シンプルなストーリーに散りばめる圧倒的なアクションとスタント。往年の香港アクションの醍醐味はここにあった。思い起こせばブルース・リーが先陣を切り、ジャッキー・チェンやジェット・リーが継承した、本物のアクションで勝負する系譜は紆余曲折があったにせよ、脈々と受け継がれている。
本物のアクションをこなせる最近のスターといえば、ドニー・イェン以外にない。ブルース・リーの師である葉問(イップ・マン)に脚光を当てた『イップ・マン 序章』をはじめとするシリーズで知られる本物の武道の達人だ。母親が有名な武術者で、幼い頃から厳しく指導されたといい、アクション監督、殺陣師として早くから頭角を現していた。
主演俳優として認知されたのは遅かったが、11歳から数年間、アメリカ・ボストンで暮らしていたこともあり、有名になってからはSF大作『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などにも出演。国を超えて武術のスキルを活かした作品で本領を発揮している。
ブルース・リーの信奉者である彼が、1980年にサモ・ハン・キンポーがブルース・リーにオマージュを捧げた『燃えよデブゴン』を念頭に生み出したのが本作となる。しかも副題にある通り、主なる舞台は東京。竹中直人や渡辺哲、お笑いコンビ“フォーリンラブ”のバービーなどの日本人俳優を交えて、痛快なアクション世界を構築したのだから嬉しくなる。
しかも監督となるのが香港スタントマン協会(香港動作特技演員公會)の一員で、ドニー・イェン作品をはじめとする香港映画にスタントマンとして参加している日本の谷垣健治。アクション監督として『るろうに剣心』シリーズなどを生み出してきた彼が、盟友ドニー・イェンのアクションスターとしての魅力をいかんなく引き出している。
共演は監督として『追龍』などの作品で知られるウォンジン(バリー・ウォン)、『イップ・マン継承』のルイス・チョン、『早熟 ~青い蕾(つぼみ)~』のテレサ・モウ、ダンサー、俳優として『ホテルローヤル』などで多彩な活動をみせる丞威、『新宿インシデント』の葉山豪など、多彩な顔ぶれを揃えている。
熱血刑事フクロンは、事件にのめり込む性格が災いし、ある事件で大失敗。現場から外され、証拠管理の部署へ異動させられる。
それでも事件を追う彼は、仕事に熱中し過ぎて婚約者との約束をすっぽかし見放されてしまう。
証拠管理というデスクワークに加え、暴飲暴食。半年後には、フクロンは肥満がひときわ目立つ“デブゴン”になっていたが、並外れた身体能力と正義に燃える心は消えていない。
事件の重要参考人を日本まで連行する任務を命じられたが、偶然、婚約者も東京の仕事で同じ飛行機に乗っていた。無事に着陸したものの、空港から東京に向かう途中、何者かに重要参考人を奪われる。
日本の警察、遠藤警部と協力することになるが、どうも胡散臭い。フクロンは新宿歌舞伎町に住むシウサーの協力のもと、単身で調査を進め、巨大な陰謀に立ち向かう――。
ストーリーはいわずもがな、熱血刑事が悪いやつらを叩き潰す爽快感に身を委ねればいい。ドニー・イェンと谷垣健治のコンビはひたすらアクションとスタントに力を入れる。冒頭、スマートなフクロンの颯爽たるアクションで掴みを取り、太ってからも身体のキレはいささかも衰えずにとことんの殺陣を繰り広げる。
もちろんセットでの撮影だが、歌舞伎町の街並みを活かしたアクションや、外国人の大好きな築地市場の大立ち回り。さらにクライマックスには東京タワーの鉄塔を背景にヤクザとの決戦までが用意されている。こんなことはあり得ないなんて堅いことは言いっこなし。ひたすら迫力本位。見栄えのするアクションをとことん追求して、この趣向に結びついたのだから。ここではドニー・イェンのキレのいい動き、蹴りや拳の迫力を堪能するのが正解だ。本作を見ると、つくづくドニー・イェンのアクションのキレの鋭さが実感できる。
谷垣健治の演出はひたすらアクションにフォーカスする。余分な要素は極力排除している。ここまで見切れば文句は出ない。この映画の眼目は、ひたすら武術者ドニー・イェンの魅力を映像に焼きつけることにある。96分の上映時間のなかで、テンポを切らさず、スピーディかつユーモラスに映像化したことを称えたい。
コロナ禍ながら、わざわざ正月に映画をみるなら、痛快無比、勧善懲悪、ユーモアも忘れないエンターテインメントがいい。往年の香港アクションの気分を復活させた本作をお勧めする所以だ。