『ボルケーノ・パーク』は火山大噴火をクライマックスにした問答無用の中国製パニック・スペクタクル!

『ボルケーノ・パーク』
11月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
© 2020 Meridian Entertainment (Foshan) Co. Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:http://volcanopark.jp/

 もはや中国の映画市場は世界最大となっている。アメリカ映画界はとっくに日本を見限り、プロモーションでも何でも中国優先のスタンスをとっている。少しでも中国人が喜ぶように中華系のキャラクターを作品に登場させることから始まって、次第に勧善懲悪、明快なアクションを志向するようになってきた。さらに経済力のある中国企業はアメリカ映画にどんどん出資し、中国人好みの派手な作品は増える傾向にある。

 もちろん、中国映画界も黙ってはいない。自国の作品に欧米の人気俳優や、スケールの大きなアクションを得意にする監督を呼び寄せる戦略に出たのだ。

 本作はその代表的な1本。アメリカ映画に一日の長があるアクション・スペクタクルの匠のなかから、英国出身のサイモン・ウェストを招き、ハラハラドキドキのエンターテインメントでヒットを狙おうという算段だ。監督デビュー作の『コン・エアー』でいきなり世界的大ヒットを記録したウェストは、その後も『トゥームレイダー』や『エクスペンダブルズ2』など、うるさ型のスターたちを巧みに指導したヒット作を誇る。なによりもCFの経験もあり、融通の利く感性の持ち主といわれる。中国映画界とのコラボレーションを組む人材としてはうってつけの存在といえる。

 若手の脚本家ブー・ウェイとシドニー・キングが知恵を絞ったストーリーは明快そのもの。オープンを控えた世界で初めての火山のテーマパークで大噴火が起き、人々に襲い掛かる展開だ。そのパニックに加えて火山学者の父娘の確執、テーマパークのオープンにすべてを賭けた実業家夫婦の葛藤などが散りばめられる。

 出演は『孫文の義士団』のワン・シュエチー、台湾から『スカイスクレイパー』で主演のドウェイン・ジョンソンを凌ぐ個性をみせたハンナ・クィンリヴァン。さらに中国本土からは『サンザシの樹の下で』のショーン・ドウ。イギリスからは『ホテル・ムンバイ』や『ハリー・ポッター』シリーズで知られるジェイソン・アイザックが参加している。

 火山学者のタオは、かつて“天火島”と呼ばれる火山島で調査中、大噴火によって同行していた妻を失った過去があった。

 それから20年。“天火島”には実業家のハリスの手で「活火山の上に建つ世界初の火山テーマパーク」という触れ込みの一大リゾートが建設されていた。

 タオはその危険性に警鐘を鳴らすが、タオの娘シャオモンは、父に抗いハリスの元で火山学者として働いていた。

 オープンを控えて、テーマパークは出資者たちでにぎわっていた、だが、島の火山を観測するチームはマグマの不穏な動きを発見する。シャオモンはパークの即時、閉鎖を訴えるが、成功を目前にしたハリスは無視する。

 噴火の前兆を察知したタオは娘の身を案じて“天火島”に急ぐ。だが“天火島”の噴火は予想をはるかに超える規模で人間たちに襲い掛かってきた――。

 サイモン・ウェストは94分間、小気味いいテンポで疾走する。最初から火山噴火の恐ろしさで観客を掴んでからは一気呵成。大噴火、火砕流、流れ来る溶岩のスペクタクルで押し通す。登場人物が多いわりにドラマ部分もほどよい長さで、決して深刻にならないのもいい。あくまでもパニックを高めるためのドラマに徹している。

 それにしても特撮を駆使した大災害シーンはアメリカ映画のスケールとまったく遜色がない。CG、VFX満載の画面がひたすら作品の緊張感を高め、最後の最後までスピードを緩めない。もちろん、ツッコミどころはあるが、堅いこと言わなければ十分に楽しめる。ジャッキー・チェンの映画よろしく、最後にNGシーンやメーキング映像が流れるのも楽しい。監督のサイモン・ウェストも中国人スタッフ、キャストと和気藹々の仕事ぶりを披露している。

 中国製大作映画はとかく悲壮感漂う愛国精神の内容が多いのだが、ウェストがメガフォンを取ると、誰もが楽しめるエンターテインメントとなる。現在はメジャーのアメリカ映画は開店休業状態。となれば、スケールや製作費では負けていない、こうした中国作品の出番となる。ウェストのような匠にとっては、まさに中国は絶好の仕事場となるはずだ。

 出演者ではタオに扮したワン・シュエチーが底知れぬスーパーマンぶりを発揮して、ヒーローとして確固たる存在感をみせれば、シャオモン役のハンナ・クィンリヴァンがアクション、スタントもこなし、美貌にさらなる魅力を付加する。テーマパーク実現に燃える実業家ハリス役のジェイソン・アイザックスもいつものアクの強さに加えて、人間味を滲ませてみせる。このキャスティングは悪くない。

冒頭から最後までサスペンスを絶やすことなくひた走る。小難しいメッセージもなく、ただ面白くつくろうとの意図が嬉しい。正月にふさわしい作品だ。