『ワンダーウーマン 1984』はバブル期を背景に、どこまでも華麗で胸弾む、寓意に富んだアクション大作!

『ワンダーウーマン 1984』
12月18日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー、新宿バルト9ほか、全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

 コロナ禍で公開を差し控えるアメリカ映画にあって、本作は正月公開を断行した。アメリカン・コミック原作になる屈指の大作なのだから、『TENET テネット』の9月公開ともども、配給したワーナー・ブラザース映画の姿勢を称えたくなる。

 大作を来年公開に延期するばかりでは本当に映画館の灯は消えてしまう。『鬼滅の刃』の超ヒットをみれば、皆が映画を見たがっている、映画館に集いたがっていることは明らかだ。その気持ちを映画会社自身が水を差すことはない。むしろ、こんな時節だからこそ、魅力的なラインナップで勝負すべきではないか。

 本作は2,017年に世界中でヒットした『ワンダーウーマン』の続編にあたる。DCコミックスの実写化映画を、同一の世界観で扱う“DCエクステンデッド・ユニバース”シリーズの一環として製作されたこの作品は、なによりも、DCコミックの誇るスーパーヒロインの魅力で溢れていた。女性だけが暮らすアマゾン族の島に生まれ育ったプリセンスのダイアナが人間世界に出て、第1次大戦下での邪悪な敵と敢然と戦う。

 いささかも媚びない、凛とした姿勢を貫き、どこまでも強く美しい。

 ワンダーウーマンの設定はこれまでのスーパーヒロイン像のイメージを一新し、誰にも頼らずに道を貫くことの正しさをアピールした。孤高のヒーローは今までも数々いたが、孤高のヒロインというのは、なるほど新鮮だった。

 こうしたヒロイン像は女性監督パティ・ジェンキンスによって、極めて自然体の存在として描かれている。「女性だから」という構えたところもなく、ひたすら真っすぐにヒロイズムを謳いあげたところがみごとだった。全世界で支持されたことも納得できる。

 ジェンキンスは2003年に『モンスター』で長編映画監督デビュー。この作品で主演のシャリーズ・セロンがベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)、アカデミー賞主演女優賞に輝いたものの、ジェンキンスには次なる企画がなかなか実現せずに、テレビシリーズなどに活路を見いだしていた。女性のタフな貌をリアルに浮き彫りにする才能は『ワンダーウーマン』にも反映されていた。

 もちろん『ワンダーウーマン』の最大の魅力はヒロインにガル・ガドットを起用したことにある。イスラエル出身、178㎝。堂々たる体躯にこの上なく美しい貌の持ち主だ。あまりに整っているので、これまでは役に恵まれているとはいいがたかった。強いてあげるなら、『ワイルド・スピード MAX』から『ワイルド・スピード MEGA MAX』、『ワイルド・スピード EURO MISSION』の3本だが、ヒーローグループの一員という扱いに過ぎなかった。

 この戦いの女神に抜擢されてからは輝きが一変。この上なくパワフルで吸引力の強い女性として焼きつけられている。

 ガドットとジェンキンスのコラボレーションによって作品は大成功を収め、その余勢を駆って本作の登場となる。

 本作では舞台となる時代が1984年世界中が欲に取り憑かれ、誰もが金もうけに走ったバブル時代のはじまり。金を儲けたやつがヒーロー。金になるものなら何でも商売にした時代のなかで、ワンダーウーマンことダイアナは真にヒーローの強さを問われることになる。

 ストーリーを練ったのはDCコミックスのジェフ・ジョーンズとパティ・ジェンキンス。ふたりの編んだストーリーをもとに、『ゾンビランド:ダブルタップ』などで知られるデイヴ・キャラハムが加わった3人で脚本に仕上げた。さまざまな映像資料の残る近過去のこととあって、多少カリカチュアされた風俗が焼きつけられているのも楽しい。

 1984年、ダイアナはワシントンⅮCのスミソニアン博物館で古代の工芸品を扱う学芸員として働いている。古今東西、世界中からさまざまな遺物が集められる環境のなかで、ひっそりと暮らすダイアナは、新たなに加わった野暮ったい学芸員バーバラに手を差し伸べる。バーバラは輝くダイアナに憧れを抱く。

 まもなく博物館に一攫千金を狙うマックスが現われ、ある遺物をきっかけに、事態はやがて収拾のつかない危機に拡大していく――。

 ストーリーの詳細は見てのお楽しみにしておきたい。ジェンキンスと今回製作にも参加したガドットは1984年という時代を軸にして、欲のもたらす不幸をとことん突きつめてみせてくれる。

 映画はダイアナの少女時代のエピソードから幕を開け、勝負に勝つことは真にその資格を有する者のためにあるというメッセージが明示される。そこから価値観の揺らいだ1980年台の本筋に入っていく。

 1980年代は欲望に忠実なことが美徳とされていた。各々がストレートに欲望を求めた。こうした風潮の時代を背景に、映画は真のヒロイズムとは何かをテーマにする。

 望むものが何でも叶えられるとすれば、ダイアナは何を望んだか。それによって支払わなければならない代償とは何なのか。映画は克明に語ってくれる。

 さらにダイアナの敵になるキャラクターたちも、もとはごく人間的な性格の持ち主。それが欲望によって変貌し、世界破壊するパワーの持ち主となってしまう。

 この皮肉な展開こそが本作の核である。ジェンキンスとガドットの思いはここに込められている。時代はコロナ禍になって勢いは殺がれたが、欲望を優先させるトランプ政権のもとにある。2020年に公開する、この作品のメッセージは鑑賞すれば明らかになる。

 本作でもガドットの美しさは群を抜いている。あえて当時の流行にとらわれず、どこまでも毅然とした衣装に身を包んでいる。クライマックスの黄金の甲冑はまさにまぶしく輝いているが、ガドットの美貌は決して負けていないのが凄い。

 ヒロインの愛するクリス・パイン演じるスティーブも登場するが、目を引くのはバーバラ役のクリステン・ウィグと、マックス役のペドロ・パスカルだ。テレビの「サタデー・ナイト・ライブ」でコメディエンヌとしてブレイクしたウィグは『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』などで実力を発揮してきたが、バーバラ役は今までにない。哀愁と凄味を併せ持つキャラクターといえるか。

 同様にマックス役のパスカルはチャン・イーモウ監督作品の『グレート・ウォール』やテレビシリーズの「マンダロリアン」などのタフなイメージで知られてきたが、本作では欲に憑かれ、とことんまで疾走るキャラクターを熱演。怪物になっていきながらも、人間的側面も失っていないという、かなり難しい役どころに挑戦している。

 何はともあれ、正月には大作映画がふさわしい。どこまでも華やかで奥が深いこの作品をぜひお薦めしたい。


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