がって『スナッチ』ではブラッド・ピットやベニチオ・デル・トロなど、名のある俳優たちもこぞって参加するようになった

 本作もゴージャスなキャスティングである。

『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーがロンドンのマリファナ王ミッキーに扮するのをはじめ、彼の忠実な部下に『キング・アーサー』や『パシフィック・リム』の主役を演じたチャーリー・ハナム。

 チャイニーズ・マフィアの若頭には『クレイジー・リッチ!』で二枚目ぶりを披露したヘンリー・ゴールディングが扮し、下衆な私立探偵には『ノッティングヒルの恋人』などのロマンチック・コメディでおなじみのヒュー・グラントが怪演。

 いかにもな『マイアミ・バイス』のコリン・ファレルやテレビシリーズ「ダウントン・アビー」のミシェル・ドッカリー、『ジャッジ 裁かれる判事』のジェレミー・ストロング、『おみおくりの作法』のエディ・マーサンまで、クセのある顔ぶれが揃っている。

 ロンドンで大麻の大量栽培と販売で王国を築き上げたアメリカ人ミッキーが、ビジネスを売却し、引退するというウワサが流れた。

 利権総額なんと 500 億円。強欲なユダヤ人大富豪が近づき、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵が暗躍し、チャイニーズ・マフィア、ロシアン・マフィア、さらには下町のチーマーまでもが、ミッキーの後継争いに参戦していく。ロンドンの騒ぎは過熱する一方、果たして結末はどのようにつくのか――。

 冒頭からリッチーは見る者を翻弄、先の読めない展開と会話の面白さ、スタイリッシュな映像でグイと惹きつける。こうなるとストーリーを語るのも野暮なので、設定だけを頭に入れたら、リッチーの演出に身を委ねるのがいい。登場する俳優たちがこれまでにないキャラクターを背負って気持ちよさそうに演じるのを堪能できる。

 初期の作品群よりはいささか洗練された感じだが、ブラックな味わいはさらに加味された気がする。勢いだけでは勝負しない。年齢相応の成長を遂げているといっても過言ではないだろう。キャラクターはいずれもカリカチュアされていて、セリフが生きている。なによりも映画ファンをニヤリとさせるネタも披露されるから応えられない。

 俳優陣もマシュー・マコノヒーを筆頭に、これまでにない弾けぶりだ。喰えないアメリカ人富豪なんて、今までのイギリス映画にはあまり登場しなかったが、マコノヒーが演じるとリアリティが生まれる。こういうハマり方をするからリッチー作品は断られないのだろう。それは私立探偵をどこまでも怪しく演じるヒュー・グラントにもいえる。下衆でゲイっぽく金に汚い男など、これまでどんな作品でも演じてこなかった。だからこそ喜んで演る、俳優の心理を突いた起用である。さらに、これまで真っすぐなヒーローしか演じてこなかったチャーリー・ハナムにとぼけたユーモアを発揮させるなど、リッチーのセンスに敬服である。

 デヴィッド・ローリングス、CAN、ジョニー・リヴァース、ロキシー・ミュージック、ファーサイド、ポール・ジョーンズ、ザ・ジャムなど、痛快な映像を際立たせる音楽にも注目されたい。痛快な暗黒街ドラマをお望みなら、絶好の作品だ。