日本と同じくアメリカンでも、認知度の高さからコミックを原作にした映画の数は増加の一途をたどっている。そのなかで異彩を放っているのが『X-MEN』シリーズだろう。人類に疎まれ、差別されたミュータントの悲しみを前面に押し出した展開もさることながら、なにより群像劇のかたちをとっていることが特徴だ。
2000年に第1作『X-メン』が公開されて世界的ヒットを記録して以来、『X-MEN』、『X-MEN:ファイナル・デシジョン』と作品を重ね、2011年の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』では時代を遡って、X-MEN誕生秘話を描き出した。加えて、主要キャラクターであるウルヴァリンの単独での活躍を描いたスピンオフ『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』と『ウルヴァリン:SAMURAI』も製作され、葛藤に富んだX-MENの世界が複層的に構築されるに至った。
本作はスピンオフもふくめたシリーズの流れを継承しつつ、中心キャラクターであるプロフェッサーXとマグニートーの若き日と現在が登場する仕掛け。群像ドラマとして毎回、豪華なキャストが話題になるが、本作の華やかさは群を抜いている。
昨年、『レ・ミゼラブル』の熱演が話題になったウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンを筆頭に、プロフェッサーXにはテレビシリーズ「新スタートレック」のパトリック・スチュワート、若き日は『トランス』のジェームズ・マカヴォイ。マグニートーには『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでおなじみのイアン・マッケラン。若き日は『悪の法則』のマイケル・ファスベンダーが演じる。
さらに『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー主演女優賞に輝いたジェニファー・ローレンスが変幻自在のミスティークを演じれば、『チョコレート』で同賞を手中に収めたハル・ベリーが天候・気象を操ることができるストームに扮する。加えて『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジ、『ウォーム・ボディーズ』のニコラス・ホルト、『最強のふたり』のオマール・シー、『墨攻』のファン・ビンビンと、国際的な顔ぶれとなっている。
X-MENの現在と過去を巧みに繋ぎ、それぞれの見せ場を網羅したストーリーを生み出したのは、『キック・アス』や『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の脚本で注目されたジェーン・ゴールドマンと、その2作を監督したマシュー・ボーン。そして『ジャンパー』のサイモン・キンバーグの3人。このストーリーをもとにキンバーグが脚本に仕上げた。
監督は、シリーズ第1作と第2作を手がけ、異端者として生きることを余儀なくされたヒーローたちの悲しみと葛藤を画面に焼きつけたブライアン・シンガー。この上なく豪華なキャストが話題となって、全米では公開3日間で興行収入9070万ドルを記録し、公開された世界118カ国のすべてで興行チャートの1位を記録した。総製作費250億円。シリーズ初となる3D映像の迫力はなるほど凄い。
2023年、バイオメカニカル・ロボット“センチネル”が地球を滅亡に追い込んでいた。このロボットはミュータントを抹殺すべく開発されたもので、今や人類にも牙を剥いていた。プロフェッサーXは宿敵マグニートーと手を結び、センチネルの開発がはじまる1973年の時点で計画を断とうと考える。
彼らはキティ・プライドの能力を使って、ウルヴァリンの魂を50年前の彼の肉体に送り込む。開発者のトラスクが自在に変貌する能力を持つミスティークのDNAを手に入れる前に、若き日のプロフェッサーXとマグニートーを和解させて計画を封じ込めること。だが、プロフェッサーXは失意の底に沈んでいて、マグニートーはケネディ大統領暗殺の容疑で逮捕されていた。
ウルヴァリンはふたりを引き合わせ、手を結ばせて、ミスティークを護ることが出来るのだろうか。勝手の違う1973年のなかでウルヴァリンの時間刻みのミッションが続く。その一方、2023年には“センチネル”の総攻撃がはじまろうとしていた。魂を送りこんでいるキティ・プライドが倒れれば、ウルヴァリンも計画も水の泡となる。キティ・プライドとウルヴァリンを護るため、X-MENは総力を結集して、戦いに臨む――。
元を断つために50年前の過去に向かうという発想はいささか『ターミネーター』的で、安直な印象だが、19世紀から生きているウルヴァリンは当然、存在するわけで、なるほど魂を送り込むことで用は足りる。未だ爪の改造手術を受ける前のウルヴァリンがプロフェッサーXとマグニートーを説得し、独自に行動するミスティークを保護すべく、ベトナム戦争終結交渉が行われているパリやアメリカ本土を駆け回る展開は、まことに理屈抜きの楽しさに溢れている。
1973年の時間刻みのサスペンスがクライマックスの一大スペクタクルにつながっていくと同時に、一方で2023年のセンチネルとのバトルが用意され、文字通り、見る者は時代を超えたふたつのサスペンスの相乗効果に惹きこまれる。ドラマとしても、若き日のマグニートーの心情、プロフェッサーXの究極の選択、ミスティークの心の揺れが過不足なく描かれている。シリーズに登場したすべてのキャラクターが登場する趣向に思わずニヤリとさせられるが、今後、シリーズはどのように継承されるのか。最後のエピソードが何を意味するのか、興味が尽きない。
全米大ヒットも頷ける、サービス満点、最後まで飽きさせない仕上がりだ。本作の整合性を確認するために、シリーズ各作品をみておくと、より楽しめるはずだ。