『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』は20世紀アメリカ文学の異端児の軌跡を綴る、素敵なドキュメンタリー。

『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
11月6日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
配給:ミモザフィルムズ
©2019, Hatch House Media Ltd.
公式サイト:http://capotetapes-movie.com/

 伝記ドキュメンタリーの面白さは、当たり前のことだが、軌跡を辿る人物の魅力に左右される。見る者を惹きこむような偉業を成した人物、あるいはスキャンダラスな軌跡を歩んだ存在であれば思わず食指が伸びるはずだ。

 本作は題名を見れば分かるように、20世紀アメリカ文学界を賑わせた作家、トルーマン・カポーティの波乱に満ちた人生を綴ったドキュメンタリーである。初めて彼の名を記憶したのは1961年、オードリー・ヘップバーン主演の『ティファニーで朝食を』からだった。 

 さらに1967年のリチャード・ブルックス作品『冷血』の原作、ニール・サイモンの脚本が素敵な『名探偵登場』では出演もしてみせた。その他にも1953年のヴィットリオ・デ・シーカのメロドラマ『終着駅』、1953年のジョン・ヒューストンの『悪魔をやっつけろ』、1961年のホラー『回転』の脚本に名を連ねている。映画界に足跡を残したばかりか、テレビ番組にも出演して当意即妙のキャラクターをアピール。ニューヨーク切っての人気者として知られるようになる。

 2005年の『カポーティ』ではフィリップ・シーモア・ホフマンがカポーティに扮し、「冷血」執筆時の軌跡をくっきりと描き出した。シーモア・ホフマンがアカデミー主演男優賞に輝いたことも記憶に新しい。本作はその実像に迫ろうとの試みである。

 カポーティは第2次大戦後のアメリカで最も華やかな軌跡を歩んだ作家だった。19歳の時に執筆した「ミリアム」が評価されて“アンファン・テリブル(恐るべき子供)”と称えられ、「遠い声 遠い部屋」で本格的に作家の道を歩みはじめる。

 ミュージカルのオリジナル戯曲や作詞、ノンフィクションを手がけた後、「ティファニーで朝食を」を発表。流行作家として人気を博すとともに、持ち前のウィットと衆目を惹きつける容姿によってニューヨーク社交界を闊歩するセレブリティとなった。その当意即妙のコメント、毒舌はマスコミからもてはやされ、さらに知名度を高めることになった。

 さらに1966年に発表された「冷血」はノンフィクション・ノベルの傑作と謳われた。しかしカポーティは作家として高みを目指し、「叶えられた祈り」を発表。ニューヨーク社交界を背景にしたスキャンダラスな内容が激しい論議を巻き起こした。実在の人物を赤裸々に描いた内容から、社交界からは追放され、友人からは見放される。

 カポーティはアルコールと薬物に走り、60歳になる1ケ月前に心臓発作でこの世を去った――。

 本作は1997年に出版されたジョージ・プリンプトンの評伝「トルーマン・カポーティ」(新潮社で翻訳されている)の取材テープの声から幕を開ける。プリンプトンのこの評伝はカポーティにゆかりの人たち、関係者、知人、批判者にまで取材し、膨大な証言を集めた労作。本作の監督を務めたイーブス・バーノーは、この取材テープをもとに、新たな取材を敢行し、カポーティの軌跡を立体的に浮かび上がらせている。

 バーノーはオバマ政権時のホワイトハウスでソーシャル・セクレタリーを務めた経歴の持ち主。これが初監督となるが、製作にも名を連ねたホーリー・ホイストンとともに脚本をつくりあげ、膨大な数の記録映像と新たに撮影したインタビュー映像を紡いでいる。なにせカポーティ自身がマスコミの格好の対象だっただけに映像には事欠かない。それをいかに厳選するかが監督の腕の見せ所になる。

 カポーティが「冷血」の完成を記念して1966年11月28日にニューヨークのプラザホテルで主宰した、20世紀最高と謳われた伝説のパーティ「黒と白の舞踏会」の様子が伝わる映像をはじめ、随所に20世紀アメリカの息吹を感じさせる映像が盛り込まれている。

 作家からテレビキャスター、セレブなど、登場する人物の多彩さに目を奪われると同時に、彼らの注目の的だったカポーティの魅力が立ち上がる。ゲイであることを隠さず、社交界の頂点にいた彼が、なぜ自らの立場を危うくする危険のある小説を発表したのか。バーノーはカポーティの複雑な心の裡に迫っていく。

 映像とともに挿入される音楽も素晴らしい。英国のミュージシャン、マイク・パトゥが音楽を担当し自作の曲を挿入しているほか、ジョン・コルトレーンやディージー・ガレスピー、ベニー・ゴルソンの名曲の数々、ラムゼイ・ルイスがヒットさせた「The In Crowd」などが英国中心のメンバーによって新たに吹き込まれている。

 映像と音楽の相乗効果といえばいいか、時代を知っている者にとっては胸が熱くなる。カポーティの心の軌跡に迫る、ミステリアスな文芸ドキュメンタリーである。