『ブレイブ‐群青戦記‐』は高校生が現代から戦国時代にタイムスリップする、問答無用のSFアクション!

『ブレイブ‐群青戦記‐』
3月12日(金)より全国東宝系にてロードショー
配給:東宝
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 ©笠原真樹/集英社
公式サイト:https://brave-gunjosenki.jp/

 コミックの映画化はもはや目新しいことではなくなった。作品の認知度が高く、アイデアに優れているとならば、映画会社が取り上げるのは当然の理。ましてヴィジュアルのイメージも出来ているのだから、小説やオリジナル・ストーリーよりもコミックの原作が重用されるのは理解できる。

 本作もまたコミックが原作である。週刊ヤングジャンプ誌に連載された笠原真樹の人気コミック「群青戦記」をもとに映像化されている。

 高校生たちが学校ごと戦国時代にタイムスリップ。戦に巻き込まれるという展開だ。

 コミックであれば成立する設定を、いかに実写映画として納得させるか。作り手の力量が求められることになる。脚本を担当したのは『亜人』や『サイレント・トーキョー』などで知られる山浦 雅大と、『九月の恋と出会うまで』などで監督としても活動する山本透。さらに本広克之が参加し、監督を務めた。山本透は『亜人』や『曇天に笑う』といった本広監督作品の助監督として働いた経験があり、意思の疎通に滞りがない。

 監督はタイムスリップの面白さに惹かれたという。タイムスリップする時代背景、タイムスリップの仕組みをいかに映像として成立させるかに心を砕いた。この原作は主人公はいるものの大勢の生徒がタイムスリップする趣向なので、群像ドラマ的な要素もある。小ネタを詰め込んで多くのキャラクターを輝かせた大ヒット作、『踊る大捜査線』シリーズを誇る本広監督にとっては恰好の作品といえる。

 出演者も豪華な顔ぶれが選りすぐられた。主演は『OVER DRIVE』や『パシフィック・リム: アップライジング』などで際立った存在感を発揮し、近年活躍が目覚しい新田真剣佑。これに『モンスターハンター』にも顔を出している山崎紘菜、劇団EXILEのメンバーにして『ストレイヤーズ・クロニクル』をはじめ数多くの作品で個性を発揮する鈴木伸之。テレビシリーズ「仮面ライダージオウ」で注目された渡邊圭祐に、『記憶にございません』の濱田龍臣などが妍を競う。

 さらに松山ケンイチと三浦春馬が映画の輝きをさらに倍増している。

 スポーツが際立つ名門校に通う西野蒼は、自分に自信が持てず、目立つのが苦手。弓道部に所属し、練習に明け暮れる日々を送っていた。

 同じ弓道部に所属する幼なじみの瀬野遥と学校一の人気者、瀬野遥は才能がありながら実力を発揮できない蒼のことを気にかけていた。

 いつもと変わらぬ日々が続くなか、雷が校庭に落ちた直後、事態が一変する。

 学校の外は野原に変わり、構内に刀を持った野武士がなだれ込んできた。パニックに陥った生徒たちが次々と刃に倒れる。

 歴史おたくでもある蒼は、周囲の状況から学校全体が戦国時代、しかも“桶狭間の戦い”の直前にタイムスリップしてしまったことに気づく。

 織田信長の軍勢に生徒を連れ去られ、茫然とする蒼は、後に徳川家康となって天下統一を果たす松平元康と運命的な出会いを果たす。

 家康と手を組み、蒼は野球部やアメフト部の選抜メンバーたちとともに、仲間の救出に向かう。彼らは平和な現代に戻ることができるのか――。

 設定は奇想天外ながら、描写はリアル。戦国時代にタイムスリップした平和ボケの高校生たちはいともたやすく殺しのプロたる武士たちに倒されていく。突然の襲撃は、ある種ゾンビものの趣で阿鼻叫喚、地獄図絵の様相を呈する。本広監督は襲われ、死んでゆく高校生たちの姿をリアルに描写することで、とりわけ前半はいわゆるサヴィヴァルものとしての貌を鮮明にする。スポーツの名門校として各部のスキルをいかに駆使して生きのびるか。ボクシング、野球、剣道の猛者たちが戦い倒れていく。戦国時代の戦いをほうふつとさせる、何でもありで敵を倒す殺陣が繰り広げられる。

 こうした前半から、主人公の蒼がいかにして自信をもって生き抜くに至るか。いわば成長物語としての意匠に転じていく。自分がしっかりするしか方法がないことを悟ったとき、その変身ぶりが見ものとなる。最後のオチを含め予想通りではあるのだが、思わずニヤリとさせられる。

 タイムスリップしたら、ゾンビが跋扈するような世界だった。タイムスリップものにこうした設定は決して珍しくはないが、リアルを極めれば手に汗を握る仕上がりとなる。本広監督はタイムスリップから戻る手法を有名な作品にオマージュを捧げてみせる。雷と時計台といえばもう察する人も多いはず。

 出演者では新田真剣佑が内向的で繊細な主人公、西野蒼を好演。もともと武道を極めたアスリートであるからアクションのキレは言うまでもないが、前半は思い悩む少年像で、見る者をじりじりさせる。聞けば海外に拠点を置くらしいが、もっと日本映画で活躍してほしいものだ。アクションを含め、ぴったりはまるジャンル、作品はいくらでもある。

 もうひとり特筆したいのは松平元康(徳川家康)役の三浦春馬だ。ここでも凛としたキャラクターを素直に演じて好感度が高い。早すぎる死を悼むばかりだ。

 学園ものからサヴィヴァルもの、そして成長物語に決着する。エンターテインメントとして飽きさせない仕上がりだ。